【CFPが解説】「治療を受けているはず」不適切な思い込みが生む治療給付金支払対象外のまさか|がんの備え

【がんを知らない担当者がおススメするがん治療給付金を収入保障目的で加入するリスク】

要約

近年がん保険の保障の中で主流になりつつある『治療給付金』。がんの3大治療など指定された治療を受けた際に、1か月あたり10万円や20万円といった金額を受取れる保障です。以前のがん治療は入院を伴う治療が多かったのですが、現在は通院でもがん治療が可能になってきており、こういった入通院を問わず治療に対して給付してくれる保障が人気になっていて加入する人も増えているようです。ただしこの保障に対し誤った期待をして、がんが悪化してしまった時にその期待が裏切られるという事態が起こり得ます。それはこの治療給付金をがんが悪化し仕事ができなくなった時の収入減少、消失への備えで加入した場合のことなのですが、本来適切ながん保険選択をサポートする保険担当者の側がそれを推奨しているケースがあります。この『治療給付金』はその名のとおり治療に対する保障で、収入保障にはふさわしくありません。なぜならがんでは体調が悪化した際に、治療を中断または中止するというシナリオがあるからなのですが『仕事ができない状態=当然治療を受ける』という保険担当者の思い込みからこういった不適切な保険選択につながる可能性があるため要注意です。実際そのシナリオがどういったものか、そしてがん保険を選ぶ際にどういったことに注意しなければならないか、一緒にみていきたいと思います。

この記事は

■がんについて気になりだしている
■おススメのがん保険について知りたい
■保険ショップへ相談に行こうと思っている

といった方のためにまとめてあります。このコラムを読むことで

●がん治療費などのがんのお金のこと
●おススメであがってくるがん保険の治療給付金
●がん保険選びにおける担当者選別の重要性

ということについて知ることができます。

ここ数年でよく目にするようになったがん保険の『治療給付金』という保障。がん治療を受けたら、毎月10万円や20万円という金額を受取ることができる保障です(回数無制限のものも)。

がんの抗がん剤治療などは数か月、数年単位で通院治療が続くケースがあり、そういったシナリオにおいて安心感があるという印象を持つ方も多いかもしれません。

そしてこの『治療給付金』をがん治療の影響で仕事ができなくなった場合の収入保障としておススメする保険担当者がいるようですが、それには危険性があります。収入への保障として勧められる理由は

仕事ができない状態=治療を受けているはず
⇒だから治療給付金が支払われる

という決めつけがあるからなのですが、これは保険担当者ががん治療の実態を知らないことで引き起こされる不適切な保険選択といえます。

来店型保険ショップなどに保険相談に行った場合には、最新のがん治療の実態を学んでいる担当者からの情報をもとに判断することがとても大切です。そういったことについて、なぜ大切なのか事例とともに一緒にみていきたいと思います。

まさに今、『保険ショップでがん保険の相談』をしようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。

担当者おススメの『治療給付金』主体のがん保険に加入

千葉県船橋市在住、会社員で41歳の坂田ひかるさん(仮名)。

坂田さんは大学卒業以来大手小売業の会社に勤め年収は約550万円。5年前現在暮らしている分譲マンションを購入し、現在も住宅ローンを返済中です。貯蓄は約700万円で、老後不安もあり毎月5万円程度貯蓄も行ってきました。

坂田さんは養っている家族がいるわけではなかったため、生命保険については必要性を感じていなかったものの、30代半ばに同世代で乳がんなどを患う著名人の存在からがん保険については気になっていました。

そしてちょうどマンションを購入する時期、自宅の最寄り駅近くにある来店型保険ショップに相談に行くことに

坂田さんの担当者は同年代の女性と思われるスタッフで、名刺にはファイナンシャルプランナーの記載もあり信頼できそうな印象でした。

実際丁寧にがん保険の基本や様々な商品の比較説明をしてくれて、坂田さんはその時期のおススメのがん保険に加入しました。

がん保険加入3年後大腸がん発症でそのありがたみを実感

マンションを購入し新居での生活を楽しみつつ仕事も順調にこなしていた坂田さんですが、3年前の健康診断の便潜血検査で『要精密検査』の判定が。大腸の内視鏡検査を勧められすぐに検査を受けたのですが、結果はまさかの大腸がんの診断。

まだ手術が可能な段階ということで、坂田さんは主治医の勧めに従い手術を受けることを決めました。約2週間の入院期間で手術は無事に終了。がんはきれいに取り除けましたが、再発リスクがあるため引き続き抗がん剤治療を受けていくこととなりました。

ちなみに坂田さんが相談に行った来店型保険ショップで担当者からおススメされ加入したがん保険は下記のとおりです。

がん治療給付金 20万円(月に1回を限度)
がん診断給付金 50万円(2年に1回を限度に回数無制限)
がん入院給付金 入院1日あたり10000円(日数無制限)
がん通院給付金 通院1回あたり5000円(通算120回を限度)
がん先進医療給付金 がん先進医療の技術料相当額(通算2000万円を限度)

坂田さんは退院後すぐにがん保険の請求手続きを行いましたが、加入中のがん保険の保障のうち①②③からトータルで84万円のお金を受取ることができました。

入院時は気兼ねなく療養するため、1泊15000円の個室に入りその費用が約20万円、医療費関係は高額療養費の事前申請をしていたため約10万円、合計で30万円少々の自己負担額となり会計時にいったん支払いましたが、後日がん保険からのお金が入金され、最終的に50万円程度お金が余ることに。

がんの入院・手術なので貯蓄をかなり取り崩すと思っていた坂田さん。がん保険のありがたみを強く感じました。

そして退院後しばらくした後、約1か月に1回の通院で抗がん剤治療を行っていく予定でその際には、①と④が給付対象との説明を保険会社のコールセンターで受けて先々への安心感も得ることができました。

おススメの『治療給付金』が機能しない想定外のシナリオへ

定期的に主治医のもとへ通院しながらも今までどおり仕事に行って日常生活を送っていた坂田さんですが、1年ほど前に肺への転移が見つかりあらためて抗がん剤治療を行っていくことになりました。

治療は引き続き通院で行う予定で、通院の日は会社を有給休暇で休んで病院へ行く予定です。会社も仕事とがん治療の両立に対して理解があるため、坂田さんもその点は助かっています。

がん転移後の治療においても加入しているがん保険の『治療給付金』から1か月あたり20万円の給付があり経済的な面でも安心して治療に向かうことができています。

ただ最初の頃の通院では受取れていた『通院給付金 1回あたり5000円(通算120回を限度)』の保障に関しては、退院後120日までの通院が支払い対象のため、今回は入院を伴わない治療のために通算120回に至っていませんが給付金を受取ることはできません

そして、最初の入院手術時に50万円の一時金を受取った『診断給付金 50万円(2年に1回を限度に回数無制限)』に関しても、前回から2年が経過していますが2回目以降はがん治療で入院することが条件のため、やはり受取ることができません

ただ抗がん剤治療費の自己負担額は1回あたり約4万円なので、がん保険の治療給付金からのお金でまかなえていておつりがきている状態です。

そんな具合で転移のがんを克服すべく治療を受けていた坂田さんですが、以前の抗がん剤治療の頃よりも副作用が強く出るようになってきて、だんだんと体調不良により会社を休みがちになりました。

坂田さんが担当していた仕事は外回りが多く、それなりに体力が必要となるものだったのですが、会社の上司と相談し、あまり体力を必要としない事務職への配置転換に。

それにより肉体的な負担は減ったものの残業がなくなり月の収入は数万円減少してしまいました。

その減少した分をがん保険の治療給付金がカバーしてくれていて、がん保険加入時に担当者がいっていた『治療費に使い残った分を収入保障に』というアドバイスがあったことを思い出し、いい担当者に出会えたことに感謝の念が湧いてきました。

副作用で体調悪化し治療がしばらく中断に

強い副作用にもかかわらずがん克服のために懸命に耐えて治療と仕事を続けていた坂田さん。ただ治療後しばらくは体調面が整わず仕事を数日単位で休まざるを得ない状況になってしまいました。

仕事を休むことに罪悪感があったものの、職場の人々は坂田さんに対し理解があって助かるのですが、とうとう有給休暇も使い果たしてしまい、休んだ分はただの欠勤となり給与収入がさらに下がることになってしまいました。

ある時の抗がん剤治療の後は副作用がとても強く、回復がかなり遅かったため1週間全て欠勤という事態になり、健康保険の『傷病手当金』を申請する流れになりました。

収入への不安がかなり大きくなりましたが、この傷病手当金とがん保険の治療給付金で経済的には今までどおりの生活が続けられています。

ただ傷病手当金は最長1年半までの給付ということなので、回数無制限のがん保険治療給付金が本当の頼みの綱という感じがしてきました。

そのように感じながらがん治療を続けてきた坂田さんですが、副作用による体調不良もさらに悪化してきた感があり、長く治療を続けてきたことによる体力低下も顕著で、治療の継続が難しいと感じるようになってきました。

そんな状況を次の診察時に主治医に伝え、血液検査の結果を見たところ抗がん剤治療を継続することが適切ではない数値であったこともあり、そこからしばらく治療を中断して体調や体力の回復を待つこととなりました。

治療中断で治療給付金の受取りも中断に

体調がすぐれず仕事もしばらく休職することとなった坂田さん。傷病手当金からあと数か月は給付を受けられる予定ですが、金額は今までの月収の50~60%程度。住宅ローンの返済もまだまだ長く続く予定で、がん団信に加入しなかったことを後悔しました。

しかしそのかわりにがん保険の治療給付金が回数無制限で保障をしてくれると安心感を持っていた坂田さんですが、いざ事態が非常に厳しくなってきたところで衝撃の事実を知ることになります。

治療の中断が決まった前回の診察分の保険の請求をしようと、いつもの保険会社コールセンターに問い合わせたところ「今回は所定の治療を受けていないということなのでお支払いの対象外となります」という思いもよらない回答が。

冷静になってみれば当たり前のはなしですが、治療給付金は治療を受けたことに対してお金を受取れるものです。

この治療給付金の説明を受けた時に担当者から「仕事を休むほど体調が悪ければ治療を受けているはず」といったはなしがあり、坂田さんも「たしかにそうだ」と感じ、治療給付金を仕事に出られず給料が稼げない時の収入保障として選んだことを思い出しました。

担当者の思い込みで引き起こされる不適切な保険選択

今回の事例の坂田さんは、がん保険の治療給付金という『がん治療を受けたら月に1回20万円受取れる保障』を治療費への備えだけでなく、収入が得られない時の収入保障という目的で加入していました。

治療の前半においてはほぼ毎月続いていた通院治療でお金を受取り、治療費をまかないかつ減少した収入を補填できて非常に助かっていました。

ところが体調が悪化して収入が得られなくなった時に治療も中断となり期待していたお金を受取れないというとても辛い結果を招いてしまいました。

保険加入に対する考え方はそれぞれあってもよいとは思いますが、原則的には『最も厳しいシナリオに対して経済的な保障をしてもらう』ということが保険加入の目的だと私は考えています。

つまりがんの保障においては、がん闘病中において経済的に最も厳しい状況、まさに今回のように仕事ができず収入が得られない状況をあらかじめ想定し、そこに対して保険で保障するかどうかを検討すべきといえます。

そういった意味で今回のような事例は加入時点でのがん治療に対する想定に問題があり、保険加入した坂田さんががん保険選択時に提供された情報が不適切であった可能性があります。

保険担当者はがん保険に関する知識は当然持っていますが、がん治療の実態について詳しい知識を持っているかどうかにはバラツキがあるものと考えられます。

根拠のない『治療を受けているはず』は不適切

一般的に体調が悪くなったり何か病気の発症があれば、治療を受けることが当たり前という感覚はあるかと思います。ところががんの場合、体調や体力が整わないため治療を中断・中止するという選択をすることがあります。

2023年11月、ミュージシャンで自らの大腸がんを公表している桑野信義さんがそれまで行っていた抗がん剤治療を中止したことを自らのブログで発信したことが報道され話題となりました

理由は吐き気や下痢など重い副作用に悩まされていたということですが、こういったことは実際に起こり得ることです。

また、がん患者さん自身は治療を受けたいと思ったとしても血液検査の結果などから医師の方から治療の中断を指示されることもあります。

こういった現在のがん治療に関する情報を入手することはそれほど難しいことではありません。ですが自らそういった情報に触れ知識を高めようというアンテナを張っていなければ得ることはできません。

そういった情報を持たずに安易に『がんが悪化していれば治療を受けているはず』という思い込みで保障選択に関するアドバイスをすることは不適切といえるかもしれません。

『治療給付金』で収入保障は不適切

近年がん保険の主流になりつつある『治療給付金』。その保障内容は

がんの3大治療(手術・放射線・抗がん剤)を受けたとき、月額10万円をお支払い

といった内容のものが一般的です。また、がん保険商品によって

■3大治療が公的医療保険制度の対象に限られるものと自由診療も含むもの
■3大治療だけではなく緩和ケアの治療も支払い対象とする

といった違いがあります。月額の金額も5~30万円など自分で選べるものが多くあります。

がんの生存率が高くなっていることから治療も長期化している傾向があり、当然ですがその分累計の治療費も高額になっていきます。そういったことを考えると、こういった治療給付金の保障でがん治療費に備えるということには一定の合理性があると考えられます。

ただしその際に注意すべきこと。それは『治療給付金はあくまでがん治療費の支払いのために加入する』という加入目的を忘れないことです。

先ほどの事例のとおり、体調が悪化しているにもかかわらずがん治療を中断・中止するケースがあります。治療を受けない限り治療給付金は全く機能しません。

受取る金額を高めに設定することで『治療費支払いをしてもお金が余るようにして、それを収入減の補填に』というアドバイスをする保険担当者もいるようですが、場合によってがん治療の実態をそれほど知らない中で語っている可能性も否定できません。

適切ながんのお金の備えのために

がん治療は肉体的な苦痛を伴うこともありますし、メンタル的に大きなダメージを受ける場合もあります。そして『がんはお金がかかる病気』ともいわれます。

そのために人はがん保険に加入するのですが『実際がんになってしまった時に期待していたお金が受取れなかった』ということが起きてしまうと、そのショックは小さくないことが想像されます。

保険で最も起きてはいけないこと、それは『受取れると思って請求した保険が支払対象外だった』ということです。

ですからがん保険に関していえば、最新のがん治療の実態とがん保険の保障内容をよく照らし合わせて適切な保険商品とプラン選びをすることが非常に大切です。

そのためにあなたにアドバイスを提供する保険担当者がいるのですが、担当者のがん治療の実態に関する知識レベルにはバラツキがあることが考えられます。

今回の事例にあったとおり、万が一担当者から提供される情報が不適切であった場合、あなたのがんへの備えも不適切になってしまう恐れがあるのですが、がん保険などがんの備えを考えるうえで大切なことが2つあると、私は考えています。

がん保険はあくまでがん治療費保険

まずがん保険は万能保険ではないということを知っておく必要があります。

がん保険はあくまでがんになってしまい病院で治療を受けた際の治療費をカバーするための保険であることを押さえていただきたいと思います。

今回の事例のように、がん保険の治療給付金でしばらくの間は減少した収入の補填として機能することはないわけではありません。ですがすでに述べたように、保険は最も厳しいシナリオの時に助けになるべきものだと、私は考えています。

ですからもしがんのお金に対する備えを考えた時に、収入対する影響を保険でカバーしたいと考えたならば、それにふさわしい適切な保険種類を選択しなければなりません。

一般的に『がんの保険はがん保険』という印象があるかもしれませんが、実は他にも選択肢は存在します。

つまり実際にがん保険などがんの保険について検討する場合には、まずは必要な情報を揃えることが必須となります。ただ現実として必要な情報すべてを自分で学ぶとなるとかなり難しい可能性もあります。

【再重要】早めのサポーターの確保

そういった意味で「適切ながんへの備えの保険を選択したい」と考える方に対して贈るメッセージとして

早いうちから相談できる人(場所)を確保する

ことがあげられます。

今回のような事例に対する専門家としては『がんや医療への備えを専門とするファイナンシャルプランナー(FP)』の存在があります。またがんに詳しい保険担当者なども選択肢としてあげられるかと思います。何か専門的なことを相談したいと思った時に

どこで、誰に相談できるのか?

ということがわからないことも少なくありません。そういった選択肢を知っておくことも実は大切です。

30代40代といった若いうちから、必要な情報とスキルを学びながら将来(老後)への備えを築いていく、そのために気軽に相談できるサポーターを早めに確保しておくことをおススメいたします。

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