【CFPが解説】「なんで私が乳がんに...」絶望感から会社を早期退職もその後に味わう2つの想定外|がんの備え

【『がん=死』のイメージが生む過度の恐怖からの会社の早期退職とその後の社会復帰へのカベ】

要約

それまで健康に自信をもって過ごしてきた41歳会社員に突然訪れた乳がんの診断。『まさか自分が乳がんに...』のショックは大きく、絶望感に包まれたメンタル面の影響から、手術を待つまでの待ち期間に会社を退職してしまう。幸い乳がんは早期段階で手術も無事に終了、そして医師からがんでも5年10年と仕事をしながら生きている人もたくさんいることを知り安堵。ところが健康面の安心感を得た半面、今度は再就職にカベがあることに気づく。国のがん対策においても課題となっているがん患者の就労支援。その現実をもとにがんになってしまった時にとってはいけない行動、またそうならないために何が必要か、みていきたいと思います。

この記事は

■最近職場でがんになった人がいて怖さを感じた
■40代になりがんについても気になりだしている
■がん保険に入った方がいいのか?と考えている

といった方のためにまとめてあります。

このコラムを読むことで

●会社員ががんになった時に大切なこと
●がんの備えには何が必要か?
●がん保険でがんは安心なのか?

を知ることができます。

『がん=死』というイメージでがんをあまり想像したくないという方も多いかもしれません。ですが今、がんは治る時代になったともいわれています。もちろんがんには怖さがありますが、『がん=死』というイメージだけで目を背けてしまうことには危険もあります

その理由は

本当にがんの診断を受けた時に早まった行動をとってしまう

可能性があるからなのですが、がんの実態を知らなければ正しい行動選択をすることができません。そして不適切な選択をしてしまったことにより、がん治療がうまくいったとしてもその後の生活に問題を抱えてしまうことがあります。 是非がん保険の相談に行った時には、がん保険の説明や商品比較だけでなく、最新のがんの実態を学んでいる担当者からがんに関する知識を得ることがとても大切です。

そういったことについて、なぜ大切なのか事例をもとに一緒に見ていきたいと思います。

まさに今、『保険ショップへがん保険相談に行こう』と考えているあなたへ、お届けしたいはなしです。

乳がん罹患で収入を失い実家を頼ることに

東京都練馬区在住、現在無職で41歳の秋山恭子さん(仮名)。

秋山さんはシングルで現在は実家で両親とともに暮らしています。仕事は大学卒業後に入社した建設会社で20年近く事務職として勤め、年収は約430万円でしたが半年ほど前に自主退職。住まいは都内で独り暮らしをしていましたが、経済的な事情で1か月ほど前に両親を頼り実家に戻ってきました。

秋山さんが会社を退職してしまった理由ですが、実は退職の1か月ほど前の精密検査で乳がんの診断を受けたことです。その後入院手術を経て治療は無事に終わり、術前・術後の検査を通じて早期の乳がんであったことがわかり現在は定期的な検査を受けるだけで、日常生活にほとんど何も支障がない状態に回復しています。

乳がんが早期段階で他への転移などもなく無事に治療が終わったことに今はほっとした気持ちにもなれているのですが、一方で、乳がんの診断は秋山さんにとって青天の霹靂で当時は立ち直れないほど落ち込んでしまい、当時早まった行動をとってしまったことを現在では悔やんでいます。

絶望感に打ちひしがれ会社を退職

秋山さんは40代に入ってから会社の健康診断の時に乳がん検診も合わせて受けるようにしました。ただこれは秋山さんの意思ではなく、会社からの強い推奨があったことや仲の良い同僚たちも受けるというのでそれに合わせていた程度のものでした。秋山さんは自分自身の健康状態に自信があり、また乳がんを始めとするがんはまだまだ先で、老後になってからの話しというイメージを持っていました。

ところが検査結果が送られてくるとそこには『要精密検査』の判定が。今まで乳がん検診も含め健康診断で要再検査などの判定を受けたことがなかった秋山さん。よりによって乳がん検診で初めて『要精密検査』判定を受け、急に不安が高まってきました。すぐに検査の予約を入れたのですが、検査日までは2週間ほど日にちがあり、その間に不安感はどんどん高まりました。

検査後も極度の不安状態が続く中で検査結果を聞きに行ったのですが、診察室に入り目の前にいる白衣を着た初老の医師から

「秋山さん、残念ながら乳がんがみつかりました」

と告げられました。不安の中でもわずかながら『異常なし』という回答を期待していましたが、結果は不安が的中してしまいました。ショックで頭の中が真っ白になり、その後医師が何を話し自分がどう感じたのかなどは、今では全く記憶にありません

そしてそこから実際手術を受けるまでは2か月ほど待ち期間があったのですが、この手術を待つ時間が絶望の気持ちを増幅させてしまい、仕事にも行けなくなり最終的にがんの告知を受けてから約1か月後、会社に退職することを伝えました。

全く想定外だった乳がん手術後の2つのシナリオ

乳がん罹患のショックで会社を退職してしまった秋山さん、退職後約1か月後に入院して乳がんの手術を受けました。秋山さんは仕事を辞めてしまうほど心が絶望感に覆われていたので、医師や看護師さんは「心配ないですよ」といってくれるものの、「ただの気休めだ」と感じ「これで私の人生もおしまいか…」などといったことを考えていました。

ところが手術が無事に終わり、周囲がやさしく接してくれたことで秋山さんはだんだんと落ち着きを取り戻します。そして術後の検査を通じて秋山さんの乳がんは早期段階、がんの転移の可能性も低いということで特に治療の必要はなく、今後は定期的な検査で経過を見ていくことになりました。

『がん=死』という強いイメージを持っていた秋山さんですが、無事に退院し日常生活に戻っていく中でがんに対する認識が大きく変わっていきます。そして2つの想定外を味わうことになるのですが、ひとつはよい想定外、もうひとつは悪い想定外です。この2つの想定外ですが、がんの備えという観点からはできれば事前に2つとも知っておきたいものです。なぜならがんに対する誤った認識でその後の生活が大きく変わってしまう可能性があるからです。そういった結果を招かないために、以下で秋山さんが感じた2つの想定外について確認したいと思います。

がんなのにふつうに生活できる

まず秋山さんの乳がんに対する想定外の1つ目は、がんにもかかわらず退院してしまったら今までどおりの日常に戻ったということです。

当初は、がんがひとつ見つかるとあっという間に全身にがんが広がって、常時寝たきりで入退院を繰り返しながら最期を迎える、そんな思い込みをしていたのですが全くそういうわけではないようです。医師によると早期の乳がんであれば5年10年と仕事をしながら生きている人もたくさんいることを聞き、大きな安心感を得ました。

また入院期間も8日間と短かったのも予想外でした。数か月の入院となり経済的な負担も大きくなると同時に、ずっとベッドで寝たきりで体力も落ちてしまい、いろいろなことが自力ではできなくなり周りに世話にならなければ生きていけなくなるものと想像していましたが、こちらも誤解であったことがわかりました。

そして乳がんの手術で切除をすると、乳房を失い肉体的だけではなく精神的にもつらい思いをするといった情報をインターネットで見てそれも大きな不安要素でしたが、秋山さんは部分切除で済んだため、手術痕はあるもののそこまで深刻になるものではありませんでした。

手術前はもうおしまいだと思っていましたが、がんの再発や転移がなければ元気に長生きしていけるという希望も出てきて、当初の絶望的なまでの不安は少しずつ消えていき、落ち着いたら仕事について社会復帰をしなければという気持ちになりました。

思いもよらなかった社会復帰へのカベ

乳がん手術から退院しリフレッシュのため数週間のんびり過ごした秋山さん。乳がんの診断を受け絶望感から会社を辞めてしまったため、再び就職活動をするため情報収集を始めました。長く事務職を続けてきてPCスキルもそれなりにあるので、同じ事務系の仕事であればそこまで再就職も難しくないだろうと思っていました。

そして同じころ請求していたがん保険から銀行口座にお金も振り込まれました。秋山さんは入社したての頃に、上司の勧めもあり会社の団体契約で下記のがん保険に加入していました。

■がんの診断を受けたら50万円
■がんで入院をしたら1日あたり5000円
■がんで手術を受けたら1回あたり10万円
■がんで通院したら1回あたり5000円

保険会社からの案内を確認すると、がん診断の50万円、入院8日間の4万円、手術の10万円の合計で、受取額は64万円。入院費用は12万円程度の自己負担で済んだため50万円程度手元に残りました。今まであまり貯蓄をしておらず、退職して給与収入もなくなっていたところなので、秋山さんにとってこのお金は非常に助かりました。

もちろんそのお金だけでいつまでも暮らしていくことはできないので、秋山さんは就職先を探し条件がよさそうな会社のいくつかに応募して面接も受けてきました。いくつか受ければどこかしらに採用されると思っていたのですが、どこからもよい結果が来ません。秋山さんの2つ目の想定外は、がんで退職してしまうと社会復帰が簡単ではないとうことです

面接時に自分自身のことを正直に伝えるべきと思い、がんのことを公表していましたが10社目からの不採用の結果を受け、がんのことを隠したままにした方がよいのではといった悩みが出てきました。なかなか思うようにいかないまま2か月以上経過し、秋山さんは疲れてきてしまい再び不安を感じることに。

そしてそれと同時に手元の資金も減ってきてこのままの状態が続くと生活自体が成り立たなくなってしまう恐れが出てきました。最初はがん保険のお金で助かったと感じましたが、もうがん治療の予定がないためこれ以上はがん保険からのお金も期待できません。そのため秋山さんは両親に相談して現在の賃貸マンションを退去し、実家に戻ることを決めました。

盲点の収入消失へのリスク管理

今回の事例で秋山さんはまさかの乳がん罹患を受け、想像以上の不安と絶望感から治療が始まる前に会社を辞めてしまった結果として収入を失い、健康面やがん治療費ではなく日々の生活費に対する不安が発生してしまいました。

実はこのような事例は決して珍しくはありません。がんが身近でない人にとっては、がんの診断直後の退職は現実的ではないかもしれませんが、そこまで冷静さを失わせるところががんの特殊性といえるかもしれません。それくらい日本ではいまだに『がん=死』というイメージがあるのだと思います。

確かにがんは不治の病として位置づけられていた時代はありますが、それは遠い過去のはなしです。

出所:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」を基に筆者が作成

上の図は国立がん研究センターが発信しているデータですが、現在ではがんの5年生存率はがん全体で60%を超えています。がんの種類によってその数値は変わってきますが、女性で最も罹患者数が多い乳がんでは90%を超えていますし、さらに今回の事例の秋山さんのように早期の乳がんの場合にはほぼ100%となっています。

こういったデータからもがんになってしまったからといってそれでおしまいではなく、治療を終えてそれまでどおりの日常生活が戻ってきますし、がん患者さんによっては通院でがん治療を受けながら日常生活を送っている人も少なくありません。

ですからがんの診断を受けたとしても日々の日常はそこからも長く続いていくため、生活を支えていく毎月の収入については失うわけにはいきません。

国のがん対策のひとつ『就労支援』

出所:厚生労働省ホームページ

日本にはがん対策基本法という法律が存在するのですが、これは国全体でのがん克服のために平成18(2006)年に成立した法律です。それに基づき現在は『第4期がん対策推進基本計画』というアクションプランが策定され様々な施策が行われています

この計画の中に『がん患者さんの就労支援』が明記されているのですが、国のがん対策で明記されるということはそこに問題があるということです。第4期がん対策推進基本計画の『就労支援について』という項目の中で以下のような記述があります。

平成30(2018)年度に実施された患者体験調査では、がんと診断を受けて退職・廃業した人は就労者の19.8%を占めており、そのうち初回治療までに退職・廃業した人は56.8%となっている。

現在1年間に約100万人の方ががんの診断を受けるといわれていますので、決して少なくない人数が治療開始前に退職・廃業しています。国のがん対策では、現在ハローワークにキャリアコンサルティングなどの資格を持つ専門の就職支援担当『就職支援ナビゲーター』を配置し、がん患者さんなどの就職支援策を行っています。また、企業に対しても

国は、がん患者が治療と仕事を両立できるよう、中小企業も含めて、企業における支援体制や、病気休暇、短時間勤務や在宅勤務(テレワーク)など企業における休暇制度や柔軟な勤務制度の導入等の環境整備を更に推進するため、産業保健総合支援センター等の活用や助成金等による支援、普及啓発に取り組む。

という方針で様々な働きかけをしています。

あわてて会社を辞めてはいけない

しかし国のこういった取り組みはまだ始まったばかりですし、現実にがん患者さんの再就職には課題が残っています。やはりがんになってしまったからといってあわてて会社を辞めるべきではないということがいえると思います。

実際会社員の人が会社を退職すると失うものが少なくありません。例えば

■有給休暇制度
■病気休暇制度
■休職制度
■傷病手当金制度

などが代表例です。もちろん会社によってどこまであるかは違いますが、有給休暇や傷病手当金はどこでも共通の制度です。また、所属している職場で理解があり独自でサポートをしてくれる場合もあります。例えば出社が難しい場合にリモートワーク対応にしてくれるなどが近年ならではのものですが、ひとまずひとりで抱え込まず相談することも大切であるといえます。

ただ先述したとおり、何もない冷静な状態であれば難しくないようなことをできなくさせてしまうのががんの特殊性でもあります。いざという時に少しでも落ち着いた対応ができるために大切なことが、あらかじめ『がんを知る』ことです。

がんが怖い病気という印象はあるかもしれませんが、がんは今治る時代にもなってきているといわれていること、またがんになってしまってもがんと向き合い仕事や日常生活をふつうに生活を送っているがんサバイバーの方もたくさんいることを知っておくことで、万が一自分自身ががんの診断を受けてしまった時のショックを緩和できる可能性があります

がんの備えのベースは『がんを知る』こと

先述したとおり国は今、第4期がん対策推進基本計画をもとに様々ながん対策に取り組んでいます。ただこの計画の冒頭では以下のような記述があります。

がん患者を含めた全ての国民ががんに関する正しい知識を持ち、避けられるがんを防ぐことや、誰もが、いつでもどこに居ても、様々ながんの病態に応じた、安心かつ納得できるがん医療や支援を受け、尊厳を持って暮らしていくことができるがん対策を推進すること

太字にしたところが非常に重要なのですが、まず『国民ががんに関する正しい知識を持ち』と述べています。国も様々な対策をとりますが、国民に対しても『がんを知って下さい』というメッセージを発しています。

事例にあったように、誤った思い込みにより衝動的な行動に出て厳しいシナリオを招いてしまう可能性があるのががんの特殊性です。『がん=死』というイメージと同時に、日本にはいまだに『がんの備え=がん保険』と思っている方もいます。

私は過去に約9年間、がん患者の家族として過ごしました。そこを通じてがんを学んできたのですが、そこから強くお伝えしたいことがあります。それは

がん保険は必要ながんの備えの10%程度でしかない

ということです。是非事前にがんのことを知り、がん保険だけではできない適切ながんの備えをしていただきたいのですが、そのために大切なことを2つお伝えしたいと思います。

の事例においては不適切な保険選択が原因でがん治療が長期化した際に必要な保障が得られないという事態が起こってしまったのですが、仮に最初に適切な保険加入ができていたとしても、実はがんへの備えに関してはそれだけでは不十分ということがいえます。

がん保険などがんの備えの保険加入において早めに知っておくべきことが2つあると、私は考えています。

がんに備える3つの力

ひとつ目はがんと向き合っていくためには3つの力が必要であるということです。その3つの力とは

① 精神力(メンタル)
② 知識力(情報)
③ 経済力(お金)

の3つです。

がん診断のショックの中でも適切な判断をするためには精神的な安定が大切ですし、納得して治療を選択するためには治療情報など知識が必要です。そして治療費や生活費など安心して暮らしていくためには当然経済力も欠かせません。ちなみにがん保険は『③ 経済力』を構成する一部です。なぜ一部かというと、がん保険はあくまでがん治療費への備えであるため、今回の事例で生じた生活費への備えにはなりません

適切にがんに備えるために事前にこの3つの力を、最新のがん情報に応じて準備することが必要なのですが、常にがんに関する最新情報を得ることは簡単ではないかもしれません。

【再重要】早めのサポーターの確保

がんは情報戦ともいわれますので、常に最新の情報をもとに備えをすることが大切ですが、もし自分で情報収集することは難しいが、がんに対しては適切な備えをしておきたい、と考える方に対して贈るメッセージとして

早いうちから相談できる人(場所)を確保する

ことがあげられます。

今回のような事例に対する専門家としては『がんや医療への備えを専門とするファイナンシャルプランナー(FP)』の存在があります。またがんに詳しい保険担当者なども選択肢としてあげられるかと思います。何か専門的なことを相談したいと思った時に

どこで、誰に相談できるのか?

ということがわからないことも少なくありません。そういった選択肢を知っておくことも実は大切です。

30代40代といった若いうちから、必要な情報とスキルを学びながら将来(老後)への備えを築いていく、そのために気軽に相談できるサポーターを早めに確保しておくことをおススメいたします。

Follow me!