がん保険の選び方|『がん保険に入っていて助かった!』を正しく理解する必要があるというはなし

がんの治療を受けられた方で、『がん保険に入っていて助かった!』ということを話す方がいます。私は過去に10,000件以上の保険相談会に携わってきました。相談者の中に、親、親戚、友人ががんになってしまい、その後あのセリフとともに『がん保険入っておいた方がいいよ』といったアドバイスをもらったという方もけっこういらっしゃいました。

もちろんこの『がん保険に入っていて助かった!』というセリフは、そのがん患者さんの本当の実感だと思います。そして、それをきっかけに他の人ががんの備えについて、考えるきっかけになることも良いことだと思います。ただし注意点は『おススメのがん保険に入っていればがんは安心!』とは思わないでいただきたいということです。

そこで今回は、一般的ながん保険で助かったと感じる場面と、助からない可能性がある場面について、考えていきたいと思います。

まさに今、『がん保険に入っているから、がんは安心!』と思っているあなたへ、お届けしたいはなしです。

がん保険とは何の保険か?

この質問を受けた方は、『何を聞いているんだ?がんの保険でしょ』と思うと思います。一般の方がそうおっしゃったら私は「そのとおりです」と認めます。ですが、がん保険を扱っている人(保険会社や保険代理店の人)が、そう答えたとしたらそれは問題であると思っています。

がん治療費のための保険

様々ながん保険商品があるので、100%ということは言えないのですが、一般的にがん保険は、『がんの治療費のための保険』です。がんは、治療費にお金が掛かると言われているから、それでいいのではないか?と思うかもしれません。そのとおりです。それでいいのです。がん保険の役割は、がんの治療費に備えることなのです。

ただ、いつの間にか、『がん保険に入っているから、がんは安心!』となってしまうケースがあり、本当にがんになってしまった時、期待を裏切られることになり兼ねません。これについては、あとで述べますが、基本的に、『がん保険に入っているからがん治療費には一定の経済的安心がある』というように、とらえていただきたいと思っています。

がん保険で助かるケース

実際に『がん保険に入っていて助かった…』と感じるケースの例をあげたいと思います。感じ方は人それぞれなので、一概には言えないという前提はありますが、基本的に

わりと早期の段階でがんが見つかり、入院・手術により、がんをうまく切除できてた場合

がひとつの例かと思います。そして、その後数か月程度の通院治療と検査を行い、あとは半年に1回の経過観察のみでよいとなるケースがあります。そうであれば一般的ながん保険に入っていれば、治療費を十分まかなえ入院中の諸雑費や通院の交通費も払えて、おつりがくるケースも多いと思います。

お金の面がこの程度で済みかつ体調も良くなって、無事に仕事復帰もできたとなれば『がん保険入っていてよかった!』と感じると思いますし、他の人にもがん保険を勧められると思います。

がん保険では助からないケース

がん保険では十分お金をまかなえず貯蓄を取り崩し、場合によって生活が困窮するケースもゼロではありません。この場合ももちろんがん保険から一定の給付は受けられますが『がん保険入っていて助かった!』とは思わないかもしれません。

それがどういったケースで起こるか?ひとつは、がん保険が古かった場合です。そして、もうひとつは、がん治療が長期戦になった場合です。どちらも現実に起こっていることです。

がん保険が古かった場合

まずがん保険の保障内容が、最新のがん治療に対応していないケースがあります。がん保険に加入していれば、がん治療何でも助けてくれるというイメージもあるかもしれません。ところががん治療は日進月歩で変化していっています。それが理由で請求をした時に『今回の治療は支払対象外です』という、私が保険で一番起こってはいけないと思っていることが起こり得ます。

これは保険全体にいえることでもあるのですが、基本的に保険は世の中の変化についていくことは難しいと認識しておく必要があります。特にがんでそれは強いと思っています。私は2018年に対応した50代男性のお客様から『がんは若い時に会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』と言われました。30年前のがん保険だと、もし今がんになって治療を受けたとしても、がん保険から1円もお金が出ない可能性があります。それくらいがん治療最前線は変化をしています。(※1)(※2)

がん保険は定期的にメンテナンス(見直し)をしないと、助かるどころかつらい思いをすることになる可能性があります。

(※1)30年前のがん保険とその後のがん治療の変化については、過去の記事「がんの備え|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い」を、是非ご覧ください

(※2)終身保障のがん保険については、過去の記事「がんの備え|『終身保障か?定期保障か?』がん保険を選ぶ際の、ひとつのポイント、保険期間についてのはなし」を、是非ご覧ください

生活費が困った場合

次にがん治療が長期戦になったケースです。長期戦になるということは、一般的には途中で再発・転移などが確認されるケースです。もし最新のがん保険に加入した直後にがんになってしまった場合には、長期戦の治療費を払い続けてくれるかもしれません。ただし長期戦ということは数年単位、場合によって10年経過してから再発などというケースもあります。最初にがんの診断を受けた後にがん治療のトレンドが変わっていく可能性はあり得ます。

そして治療内容とはかかわらず、がん保険の限界がくる場合があります。それは長期の治療で肉体的・精神的な苦痛から仕事が継続できず、収入を失ってしまうケースです。冒頭、がん保険は『がんの治療費のための保険』と申し上げた理由がこれです。なかには生活費へ充てることもできる保障もありますが、一般的にはがん保険で生活の維持まで期待することは困難です。がん保険はがん治療費のための保険と正確に理解しておく必要があります(※3)。

(※3)がんになった時の生活の維持については、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください

がん保険は、保険

冒頭、がん保険は何の保険?ということに触れましたが、同じようなことをもうひとつ。がん保険や医療保険は何ですか?というもの。上に書いたとおり、がん保険は『保険の一種』です。では保険とは何か?もしあなたが今最新のがん保険に加入し

『これでがんは安心だ!』

と感じているとしたら、念のためこの後も読み進めていただきたいと思います。

治療費などお金を賄うもの

『保険』は何か万が一のアクシデントが起こった時に、経済的な助けをしてくれるものです。がん保険の場合は、一般的にがん治療費をあなたに代わって払ってくれるものです。一般的にがんはお金が掛かるといわれていますので、がん保険からお金が出ると『助かった!』と感じます。ただしあくまで経済的にです。

もちろん経済的な安心は精神衛生上においても大切です。がんの診断を受けてしまったが、お金も保険もない状況であれば大きな不安を感じるかもしれません。その不安があると「頑張って治すぞ!」という前向きな気持ちになれないかもしれません。そういった意味でお金があることも大切だと思いますから、がん保険という安心も検討に値すると思います。

保険が治してくれるわけではない

ただしがん保険は直接がんを治してくれることはありません。治す手段である、あくまで『治療』に関する費用を助けてくれるものです。がんは治る時代になったと言われますがそれは昔に比べればというはなしで、がんはまだまだ分からないことが多く治療法も完璧には確立されていません。

がんが治った時に心から『助かった!』と感じると思います。そうなんです。お金がいくらあっても助からなければ喜べません。人によっては大金を積んで東京のがん専門の大病院へ行けば、治る確率が高いと感じるかもしれません。でも現実はその大病院へ行った人が、すべて助かっているわけではないのです。それは、その病院が良い悪いではなく、がんがまだまだ難しい病気だということです。

ただ治すためにベストを尽くしたいと思ったら、納得して治療を選択することが大切だと思います。現状のがんの状況を主治医の先生から説明を受け、治療の提案を受ける。その先生にお任せして納得してその治療を受けるのか?それとも違う選択肢とも比較して、自分で選びたいのか?それは人それぞれだと思います。この納得感はその後の治療の結果に対する受け入れ方に影響を与えると思っています。それはがん患者の家族という立場を体験した私の実感です(※4)。

(※4)納得する治療選択については、過去の記事「がんの備え|『がん患者の家族』を経験して初めて分かった、がんに関しての情報の出どころを学んでおくことの大切さ」を、是非ご覧ください

がんを知ることの大切さ

がん保険に入っているだけでは、自分で納得して治療を選ぶことはできません。それをするためにはがんがどういう病気なのか、日本の医療のルールがどうなっているか、がん治療にはどのような選択肢があるのか?ということをあらかじめ知っておく必要があります。がんになってからだと精神的にも追い込まれていきますし、主治医の先生から提案された治療を受けるかどうか、すぐに決断を迫られます。あらかじめがんのことを知らないと、そこで落ち着いた行動をとることは難しいと私は思います。

がんへの備えとかがんへの安心とは、こういったがんに対する情報を持ち合わせているということも、大切だと思います。現在のがん情報を持ったうえでどういった展開があり得るか?それに対してがん保険が必要なのかどうか?必要であればどういったものが望ましいか?ということが見えてくると思います。

自分のがん保険の保障を知る

そういった意味で、もしあなたがすでにがん保険に加入しているのであれば、ご自身の保障が今のがん治療の実態に対し、どの範囲までをカバーしているのか確認していただきたいと思います。特に加入から年数が経過している場合、今のがん治療では支払ってくれない保障があるかどうか、注意深くチェックする必要があります。

また長期戦になってしまった際の生活を維持していくための備えがどうなっているか?ということも確認事項です。がんは家族単位での戦いになるともいわれています。がんになってしまったとしてもあなたとあなたの家族の暮らしへの安心があるかどうか、検証していただきたいと思います。

保険相談時を大切に

ただしがんに対する最新情報と照らして考えるとしても、どこから情報を得たらよいのか難しいかもしれません。まだ何もない時点で、病院へ行って教えてもらうわけにもいきません。ではどうするのがよいか?是非、保険の相談時を活用していただきたいと思います。もしすでに加入済みであれば加入当時の担当者へ相談することをおススメします。

是非その機会にあなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなくがん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても、情報を得て正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※5)(※6)。保険商品のはなししかできない人は、がんについてしっかり学んでいない可能性があります。もしはなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとることをおススメいたします。

(※5) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください

(※6) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

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