がん保険の選び方|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い

何気なく日々を過ごしていた時に、自分の思いを強くしてくれる出会いや出来事があったりしたこと、ありますでしょうか。

現在私はがんへの備えを専門とするFP(ファイナンシャルプランナー)として、相談者のお悩みを聞き、問題解決のためのアドバイスをしています。もともとは、生命保険、医療保険、学資保険、自動車保険、火災保険など、保険全般を扱う立場にあったのですが、今はがんへの備えに特化して活動をしています。

特にがんにこだわりを持つきっかけとなった人物がふたりいて、ひとりが乳がんを患った母。約9年間にわたって、がん患者の家族という立場を経験し、当時、がんに関する正しい知識を全然持たず、ほとんど力になれなかった苦い経験。そしてもうひとりが、生命保険の相談で私が担当させていただいた、ある50代の男性でした。

この男性の相談業務を通じて、がん保険を扱うにあたっての責任の重さ、そしてがん保険の相談を通じて本当にお客様に伝えなければいけないことはなんなのか、ということを学びました。

そこで今回は、がん保険を持つことにおける注意点、がん保険の賢い選択、そして本当のがんの備えとは?ということについて、一緒に見ていきたいと思います。

まさに今、『がん保険に入っているから、がんは安心』と感じているあなたへ、お届けしたいはなしです。

30年前のがん保険は、30年前のがん治療への安心

その男性が、私が運営していた、東京都江戸川区の来店型保険ショップへご相談にいらっしゃったのは、2018年、少し暑くなりかけ始めた、5月のある日曜日でした。

生命保険の見直し

その男性は、その年の春、3人いらっしゃるお子さんのうち、一番下のお子様が就職して独立、無事に3人のお子様を育てあげて、肩の荷が少し楽になったところでした。今まではご夫婦、子供3人の、5人家族の家計を支えていたので、死亡時に数千万円が支払われる死亡保険を中心とし生命保険に加入していました。月々の負担(保険料と言います)も、3万円台と決して安くはありませんでした。

ご相談内容を伺うと、こうおっしゃいました。

『子供が全員独立したから、もう死んで何千万とか、そういう保険は必要ない。それよりも夫婦の老後へ向けて、医療関係の保障を中心としたプランに見直しをしたいんだ。それと10年ごとに保険料(毎月の負担)が上がっていくようなものでなく、一生変わらないタイプにしたい』

と。非常にしっかりとしたお考えをお持ちだなという印象を受けつつ、その後もおはなしを聞いていきました。

がんは安心なんだ!

老後へ向けての医療というキーワードもありましたので、私は途中で

『がんへの備えについてはいかがですか?』

とお聞きしました。するとタイトルにあるセリフがお客様から出てきました。

『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!だからがん保険は見直すつもりもないので、今日は保険証券も持ってきていない』

と。

今50代半ばの方が20代の時、つまり30数年前に加入したがん保険ということで、すぐにどんな内容のがん保険かがわかりました。ただお客様は、ご自身のがん保険を大切にしたい、見直すつもりはないと思っているのに、こちらから強要してしまうことは、あってはなりません。実際そのような無理な勧誘があるということが、保険業界の嫌なイメージにもなっています。

ですから私はお客様にこう言いました。

『そのがん保険、見直さなくても結構です。○○様が望まない限り、私の方からがん保険の提案をすることは絶対にしません。ただし、必ずこのタイミングで、そのがん保険の内容を確認してもらいたいのです。ですから次回、内容確認のために保険証券をお持ちください』

と。

お客様も承知してくださり、翌週2回目の相談時に、そのがん保険の内容を確認いたしました。そして、そのがん保険に加入した時期のがん治療と、今のがん治療の実態が大きく変化していることをお伝えし、今のままではがんに対する安心は得られていないことをお客様にもご理解いただきました。結果そのがん保険は残しつつも、死亡保険を減らして浮いた保険料の一部を使って、足りないと思われるがんの保障を追加する形で見直しを行いました。

がんの治療はどう変わったのか?

がんに限らず、30年という時間が経過すれば、いろいろな分野において大きな変化が起こります。例えば30年前ですと私は高校生ですが、その当時携帯電話を持っている高校生は1人もいなかったと思います。私の同級生の多くはポケベルを使っていました(私は持っていませんでしたが)。今は小学生でもスマホを持っています。一方で固定電話を持たない人が増えています。このように通信の世界でも大きな変化が起きました。

がんを取り巻く環境やがん治療の実態も大きく変化しています。

入院期間が短くなった

がんへの備えを考えるうえで、がん治療における30年前と今の違いのひとつに、

入院の短期化

があげられると思います。これには大きく2つの原因が考えられ、ひとつが

国の政策

があります。これは、がんを含めた国民医療費の増大という、社会保障制度を維持していくための課題があり、その抑制のために、長期でずっと入院状態にしても、病院側が十分な診療報酬をもらえなくなるシステムに変わりました。そのため、手術が終わり一定のリハビリが済んだら退院という傾向になり、実際私の母も、2011年に乳がんの手術で入院しましたが、その日数はわずか8日間でした。

そして、退院後、抗がん剤やホルモン剤治療も続きましたが、入院しなくてもできる治療はすべて通院で受けることとなりました。ちなみに放射線治療もすべて通院で受けました。

医療技術や薬の品質の向上

もうひとつの原因は

医療技術や薬の品質の向上

です。以前は、手術といえば先生がメスで身体を大きく切ってがんを切除するような手術が主体でしたが、腹腔鏡、胸腔鏡、内視鏡、そしてロボット支援手術など、身体にメスを入れる箇所を最低限にして、患者さんの身体の負担を小さくする手術方法が増えてきています。そのため、術後の回復も早くなり、退院までの時間も早くなっています。

また、抗がん剤などの薬品も、以前は副作用がものすごく強く、入院を伴って行っていましたが、今も副作用はあるものの、その身体へのダメージは以前よりは小さくなっています。また、副作用を抑えるための薬剤もあり、抗がん剤治療も外来治療で済んでしまうことが多くなっています。

30年前のがん保険の内容とは?

がんになっても長期の入院ではなく、外来通院も増えてきている。人によっては全く入院なしということもあります。では、30年前のがん保険は何が問題なのか?それを知っておくことが重要です。

入院と死亡保障のみ

その男性が30年前に加入したがん保険の内容ですが

がんと診断され…
・がんの治療のために入院したら、入院1日当たり、40,000円のお支払い
・がんで死亡したら、家族(受取人)に200万円のお支払い

というものでした。これが30年前のがん保険です。当時はこれで合理性があったわけです。がんの治療の主体は手術で、しかも長期の入院を伴ってました。また、手術が無事に終わっても、引き続き入院で抗がん剤治療をしていましたので、数か月単位の入院が一般的でした。ですから、がん患者さんやその家族の負担ですが、

がん治療費=がんでの長期の入院費

といっても良かったと思います。ですからがん保険の主体も、入院して1日あたり40,000円という形が、大きな備えになっていました。そして、昔は『がんは不治の病』とも言われていました。ですから、数か月に及ぶ闘病の結果、最終的にお亡くなりになることが多かったので、死亡保障にも一定の意味がありました。

しかし私の母は、約9年間のがん闘病期間中、入院は最初の手術で8日間、最後の時期に肝臓転移の手術で2週間程度、トータル1か月も入院していません。この約9年間、ずっと病院にはかかっていましたが、その2度の入院以外、全て外来通院で治療が行われました。また、がんになってからも約9年間過ごすことができました。

その時代にあった備えを

今30年前の携帯電話の端末を持っていても、たぶん今使用することはできません。たとえできたとしても、通話機能しかありませんから、ほとんど機能しないと言ってもいいと思います。がん保険も同じことなのです。若い時に加入して、月々の負担(保険料と言います)が安い、しかも一生涯の保障で生きている限り安心。がん保険のCMでもそのようなフレーズを耳にしますが、機能しない保険を持っていても、お金の無駄になってしまいますし、何より

がん保険に加入していて、仮にがんになっても安心だ!

と思っていたのが、実際がんになって、万が一外来治療でできる『放射線治療+抗がん剤治療』という治療を選択したとしたら、保険会社にがん保険の給付金請求した時に

今回は、がんでの入院、がんでの死亡にも該当しないので、支払対象外です

と言われることになります。がんになった時のためのがん保険。それにもかかわらず、がんの治療を受けたのに、お金が払われない。このいざという時にハシゴを外される行為が、保険の世界では決してあってはならないことだと私は思っています。

まして、患者さん、そしてそのご家族に、大きな精神的、肉体的、経済的ダメージを与えるがんという病気であればなおさらです。

理想的ながんの保険とは?

がん治療の実態は、現在進行形で変化しています。この数年でも、免疫療法、遺伝子治療、光免疫療法など、新しい治療方法が次々に世に出てきています。なぜここまで変化が起こるのか?それはがんはまだわからないことが多い、そのためがんの治療方法が確立されていないからなのだと思います。

陳腐化しない保険を

治療の実態が変わるたびに、がん保険を見直していくということは、あまり現実的ではありません。なぜなら常に保険のことばかり考えるということは簡単ではないからです。本当は一定期間ごとに、見つめ直しはした方が良いと私は考えていますが、多くの方にとって、それは面倒なことだという思いもあると思います(※1)。

だとしたらどうしたらよいか?時代の変化に影響を受けづらいがん保険を選ぶことが、ひとつの対策になります。実はがん保険には、大きく2種類あります(※2)。ひとつは、先ほど出てきたような、

がんと診断され…
・がんの治療のために入院したら、入院1日当たり、40,000万円のお支払い
・がんで死亡したら、200万円のお支払い

というような、がん診断後、『○○したら』とう条件が付くがん保険です。最近のがん保険ですと、

がんと診断され…
・抗がん剤治療を受けたら、1回あたり、10万円のお支払い
・放射線治療を受けたら、1回あたり、20万円のお支払い

などというように、外来通院に対応できるものが主流になっています。ただし、どうしても『○○したら』という条件が付くので、それに該当しない治療が出てきたら、がん保険が陳腐化します。

もうひとつの種類のがん保険は、

がんになったことに対してお金を払ってくれるがん保険

です。具体的に言うと、

がんの診断を受けたら、100万円のお支払い

というタイプのがん保険です。治療をするかしないかにかかわらず、がん診断だけでまとまった一時金を受け取れるタイプのがん保険です。がんになったことに対して払ってくれるので、治療が変化しても支払対象外ということが起こりません。こういったタイプの方が、安心感は大きいと思います。

冒頭の私のお客様も、この一時金タイプのがん保険を追加する形で、がんに備えていただきました。

※1 がん保険の見つめ直しについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険の見直しは必要?』見直しはしなくても、見つめ直しは必須、というはなし」を、是非ご覧ください

※2 がん保険には、大きく2種類あるということについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険、一括前払い? or 都度都度事後払い?』どちらのタイプ?それとも…?というはなし」または、「がんの備え|取扱い注意!がん保険には、2種類ある。その選択次第で、がんになった時の備えが変わってくるというはなし」を、是非ご覧ください


保険は変化に弱い

今回ご紹介した私のお客様から学んだことは、保険に入っているということ自体で、安心感を得ている方もいらっしゃるということです。もちろんそれが保険の役割でもあると思うのですが、保険は変化に弱いという性質を持ちます。なぜなら契約時の保障内容が変わることはないからです。昭和の時代と比べ、あらゆる分野において、変化のスピードは早くなっている気がしますが、皆様もそう感じませんでしょうか。

今回はがん保険がテーマでしたので、がん保険だけのはなしになりましたが、真のがんへの備えという観点でものを考えると、がん保険にも一定の限界を感じます。がんという病気は、治療費でお金がかかるという側面もありますから、がん保険もその点では一定の役割を果たせます。

しかし、それ以外にもメンタル的な負担もありますし、あとがんは情報戦ともいわれますので、治療選択のための情報収集の負担も出てきます。また、がんのお金は、治療費だけではなく、仕事ができず収入を失うことによる、生活費の困窮というケースもあります。このレベルになると、がん保険ではおそらく力不足となります(※3)。

私はこのお客様との出会いで、がんへの備えのはなしについての真剣さが変わりましたし、より深く勉強するようにもなりました。これからも私が出会ったお客様へは、より深い安心を持っていただけるようなアドバイスを提供していきたいと思っています。

※3 がんでの生活困窮に関しては、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください


がん保険相談時を大切に

今日本では、毎年約100万人の人が、あらたにがんの診断を受けていると言われています。多くの人が、がんは怖いと感じていると思います。そして多くの人が『がんの備え=がん保険』と思っているように、私は感じています。

もしがんが怖いと感じるのであれば、がん保険に入る前に、まずはがんのことを知るということから始めていただきたいと思っています。どういったシナリオになるかを知らずに、『がん保険に入ったから安心』ということが成り立ちますでしょうか。

日本でも今、学校でのがん教育が始まっています。しかし、すでに社会人になった方が、がんの情報を得る場はなかなかありません。ただ、確実にがんのはなしができる場面として、がん保険相談時があります。保険ショップなどに相談に行けば、がん保険を選択するにあたって、様々なアドバイスをもらえる可能性があります。是非その機会を大切にしていただきたいと思います。

がん保険や生命保険の相談の機会に、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなど、実際がんになってしまった時の影像が浮かぶ情報を得ながら、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※4)(※5)。

がんと聞いて、がん保険商品の選択肢しか出せない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします(※6)。

それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。

(※4) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください

(※5) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

(※6) 生命(がん)保険相談のセカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」を、是非ご覧ください

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