【CFPが解説】お金のムダ『使う機会のないがん保険』Part2 古すぎるがん保険編|がん保険の選び方
【一生涯の安心と思い込んでいるといざという時機能しないがん保険の存在】
要約
多くの方が加入するがん保険。そのがん保険でよく目にする『終身保障』というキーワード。一生涯の安心というキャッチフレーズが魅力的に映りますが、実際は加入してから時間が経過すると保障が陳腐化し、本当にがんになってしまった時に十分な保障が得られない可能性があります。どうしてそういったことが起きるのか、その注意点について見ていきたいと思います。
この記事は
■終身保障のがん保険に加入し『がんは一生安心』と感じている
■がん保険に加入したのが10年以上前
といった方のためにまとめてあります。
このコラムを読むことで
●がん治療のトレンドは常に変化していくこと
●古いがん保険では最新の治療に対応できないこと
がわかります。
『一生涯の安心』といったキャッチフレーズが魅力的に映る終身保障脳がん保険ですが、20~40代といった比較的わか時に加入して、そのまま放置状態という方も少なくありません。
そうなってしまう原因のひとつに
実際がん保険を使う機会がないから実感できない
ということがありますが、だからこそがん保険加入時に
・がんという病気の特徴と治療の実態の変化
・がん保険の契約を続けるうえでの注意点
について、適切な情報を得る必要があります。加入したがん保険を長期で放置してしまったことによる怖さ、本来どのように備えをしていくことが大切なのか、ということについて事例を交えて一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『保険ショップで終身保障のがん保険を選択』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
がん転移の時まさかの支払対象外
東京都江戸川区在住、フリーランスでライターとして働く40歳女性の遠山美穂さん(仮名)
遠山さんは約4年前、早期の乳がんが見つかり手術を受けました。幸いその時にはがんの転移は確認されず、術後一定期間、薬の治療を行い、それからは半年に1回経過観察の検査を受けて、特に異常はなく過ごしていました。
ところが4か月前の検査の際、全身へのがんの転移が発覚しました。全身への転移のため、手術を行うことはできず
抗がん剤治療
という薬による治療が主治医から提案され、遠山さんも同意し、本日4回目の治療を受けたところです。
約1か月に1回病院へ通い、日帰りで主治医の診察と抗がん剤治療を受ける。4回を1セットとし、経過を見ながらそれを継続していくということです。
この先も治療が継続する予定ですが、ひとまずこのあたりで1回がん保険の請求をしようと、自宅へ戻った後保険会社のコールセンターに電話したのですが、そこでまさかの回答が…。
「今回の治療に関してはお支払いの対象外です」
入院が前提の昭和のがん保険
遠山さんはがんの転移が見つかり抗がん剤治療を受けてきましたが、その治療は健康保険が適用となる標準治療と言われるもので、決して特別な治療を受けたわけではありません。
ところが遠山さんのがん保険からは、支払い対象外という回答。どうしてこのようなことになったのでしょうか。
遠山さんが加入しているがん保険ですが、実は遠山さんが子供の頃に父親が付き合いのある代理店で加入してくれていたもので、就職後契約名義を遠山さん本人に変更して今まで継続してきたものでした。加入した時期は、今から約30年前のことになります。
そしてその保障は
・がんの診断を受けたら100万円(1回限り)
・がんで入院したら1日あたり1万円
・がんで手術を受けたら1回あたり20万円
・がんで通院したら1回あたり5千円(14日以上の入院後の通院に限る)
といった内容です。
通院に対する保障がありますが、カッコ書きで「14日以上の入院後の通院に限る」という記載があります。
今回遠山さんは全く入院することはなく、すべて通院で治療は完結しているため、加入しているがん保険では支払対象外という結果になってしまいました。
入院しなくても治療はできる時代に
遠山さんは、初めてがんが見つかった際には
・がん診断で100万円
・入院8日間で8万円
・がんの手術で20万円
合計で128万円を受け取りました。入院費用や通院費用すべて払ってもおつりがきたため、父親ががん保険に入ってくれたこと、またそれを自分で継続してきたことを良かったと感じました。支払ったがん治療費よりも大きな金額が残ったため、快気祝いに家族で旅行も楽しみました。
そういったこともあり、自分がとても良いがん保険に入っているという安心感も生まれ、内容を特に精査することもなく今に至り、今回の支払対象外という結果に愕然としました。
なぜ遠山さんのがん保険には、通院治療の保障に対し
「14日以上の入院後の通院に限る」
といった条件がついていたのでしょうか。
実は遠山さんが加入しているがん保険が発売された時代、今から約30年前ですが、がん治療は入院を伴って行うことが一般的でした。ですから、その時代に発売されたがん保険も入院治療に対してお金を受け取れるタイプが主流でした。
ところがそこからがん治療の実態が変化し、通院によるがん治療が増えてきています。ですから最近新たに発売されているがん保険は、入院・通院を問わず、がん治療を受けたらお金を受け取れるといったタイプがスタンダードになっています。
終身保障は一生涯の安心という思い込み
遠山さんががんの診断を受ける前、がん保険に入っていること自体に安心感を持ち、見直しが必要かどうかといった疑問がわかなかったことの要因のひとつに、父親から言われたフレーズがあります。
それは
『終身保障のがん保険だから生きている限り安心』
ということです。
がん保険には
・10年など一定期間だけの保障の「定期保障タイプ」
・生きている限り保障が継続する「終身保障タイプ」
の2種類があります。
遠山さんが加入しているがん保険は後者で、パンフレットにも
一生涯の安心
といったキャッチフレーズが記載されています。
生きている限り安心と聞いた遠山さんは、このがん保険があれば一生がんから守ってもらえるという思いになった可能性があります。
ただし、終身保障のがん保険の意味は正確に捉えておく必要があります。それは、終身保障は一生涯の安心ではなく
一生涯契約が継続する
という意味であるということです。
がん治療の変化と終身保障のワナ
私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりました。その中でがん保険の相談もたくさん受けてきました。
その中には遠山さんのように、20年30年以上前に加入したがん保険を継続していて、
「このがん保険は終身保障で、月々の負担が安い若い時に加入したものなので、見直さずにこのまま継続したい」
という意向を持った方も少なくありませんでした。確かに保険は加入年齢が高くなると、毎月負担するお金(保険料)が高くなるという性質があります。毎月の保険に対する経済的負担(保険料)はできる限り抑えたいので、そういった気持ちになることも致し方ないかと思います。
ただし、加入しているがん保険の保障内容が、その時代のがん治療の実態に合っていなければ、保険としての機能を果たすことができなくなる可能性があるという点はとても重要です。 特にがんの場合、世界中で新しい治療方法や薬の研究が行われていますので、その実態は日進月歩で変わっていく可能性があります。
平均入院日数の変化
遠山さんのがん保険が古かったために、がんの転移の際に役に立たなかった背景となったことのひとつに
入院日数の短期化
があげられます。
がんが身近でない方ほど、がんになってしまうと数か月単位の長期入院というイメージを持っている傾向があります。ただ、がん治療における入院日数は、そういった方の想像よりもかなり短いと言えるかもしれません。
下の表は、厚生労働省が行っている調査の中の、がん(血液のがんを除く)での、平均入院日数の推移です。
1996年 | 1999年 | 2002年 | 2005年 | 2008年 | 2011年 | 2014年 | 2017年 | |
悪性新生物 | 46.0日 | 40.1日 | 35.7日 | 29.6日 | 23.9日 | 20.6日 | 19.9日 | 17.1日 |
見てのとおり、ずっと平均入院日数は減り続けています。約20年で半分以下の水準になっています。
この平均入院日数の短期化の理由としては
・国の政策
・医療技術の向上
などがあげられ、今後もこの傾向は変わらないと私は考えています。
そういった点から、入院でのがん治療を前提としたがん保険は、今後もさらに
その保障内容が陳腐化
していく可能性があります。
一生がん保険は変わらない
入院日数の短期化を始めとして、最新のがん治療の実態は変化してきています。万が一がんになってしまった場合に、どのような治療を受けるか、いくらくらいの費用が掛かるか、ということも変化していく可能性があります。
ただ、がんを取り巻く環境は変わっていきますが、それに合わせて加入したがん保険の保障内容が変わっていくことはありません。がん治療の実態の変化が大きければ大きいほど、加入しているがん保険の保障内容との乖離が広がっていきます。
がん保険の価値は、実際がんになって保険の請求をしてみないと実感すること難しいのですが、若い時期に終身保障のがん保険に加入し、何も気にせずに30年40年と時間が経過した時、想像以上のギャップが生じている可能性があります。
この
がん保険の保障内容が変化しない
ということは、がん保険に加入する際、必ず知っていただきたいことのひとつであると、私は考えています。
入って終わりではない
様々ながん保険を比較して、自分に合うがん保険を選択して加入した時
これでがんは安心
という感覚を得られるかもしれません。そしてそのがん保険が終身保障タイプのものであった場合
これで一生がん保険のことは気にしなくてもいい
と感じるかもしれません。
ただすでに触れたように、がん保険の保障内容は時間の経過とともに陳腐化していく可能性があり、いざがんになってしまった時に、十分お金を受け取れない可能性があります。
そして、いざという時に役に立たないがん保険にずっとお金を払い続けるということは
お金のムダ払い
であり、その保険のせいで家計状況を悪化させるという本末転倒な結果になる可能性があります。
まさに今、来店型保険ショップなどで、がん保険に加入しようとしている方へお伝えしたいことが2つあります。
継続的な情報収集とメンテナンス
がんに備えたいと考えた時、多くの方が
がん保険加入
を考えるかもしれません。最初の入り口はそれでもよいのですが、がんに備えるためには常に最新情報を知ることが必要です。常に情報収集をしてがん治療の実態がどのようなものか知っていないと、がんの備えはできません。
今加入したがん保険は
今のがん治療の実態に合ったがん保険 であるという認識を、がん保険加入時に持つ必要があります。そして、時間の経過とともに、その時期のがん治療の実態と自分のがん保険の保障内容に、ズレが無いかどうか確認し、必要に応じてがん保険の見直しをしていく必要があります。
がん保険とともに担当者の選択
今まさにがん保険の相談をしている方は、是非この機会に
・がん治療の実態が変化してきていることを教えてもらえたか?
・がん保険は見直しをしていかなければならない可能性について説明を受けたか?
を確認してみてください。
もしそういったことについて、全く話しがなかったということであれば、あなたのがん保険の担当者は、あまりがんについて知識を持っていない可能性があります。
自分でがんに関する情報を精査し、自分でがん保険のメンテナンスを行うことが難しい方は、がんのことを良く知る担当者に相談することをお勧めいたします。今の担当者があまりがんに詳しくなさそうであれば、別の担当者、別のお店であらためて相談した方が良いと思います。
がんの備えとして加入するがん保険。がん保険商品の選択だけでなく、担当者の選択という視点を持つことを私はおススメいたします。