がん保険の選び方|『掛け捨てではない!』がん保険、そのメリットがあなたにとって本当にメリットか?吟味すべきというはなし

生命保険の広告などを見ていると、『掛け捨てではない!』という文言がアピールされている商品があります。がん保険においても、そのタイプの商品があります。掛け捨てではないことが喜ばれるということは、掛け捨てがいやだという声があることを意味しています。私も、過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりましたが、掛け捨ての保険が、もったいないというように感じる方も多数いらっしゃいました。

今回は、掛け捨てではないがん保険について、そのメリット・デメリットなどについて、検証していきたいと思います。

まさに今、掛け捨てではないがん保険に加入したいと考えているあなたに、一度読んでいただきたいはなしです。

払い損がないというメリットとその裏側

がん保険に加入の際、もしがんにならなかったら月々払った額(保険料といいます)が、もったいないという気持ちになる場合があります。もちろんそう思うのもムリはありません。ただ、それを理由に掛け捨てではないタイプを選ぼうとする場合、以下の点は必ず検討していただきたいと思います。

掛け捨てタイプよりも負担大

まず、保障内容が同等であれば、一般的には掛け捨てではないタイプの方が、あなたの月々の負担(保険料)は、大きくなります。もちろんそのがん保険しか加入しない(その後も含めて)のであれば、そこまでの家計負担にはならないかもしれません。ただし、出費が多くて家計が厳しいというご家庭ほど、『これくらいなら…』というものがいろいろ重なっています。これは、私がこれまでFPとして、1,000世帯以上の家計相談に携わってきたことでの実感です。

『これくらい出費が上がっても、どうしても手に入れたい』というくらい、価値が明確なものならそれでもいいかもしれません。どうしても、というくらいのものであれば、他の出費を削るという努力もできそうです。残念ですが、保険ではそういったことは、あまり期待できないと思います。どちらかというと、なるべくコストを削る対象ではないでしょうか。

お金をもらうために失うもの

掛け捨てでないタイプのがん保険は、以下の2つのタイプに分けられます。

① 解約した時に、払戻金があるもの
② 70歳など指定された年齢で、払戻金があるもの

①の解約時に…というものですが、想像してみてください。解約する時とは、どんな時でしょうか?これは、家計が厳しく、お金が必要な時です。いざという時の『へそくり』的なイメージです。ただし、解約をするのは将来です。今より年を取り、がんのリスクが高まってからになります。そのタイミング(年齢)にもよりますが、将来解約していい保険であれば、最初から加入しないで、貯蓄や運用に回した方が良いと思います。

②の70歳などで、払い戻しがあるというものですが、例えば30歳で加入したとすれば、40年後です。拘束時間が長すぎると思います。また、一番のリスクは、見直しです。あとでも詳しく述べますが、がん保険は見直しを想定しておく必要があります。このタイプ、解約時にも払い戻しがありますが、中途解約の際は、たいていは払った額よりも戻ってくる額は少なくなります。

がん治療の実態から考えてみる

がん保険はなんのために加入するのか?万が一がんになってしまった時の、治療費などへのお金に備えたいからです。がんは、日本人の国民病とも言われていますし、他の病気よりもお金が掛かると、一般的には思われています。がんと治療とお金にどのような特徴があるのか、考えていきたいと思います。

単発ならば特別ではない

がんでも、例えば本当に早期発見の胃がんで、手術で胃の一部を部分切除して、治療はおしまい。あとは半年に1回、経過観察して、数年たって再発がなければ検査もおしまい。こんなケースもあります。私も過去10,000回以上の保険相談会に携わってまいりましたが、こういったお客様にも数名お会いしました。このケースでは、がん保険がなくても困らない可能性が高いです。もちろん、入院・手術に対する医療費は掛かりますが、健康保険証を持っていれば、『高額療養費』を申請して、自己負担はそこまで高額になりません(※1)。

がん保険が役に立つのは、治療が継続し、長期化した場合です。先ほどの胃がんの手術を受けたケースにおいても、患者さんによっては、がんの転移の可能性があるため、引き続き抗がん剤治療を行っていくという流れになる場合があります。こうなると、退院後も3か月、半年、場合によって年単位の継続治療となります。こうなってくると、さきほどの『高額療養費』があっても、治療費が家計を圧迫する可能性もあります。

さらに、実際転移が見つかってしまった場合には、再び手術をうけるか、放射線治療を行うか、さらに違う抗がん剤治療を行うなど、身体の負担も大きくなりながら、さらに治療費がかさんできます。がん保険を考えるのであれば、こういったケースを想定する必要があります。ということは、加入するのであれば保障を充実させることが大切で、保障を充実させれば当然保険料も上がってくる、そこへさらに掛け捨てでないタイプ、となると家計に影響が出るかもしれません。

※1 『高額療養費』については、過去の記事「『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください

がん治療は変化が激しい

もうひとつ、がん治療の特徴について、触れておきます。がんは、一部のがんを除き、その発生メカニズムが分かっていないとも言われています。がんの転移については、なおさらわからないようです。そのため、常に世界中で研究がされ、次々と新しい治療方法や治療薬が開発されています。日本でも、この数年で新しい治療法や治療薬がたくさん出てきています。

がん保険は、そのがん保険が新規に発売されたタイミングでの、最新のがん治療を前提として作られています。数年経過すると、がん治療のスタンダードが変わっている可能性があります。古いタイプのがん保険に加入していた場合、本当にがんになってしまった時、ほとんどお金が受け取れないなどという可能性があります。

がん保険は、加入時点において、見直しを想定しておかなければなりません。そして、もし見直しをするのであれば、元のがん保険を解約することになります。そう考えると、がん保険において、掛け捨てではないタイプを選択することに、合理性が無くなってしまいます。

保険の本質から考えてみる

がん保険を含めた、保険そのものの仕組み、その本質について考えてみたいと思います。その前に、2つのデータをご紹介します。

30~34歳の方の、人口10万人当たりの、死亡者(2020年):46.2人(0.0462%)

出典:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計」

30~34歳の方の、人口10万人当たりの、がん罹患者数(2017年):77.2人(0.0772%)

出典:がん研究振興財団「がんの統計2021(資料編P90)」

保険のはなしとは、そもそもこういった確率で起こっているアクシデントに対するものです。

保険は宝くじと同じ仕組み

保険に加入するということは、宝くじを購入することと、仕組み的には同じはなしです。多くの人がお金を出して、集まったお金の約50%が国に吸い上げられる、残った金額に対し、抽選をして、もらえる人が決定する。保険の場合も、多くの加入者がお金(保険料)を出して、集まったお金の一定割合を保険会社が自分のものにする(事業運営経費や利益)、それ以外のお金で、死亡やがんになってしまった人に、お金を払う。

宝くじにしても、死亡やがんの保険にしても、必ずしも高い確率ではないもの(もちろん高い低いは個人の感覚ですが)に、任意でお金を払い、その高い確率ではない、抽選による当選、死亡やがんというアクシデントに対して、お金をもらうことを期待するものです。

一般的なイメージでは、宝くじは、ラッキー、保険は、アンラッキーに対して、お金を積んでおくものになります。基本的には、掛け捨てて、本当につらい時に、お金の面では安心できる、それが保険なのだと思います。

保険の本来の役割とは

『保険の役割とは何ですか?』と聞かれたとしたら、みなさんはどう思いますか?

みなさん似たような意味合いの回答になると思いますが、その『言い回し』は、保険の仕事をする人でも多少違うのかな?と思っています。私の場合は、保険の役割は、がんなどのアクシデントが起こってしまった時に、作りかけの貯蓄を完成させること、とお伝えしています。

貯蓄があれば、保険はいらないという声を聞きます。それはそのとおりです。だから私も、保険は一生持つ必要はないと思っていますし、貯蓄を築いていく、20代~40代くらいの間は、保険をうまく使っていくことも必要なのかなと思っています。つまり、この若い時期にアクシデントに合ってしまったら、作るはずだった貯蓄を保険から受け取ること、それが保険の役割だと思っています。

もともとのがん保険加入のきっかけを今一度確認

がん保険の加入を検討したきっかけとはなんだったのでしょうか。やはりがんに対する怖さを、何かで感じたからではないでしょうか。是非、その怖さを経済的な面で具体的にして、保険の必要性を検証していただきたいと思います。そのうえで、掛け捨てでないタイプのがん保険を選択したいということであれば、それはそれで良いと思います。そのために、がんに関する正しい情報を提供してくれる、保険の担当者と出会っていただきたいと思います。

がんへのの備えは治療費だけではない

がん保険の役割は、がんになってしまった時の治療費をカバーすることです。貯蓄を取り崩すことなく、治療費をまかなってくれるのががん保険です。ただし、がんになってしまった時に必要になるお金は、治療だけではないという現実も、押さえていただきたいと思います。

さきほどがんの治療の長期化ということに触れましたが、後遺症や副作用などで肉体的にもきつくなってくると、仕事が継続できず収入を失う可能性も出てきます。収入を失うと、今度は治療費ではなく、日々の生活費が厳しくなる可能性があります。残念ながらがん保険では、生活維持まで守ることは難しいことが多いです(※2)。

※2 がんが生活費に影響を与えることについては、過去の記事「意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください

質の高いがん情報をもとに

がんの備えをするということは、こういった仕事や生活への影響なども含めて行う必要があります。それをするためには、実はがん保険に詳しいだけでは、ダメだということです。がんは、日本の医療のルールや治療情報、そしてお金のこと、こういったがんに関する情報を揃えなければ、備えることはできません。

ただし、がん保険の検討時は、それを知る最大のチャンスでもあります。是非みなさまも、質の高いがん情報を持っている担当者から、本当に安心できるがんの備えを作っていただきたいと思います。

もし、はなしを聞いた担当者が、がんに関して深い知識を持っていないようであれば、是非セカンドオピニオンをとることをおススメいたします。

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