がん保険の選び方|『私の家族が入っていたがん保険』がん保険は時代の変化についていけないかも、というはなし

日本人のがん保険の加入率は、4割少々と言われています。おおよそ5千万人くらいの方が、がん保険に加入している計算になりますが、そのすべてのがん保険が、現在のがん治療の実態に合った、保障内容になっているかどうか。実は、古いがん保険のまま放置していると、場合によって怖いことがあります。

そこで今回は、過去に私の家族が加入していたがん保険を例に、がんの治療の実態と、がん保険の変化について、考えていきたいと思います。

まさに今、『10年前に加入したがん保険』を持ち続けているあなたへ、お届けしたいはなしです。

当時の最新のがん保険

私の母は、2010年に乳がんの診断を受け、その後再発・転移もあり、2019年まで治療が続きました。がんの診断を受けた当時、がん保険にも加入しており、そこからお金も受け取りました。内容は大雑把ですが、以下のとおりです。

① 始めてがんの診断を受けたら、120万円の一時金(1回限り)
② がんで入院をしたら、1日当たり2万円
③ がんで20日以上入院し、その退院時に20万円の一時金
④ がんで20日以上入院し、その退院後に治療で通院したら、1回あたり6千円
⑤ がんで死亡したら、家族へ200万円(がん以外の死亡の場合は、20万円)

このがん保険は、1990年代から2000年代初頭まで、販売されていて、たくさん売れたがん保険です。今でもこのがん保険に加入し続けている人もいらっしゃると思います。

10年経過すると…

このがん保険の発売が停止(新しいがん保険が発売)されてから10年ほど経過したころ、私の母は、がんの診断を受け、約9年にわたり、治療を受けました。⑤は死亡保険で、家族のための保障ですから、①~④が、がん患者さん本人のための保障です。

9年間という、それなりに長い期間がん治療を受けてきましたが、最後まで③と④の保障からは、お金を受け取ることができませんでした。なぜなら、20日以上の入院を一度もしなかったからです。入院は一番最初に手術を受ける時に、8日間。2018年、肝臓への転移が確認された時の手術で、2週間ほど。どちらも20日まではかかりませんでした。そして入院期間以外の治療は、通院で行われました。

入院の短期化

これはがんに限ったはなしではないですが、国の政策により、入院の短期化が起きています。基本的には、若者よりも高齢者の方が入院のリスクは上がります。高齢化が進む日本で成り行き任せにしていると、財政を圧迫します。そこで2000年代に入り、医療費適正化計画が導入され、その中で、がんを始めとした成人病の予防や入院日数の短期化が柱とされてきました。

その後医療技術の発達もあいまって、がんについても、入院日数がどんどん短くなっていきました。ちなみにがんによる平均入院日数の変化は以下のとおりです。

1996年1999年2002年2005年2008年2011年2014年
46.0日40.1日35.7日29.6日23.9日20.6日19.9日
出典:厚生労働省『平成26年(2014)患者調査の概要

がん保険の保障は、陳腐化していくことを知っておく

私はこのがん保険に問題があるとは思っていません。実際一定のお金を受け取ることができましたし、貯蓄などでがんへのお金はまかなうことはできました。ある程度年配の方の場合、こういったシナリオを想定しておくと良いと思います。がん保険だけのはなしをすれば、最新のものに見直ししていれば、もっとお金を受け取れたのでしょうが、60歳など一定の年齢をを過ぎてからのがん保険見直しは、月々の負担(保険料と言います)が高くなってしまいます。ですから、それまでの間に、貯蓄を作っておき、貯蓄とそれなりのがん保険で対応していくと思っておけば良いと思います。

若い年代は別のはなし

ところが、まだ20~40代(場合によって50代も)の比較的若い世代の方は、ご自身の保険、特にがん保険に関しては、最新のがん治療の実態に即した保障であるかどうか、把握しておく必要があります。なぜなら、まだ十分貯蓄ができていない段階だからです。引退後のために作りつつある貯蓄を、途中のがん治療で崩すことになってしまいます。

例えば先ほどのがん保険の保障の①

始めてがんの診断を受けたら、120万円の一時金(1回限り)

ですが、これはいわゆる『がん診断給付金』と言われるものです。この保障、1回受け取っておしまいというものは、今は少数派です。今がん患者さんの、5年後生存率は、6割を超えています。再発・転移などで、長期の戦いになっているがん患者さんもいらっしゃるのが現実です。長期になれば、お金もかかる、保険に入るのであれば、それに対応できるものでなければなりません。ですから今は、回数無制限というがん保険も多く見られます(※1)。

(※1) がん診断給付金の詳細については、過去の記事「がんの備え|『がん保険の診断一時金』パンフに書いてある小さな文字に注意、というはなし」を、是非ご覧ください

定期的に見つめなおしを

では、時代に対応するためにどうしたらよいのか?これは、定期的にチェックするしかありません。自動車の車検、あれは車の故障で事故を起こさないために、国が法律で義務付けているチェックです。ですから、車検は当たり前のように、車検に出します。

ところが、生命保険に関しては、義務付けられたものはありませんから、あなた自身が、定期的に見つめなおす習慣を持つ必要があります。または、がんに関する情報収集をこまめにしていて、さらに時代の変化に応じてアドバイスをくれる担当者がいれば安心です。ただ、担当者にしても退職してしまったりすることもあります。やはり、あなた自身でも意識しておいた方が良いと思います。

若い時には、別のリスクもある

引退後の方ががんになる場合と比べ、若い世代の方ががんになるということは、がん保険や治療費以外にも影響が出てくる場合があります。それは、仕事や家族への影響です。

数週間程度入院して、それで終了となれば、そこまで心配しなくて良いかもしれませんが、やはりがん治療が長期戦になってしまうと、家計への影響が大きくなる可能性があります(※2)。

(※2)がんの家計家の影響については、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください

収入への影響

現役世代のがん患者さんの、3割程度は離職しているという現実があります。離職をしてしまうと、収入を失います。がんになった時のために、がん保険に入っていると思うかもしれませんが、がん保険は基本的に、がんの治療費のための保険です。

毎月当たり前のように入ってきた、給料の代わりにはなりません。先ほどのがん診断給付金のような一時金があれば、2、3か月の助けにはなりますが、長期になるといずれ底をつくことが予想されます。収入がないのに、治療費は掛かり続ける、かなり厳しい状況となります。実際、現役世代のがん患者さんの5%程度は、お金を理由に、治療を変更したり、断念したりしているという現実があります。

家族、特に子供への影響

また、自分一人ではなく、配偶者や子供がいる場合ですと、さらに経済的な影響が大きくなってきます。貯蓄を作って引退した後ならば、がんも経済的には自分事で済む場合もありますが、貯蓄を作る時期のがんは、そのまま家族の日々の生活にも影響を及ぼす可能性があることを、押さえておいた方が良いと思います。

そのようなケースでは、なおさらがん保険だけは守ることはできません。 保険でなくても、何か対策を講じておくことは大切だと思います。

『がん保険に入っているから、がんは安心!』は危険

私のお客様にもいらっしゃったのですが、『がん保険に入っているから、がんは安心!』と思っている方がいます(※3)。これについては、『がん保険に入っているから、がんの治療費は安心!』と解釈をただす必要があります(※)。そしてさらに、『最新のがん保険であれば』という前提も必要です。

そして、がんになってしまった時に、最もお金の面で大変になるのは、収入面に影響が出た場合です。その時の備えは、がん保険では難しいと思っておいた方が良いと思います。

(※3) 『がん保険に入っているから、がんは安心!』 の怖さについては、過去の記事「がんの備え|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い」を、是非ご覧ください

そのために、まずはがんを知る

では、備えはどうあれば良いのか。やはり、いきなりAがん保険、Bがん保険、どちらが安くてオトクかというはなしではなく、まずはがんを知ることが大切だと思います。万が一、若くしてがんになってしまった時に、どのような治療を選択する可能性があり、どの程度の費用が掛かるのか、そして、仕事(収入)に影響が出てしまうのは、どういったケースなのか、あり得るシナリオとかかる費用を明確にして、どこまで備えていくかを考えた方が合理的だと思いますし、安心だと思います(※4)。

そして、一度作った備えも、一定期間ごとに時代とズレがないか、検証していく習慣をつけることも、合わせて大事だと思います。また、がんを知っておくことで、本当にがんになってしまった時に受ける、精神的なダメージを、多少は緩和することもできると思います。

(※4) 必要ながんへの備えについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険、必要?不要?』論争があります。私はどちらかと言えば、不要かな・・・というはなし」を、是非ご覧ください

生命保険検討時を大切に

では、どこでがんを知るかという問題があります。残念ですが、日本では、がん情報だけをアドバイスしてくれる場所は少ないかもしれません。とはいえ、すべてを自分で行うことも難しいと思います。そう考えると、やはり生命保険やがん保険を考える時に、必要情報も合わせて取ることが大切だと思います。

その機会に、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても情報を得て、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※5)(※6)。

保険商品のはなししかできない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。

(※5) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください

(※6) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

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