【CFPが解説】大腸がん治療後にまさかのがん保険契約解除!?「たいしたことない」が引き起こす告知義務違反の恐怖|がん保険の選び方

【軽い気持ちで行う『告知義務違反』が招くがん診断時の契約解除】

要約

多くの方が加入するがん保険。その目的はがんになってしまった時にお金を払ってもらうこと。その安心を得るために、契約時に決してやってはいけないこと、それが『告知義務違反』です。「たいしたことない」との自己判断が、いざがんの時『契約解除』というとても怖い事態を引き起こします。今はネットで気軽にがん保険に加入できますが、その手続きには細心の注意が必要ですなぜそのようなことが起きてしまうのか、そうならないために何が必要なのか、一緒に見ていきたいと思います。

この記事は

■そろそろがんが気になり始めている
■がん保険について相談したいと思っている
■実は自分の健康状態に気になるところがある

といった方のためにまとめてあります。

このコラムを読むことで

●告知義務違反と契約解除とは?
●がん保険加入の真の目的とは?
●がん保険の検討で本当に大切なことは?

ということがわかります。

がん保険の契約時に軽い気持ちで手続きしてしまうことで、本当にがん保険が必要な時に契約が解除されお金も受け取れないという事態が起こり得ます。

その理由は

がん保険契約時の告知義務違反

なのですが、本当にがんになってしまい経済的なことを始め様々なことで辛い思いをする場面をイメージできなければ、適切な手続きをすることが難しい場合があります。最近は、ネットで気軽にがん保険に加入できるようになってきていますが、正しい知識をもとに手続きすることがとても大切です。

そういったことについて、なぜ大切なのか事例をもとに一緒に見ていきたいと思います。

まさに今、『がん保険を相談するかネットで済ませるか検討』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。

大腸がんの入院手術で保険請求も保険会社からまさかの通告が

東京都墨田区在住、都内の証券会社に勤務、事務職として働き年収約450万円の40歳女性松下ゆかりさん(仮名)。

松下さんは約1か月前、入院して大腸がんの手術を受けました。

3か月前の健康診断結果にあった『便潜血』の指摘。実は前年の健康診断でも同じ指摘があったのですが、その時は「事務職で座りっぱなし、仕事が忙しくて運動する暇がない、だから腸活が足りないからだ」と、再検査もスルーしてしまいました。

2年連続で同じ指摘を受け、さすがに気になって今回は精密検査を受診。前年もそうだったのですが、大腸の内視鏡検査に対してどうしても嫌なイメージがあったものの、40代になったということもあり「健康に気をつかおう」と検査を受けました。

検査から10日後、結果を聞きに行ったのですが「残念ながら大腸がんが見つかりました」と、目の前の医師から告げられました。正直なところ便潜血といってもたまたまその時の微妙な体調によって出たものだと軽く見ていたので、実際大腸がん告知を受けた瞬間は頭の中が真っ白になり、医師の話しも耳に入らずただただ聞き流す状態に。細かいことはほとんど覚えていませんが、入院・手術の予約を入れて帰宅しました。

幸い手術は無事に終わり、今後は抗がん剤治療を通院で行っていく予定です。医師からは体調が悪くなければ仕事も日常生活も今までどおり続けていけることを伝えられ、多少安心感を得ることができました。

不安に思っていたお金の面ですが、手術のための入院で約15万円の出費、そしてこれからの通院治療でも月に数万円お金がかかるとのこと。ただそれに関しては、約10か月前にがん保険に加入していたので、その点は不幸中の幸い。ちなみに松下さんが加入したがん保険は以下の内容です。

がん治療給付金 月に1回10万円(回数無制限)
がん診断給付金 1年に1度100万円(回数無制限)
がん入院給付金 入院1日当たり1万円(日数無制限)
がん通院給付金 通院1回当たり5千円(日数無制限)

すでに終わった入院・手術に関して①~③の保障が支払い対象、そして松下さんは今後通院で抗がん剤治療を行っていく予定なので、それについては①と④が該当します。そして万が一治療が長引いても②で、再び100万円を受け取れる内容です。

特にがんが心配だったわけでもなく、昨年の健康診断で初めて「便潜血」の指摘を受けたことで、なんとなくがん保険に入っておこうというきっかけになったのかもしれません。お金の心配がある程度消えたので、これからの治療も前向きに頑張ろうという気持ちになれました。

そのがん保険ですが、事前に請求手続き書類を取り寄せ、入院中に必要な診断書の作成を病院で依頼、2週間前に受け取った診断書とともにがん保険の請求書類を送りました。

そして本日帰宅するとポストに保険会社からの郵便物が入っていました。封筒に赤で『重要』と書かれているので、がん保険のお金の支払いが完了したという連絡だと松下さんは思いました。部屋に戻り落ち着いたところでその郵便物の封を開けた松下さん、そこにはまさかの通告が。

「告知義務違反と判断されたため契約は解除されました。」

一方的な契約解除の通告

「がん保険に入っていてよかった」そう思っていた松下さん。ところが保険会社からの届いた書類には『契約解除』の文字が。なぜそのようなことが起こってしまったのでしょうか。

その書類には『告知義務違反と判断されたため』ということが書かれていましたが、これはいったいどういったものか。実はがん保険の申し込みの際には、診査があります。その診査に使う書類が『告知書』です。告知書は、病院での問診票のようなもので、5~10個の過去の病歴、健康診断の結果などに関する質問が書かれていて、それに回答をする形になっています。

保険会社は書かれた内容に対して診査を行い、申し込んだがん保険に加入できるかどうかが決定します。その告知書の記入ですが、診査に使うものであるため正確な記入が求められます。例えばその告知書の中にはたいていの場合

今までにがん(悪性新生物)にかかったことがありますか?

という質問事項があります。これに対して『はい』という回答になると診査にとおらず加入できないことが一般的です。しかし告知書の記入は自己申告ベースのため、『いいえ』と虚偽の申告をすれば加入できてしまう場合があります。

軽く捉えていた『便潜血』の指摘

何が起きたのかわからなかった松下さん。書類に記載されていた問い合せ先のフリーダイヤルへ電話しました。そこで告知書という書類のこと、その中に虚偽の申告が確認された場合には、契約が解除される場合がある旨案内を受けました。

つまり松下さんが10か月前にがん保険に加入する際、松下さんの記入に虚偽の申告があったということになります。松下さんはネットでがん保険に加入しました。手続きが全てオンライン上で済んでしまい便利であったことを覚えています。

松下さんは契約当時の告知書の控えを見てみました。上から下まで見返してみましたが、この数年は今回の大腸がんの入院・手術以外、ほぼ医者にかかっていません。ですから虚偽の申告として唯一ありえるのは

過去2年以内の健康診断で異常の指摘をうけたことがありますか?

という質問に対して『いいえ』と回答したところです。前年の健康診断で初めて指摘された『便潜血』ですが、当時は特に体調不良もなく医師の診察や治療を受けた訳ではないので大した問題ではないと思い、わざわざ申告する必要は無いと判断しました。

支払った保険料も戻ってこない

保険会社からの通知文書には、契約解除と合わせて今まで毎月支払ってきた金額(保険料)も返還されない旨が記載されていました。

「がんになってもお金を払ってくれないならば、契約が有効とは言えないのだから、支払ったお金は返してくれてもいいのでは?」と松下さんは保険会社のコールセンターで訴えました。

しかしオペレーターからは「あらかじめ契約時の重要事項で、告知義務違反の場合には保険料はお返ししない旨ご案内しております」と、きっぱり返答されてしまい、松下さんは何も言えなくなってしまい、電話を切りました。

がんになった時にお金を払ってもらうために加入し、そのために毎月費用を負担してきたにもかかわらず、いざがんになってしまった時に1円もお金を受け取れずに契約が解除、しかも今まで支払った金額すべてが『払い損』という結果になってしまい、松下さんは深い落胆の気持ちになってしまいました。

告知義務違反と契約解除権

がん保険契約の際には申込手続きをする前に、重要事項の説明があります。保険も金融商品のひとつで、一般の消費者にとっては複雑でわかりづらい、そして実際に契約において様々なトラブルが発生しているので、金融庁の監督のもと保険会社や保険商品の案内をする者(保険募集人)に対しては、説明義務が課されています。

保険会社を問わず保険を契約する人(保険契約者)に対して必ず説明すべき重要事項のひとつに『告知義務』があります。がん保険の場合、一般的には健康状態などに対する質問事項に対して、保険契約者はありのままを申告(告知)する義務を負います

そして万が一その告知に

・故意または重大な過失により事実を回答しなかった場合
・故意または重大な過失により事実でないことを回答した場合

保険契約が解除される場合がある旨明記されています。契約上保険会社には契約の解除権があり、告知義務違反の事実が確認された場合には、一定の要件のもと一方的に契約を解除することができるようになっています。

便潜血は大腸がんの疑い

今回の事例において松下さんは、1年前の健康診断で『便潜血』の指摘を受けていましたが、体調に異常がなかったことや医師の診察を受けたわけではなかったという理由から「大したことではない」と思いその事実を申告(告知)しませんでした。

松下さんは便潜血を大したことではないと認識していたのですが、実は『便潜血』の指摘は

大腸がんの疑いあり

という意味合いです。ですから1年前の指摘を正直に告知していた場合、がん保険の診査が通らず加入できなかった可能性があります。反対に言えば、うその告知をすればがん保険に加入はできてしまう可能性があるということです。

ただ、がん保険は加入することが目的ではありません。今回の事例のように、大腸がんが発覚して手術を受け、術後に抗がん剤治療でお金がかかってしまった時にそのお金を肩代わりしてもらう、そのためにがん保険に加入するのです。

すべて自己責任のネット経由の保険加入

10か月前松下さんはネット経由で手続きできる保険会社のがん保険に加入しました。しつこい勧誘もなく、ネット上で様々なプランや毎月の費用負担(保険料)のシミュレーションを行って、自分なりに満足したうえで決めることができました。

そして保障内容や重要事項の説明なども画面上で確認し、理解したうえで申し込んだつもりでした。便潜血の指摘についても隠すことが目的ではなく、そこまで大事な情報なのかどうかがわからないということから「大したことではない」という判断に至り、告知をせずに手続きを完了してしまいました

当然ですが保険担当者が対応してがん保険に申し込む場合には、必ずありのまま告知することを伝えられるはずです。本来告知書には、自己判断が入る余地はなく、あくまで医師から伝えられたこと、健康診断結果に書かれていることをそのまま転記しなければなりません

ネット経由の保険契約には実はこういったリスクがあります。もちろんネット経由でも、この告知義務違反による契約解除の説明は必ずされています。ただし、文章で羅列されているだけであること、そして説明事項が他にもたくさんあることから、流し読みで終わってしまう可能性はあるかもしれません

がん保険の契約で私が最も起こってはならないと考えていることが、今回の事例のような

がんの宣告を受け、がん治療を受けたにもかかわらず、がん保険が支払い対象外となる

ことです。そして告知義務違反の場合、支払対象外だけではなく合わせて『契約解除』というとても厳しい結果も待っています。

ですからネット経由でのがん保険契約は、すべて自分で内容を正しく理解できるということを前提に選択肢とするべき手段であるといえます。

目的はがんの時にお金を払ってもらうこと

がん保険は加入すること自体はそれほど難しいことではありません。今回の事例のように、最近ではネット経由で手続きが完結できてしまうので、便利な時代になっているといえます。

ただし、先述したとおりがん保険は加入が目的ではありません。がんになってしまった時の治療費を助けてもらうことが唯一かつ真の目的です。それに対し告知義務違反をするということは、本当にがんになってしまった時に、『支払対象外かつ契約解除』となるリスクをわざわざ自分で生み出してしまう行為といえます。

最終的にこのような事例も発生してしまう可能性があるので手続き時に何か疑問がある場合、小さなことでも必ず確認をしてクリアにするということが必須であるといえます。今回の事例に関して言えば、ネット経由なので保険会社のコールセンター等に問合せ、確認すべきであったと思います。

がんになり治療費がかかり経済的にシビアな展開になってしまった時のことをリアルにイメージできれば、がん保険加入時の手続きにも慎重になれるのですが、がんが身近でなくこれからがんの備えを考えようという段階の人が、そこまですることは簡単ではないかもしれません。

保険は難しい…」「保険はよくわからない」という声は多いと思いますが、最後に

・なぜ保険はわかりづらいのか?
・そういった現状に対してどのように行動していくか


といったことについて述べたいと思います。

多すぎる情報とわかりづらい保険用語

私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりました。相談に来られる方のきっかけは様々ではありますが、近年増えてきているものが

ネットでいろいろ調べたけど情報が多すぎて余計わからなくなった

というものです。現在はネット情報も充実してきているので、何か新しいアクションを起こそうと思った時、多くの方がネットで情報収集するかと思います。当然がん保険を考えたい人も最初はネットで情報を得ようとするかもしれません。

ただグーグルで、例えば『がん保険 おすすめ』というキーワードで検索すると、3億件以上の検索結果が出てきます(2023年9月9日時点)。保険会社、保険代理店、FPなどの記事で様々な商品情報などが出てきますので、どれが本当に正しい情報なのか判断することは困難である可能性があります。

そして今回のテーマ『告知義務違反』もそうですが、保険に関する情報は日頃あまり使用しない専門用語で書かれているために、理解をするのに時間を要しますし、今回の事例のように知識がないと自分なりの解釈をしてしまい、それがのちのち大きなアクシデントにつながる恐れがあります。

【再重要】早めのサポーターの確保

加入することではなく、がんになってしまった時にお金を払ってもらい、経済的な安心を確実に得るためには、やはり入り口(がん保険契約)の時点で、正確な情報・知識をもとに判断することが必要です。

基本的には自分自身で知識を高めていく努力をすることが必要だと思うのですが、先述したとおり多すぎる情報や分かりづらい専門用語の存在で、人によっては全てを自分自身でとなると限界があるかもしれません。

そういった場合には、事前に相談できる人(場所)を確保するということもひとつの手段です。がん保険やがんへの備えに対する専門家としては

がんや医療への備えを専門とするファイナンシャルプランナー(FP)

の存在があります。またがんに詳しい保険担当者なども選択肢としてあげられるかと思います。

がんは精神的、知識的、経済的に負担が大きくなる可能性がある病気です。そして今回のようにちょっとしたミスが、あとあと取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。いざという時の安心ために気軽に相談できるサポーターを早めに確保しておくことをおススメいたします。

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