がん保険の選び方|『ネットで加入できるがん保険』良いことだけど、注意も必要である、というはなし
最近ネットで加入できるがん保険が増えてきました。これ自体は非常に良いことだと思います。金融業界で見ると、株式や投資信託などの証券取引や、預金、振込、住宅ローンなどの銀行業務は、ネットでできるのが当たり前ですが、保険は全体として、進むのが遅い感じがします。私も以前は保険代理店の世界にいましたが、保険会社や大手保険代理店の経営者の方には、『生命保険は対人でなければ』と思っている方もいるようです。
私は、消費者に選択肢があった方が良いと思っていますので、だんだんとネットで手続きできる商品が増えていくことは歓迎です。ただし、ネットで手続きを完結する場合にも、注意は必要です。
そこで今回は、ネットでがん保険の手続きをする際に、必ず理解しておかなければならないことについて、考えていきたいと思います。
まさに今、『ネットでがん保険の申込』をしようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
がん保険契約の重要事項を理解しているか?
がん保険は金融商品のひとつとなります。契約に際しては、契約上の重要事項を理解していることが、前提条件となります。対人での手続きであれば、保険契約を行う資格を持った担当者から、重要事項の説明を受け、理解したうえでないと、申込書に進めません。また、わからないことがあれば、わかるまで説明してもらうことも可能です。
ネットで手続きを行うということは、画面に表示された文面を自分で読んで、理解をしたというチェックをしないと先に進めない仕組みになっていると思います。そのチェックは、自分でするわけですから、後から『聞いていない』ということは、通用しません。ここでは、重要事項説明の中でも特に大切だと思われるものをいくつか見ていきます。
告知義務
がん保険の契約手続きの中に、『告知』という項目があります。これは、主に健康状態や過去の病歴について、申告をする手続きです。がん保険は、現時点においては、がんになっていない、またはがんに対するリスクが低い人同士が掛け金(保険料)を出し合って、その中で本当にがんになってしまった方へ、お金を払ってあげる仕組みで成り立っています。
ですから、今がんでないか?がんに対するリスクが高くないか?という判定(診査と言います)をするために、お客様に自己申告をしてもらいます。その書類を告知書と言いますが、うその申告をしてがん保険に加入しても、あとでそれが判明した場合、『告知義務違反』として、契約が解除される場合があります。本当にがんになってしまい、請求をした時に、契約が解除される、本当につらいことです。ただ、実際にこういったことは起こっているのが現実です。
この告知義務については、重要事項の中でも特に重要であると、私は思っています。
契約の失効と復活
一般的に、がん保険などの生命保険契約は、長期にわたることも多くなります。ついうっかりから、契約がいつの間にか終了していて、万が一その時にがんになってしまい、がん保険からお金が出ない、そんなリスクもあります。それが、『契約の失効』です。お客様サイドで、毎月保険会社へ支払うお金(保険料と言います)ですが、現在は銀行引落しか、クレジットカード払いで行うのが主流です。
その保険料が月々払いの契約の場合、一般的に2か月連続で決済ができないと、『失効』と言って、契約が自動的に終了してしまいます。1か月目に決済できなかった時に、保険会社から、郵便やメールなど、なんらかの案内は来ると思います。ただ、その案内をスルーしてしまい、期限内に対応しなければ終了です。
一定のルール内であれば、失効後に『復活』という、契約を元に戻してもらう手続きも可能です。ただし、一般的に、復活手続きの際に、先ほど出てきた『告知』を再び行う必要があります。万が一、すでにがんの診断を受けてしまっていたとしたら、診査がとおらない可能性があります。
この契約の失効と復活もシビアなはなしです。なお、正確なルールについては、個々のがん保険商品ごとの、重要事項説明をご確認ください。
がん保険の保障内容を正しく理解しているか?
次に、がん保険の保障内容の理解ですが、やはりがん保険商品ごとに、どういったことに対してお金を払ってくれるかなどの、保障内容はそれぞれです。怖いことは、思い込みと実際の保障内容に、差があった場合です。
簡単に言うと、自分が出ると思っていたものが、実際請求したら、『今回のケースは、支払対象外です』と言われる場合です。がんになった時のために入っていたがん保険。がんは、どれだけ日頃備えていても、実際になってしまうと、メンタル的にダメージを受けます。その時に、お金の面でのダメージを受けないよう、がん保険の選び方、そして内容を理解することは大切です。
ここでは、商品ごとに微妙な違いがあるケースについて、見ていきたいと思います。
診断給付金の支払要件
がん保険のパンフレットを開くと、けっこう目立つ形で『がんの診断を受けたら、100万円』という文言が目に入ることがあります。これは、一般的に、『がん診断給付金』というもので、がん診断を受けたら、100万円の支払いが確定するという、個人的にはがん保険で、非常に重要な保障だと思っています。それは、どんな治療になるかはわからないけど、先にまとまったお金がもらえることが確定するという安心感があるからです。
その重要な診断給付金ですが、いろいろながん保険を比べると、中には、がんの診断を受けて、『入院をしたら』という文言が入っているものもあります。今がんは、通院でも治療ができる時代になっています。いくつも見比べていると、だんだんどれも同じように見えてくる場合もあります。ただ、この『入院要件』は、要注意です(※1)。
(※1) がん診断給付金の違いについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険の診断一時金』パンフに書いてある小さな文字に注意、というはなし」を、是非ご覧ください
健康保険適用かどうか
それからがん治療では、手術や放射線治療と合わせて、『抗がん剤治療』という、薬での治療を併用することが多くなっています。この抗がん剤治療ですが、以前は健康保険が適用となり、3割負担で受けられるもので行うことが大半でしたが、最近のがん治療の発展に伴い、場合によって健康保険適用外の抗がん剤も選択する場合が出てきています。健康保険適用外の治療となると、一般的にその費用負担は、高額となります。
以前からがん保険では、『抗がん剤治療保障特約』などといった名称で、抗がん剤治療に対してお金を払ってくれる保障がありました。ここで注意点が、健康保険適用の治療だけが、支払い対象となっているものもあるということです。パンフレットの目立つところでは、抗がん剤治療を受ければお金がもらえると見えますが、下の方に小さな文字で説明書きがあったりしますので、要注意です。
現在のがん治療の実態に合っているか?
がんは、昭和56年以降、日本人の死因の第1位のままです。まだまだ怖い病気ではあるのですが、進歩もしてきているようです。検査の精度が上がり、早期発見が可能になったり、治療技術の向上で、復帰がかなうようになったり、少なくとも以前の『がん=死』という時代ではなくなっています。
ここでは、がん保障を選ぶうえで重要な、20年30年前と違う、がん治療の実態の変化について、見ていきたいと思います。
5年後生存率の上昇
現代は、がんになったからといって、おしまいという時代ではありません。がんになってしまったとしても、5年後の生存率は6割を超えています。乳がんや前立腺がんなどは、早期で見つかれば、5年後生存率は、ほぼ100%と言われています。そういった意味で、がんと共存していく時代と言えますが、その分、再発・転移などで、治療も長期化、治療費負担の増大という現実もあります。
さきほど、『がん診断給付金』という保障に触れましたが、以前はあの保障、1回受け取ったら終了とういうものが、一般的でした。ただ、一度がんになってしまうと、あらたにがん保険に加入することは、難しくなります(※2)。ですから、最近の診断給付金は、複数回受け取れる、もしくは回数無制限というものも出てきています。一方、従来のまま、1回受け取っておしまいという保険も存在しますから、注意深く比較することをおススメします。
(※2) 一度がんになると、がん保険の加入が難しいということについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険はいつでも入れる?』お金を払えば入れると思ってはいけない、というはなし」を、是非ご覧ください
入院は短期化
また、治療技術の向上や国の政策などにより、入院日数がどんどん短期化していっています。以前のがん保険は、『がんで入院したら、1日当たり〇万円お支払い』といった、入院給付金がメインとなっているものもありました。ただ、現在は手術を受けるために入院しても、1週間で退院ということも当たり前になっています。
また、放射線治療や抗がん剤治療は、通院での治療ができるようになってきています。がん保険の保障を考える際に、入院することが前提となる保障を手厚くしてしまうと、実際がんになってしまった時に、思ったような保障が得られない可能性がある点に、注意が必要かと思います(※3)。
(※3) 治療の実態に合わないがん保険については、過去の記事「がんの備え|『私の家族が入っていたがん保険』がん保険は時代の変化についていけないかも、というはなし」を、是非ご覧ください
知識に自信がなければ、やはり相談を
家族や親せきなど、身近なところにがん治療を行う医師がいる、もしくは自分自身で、がんに対して学んで情報をもっているということであれば、正しく理解するという前提で、ネット手続きを利用することも良いと思います。ただ、もしそうでなければ、基本的にはがん保険を決める前に、一度お店などで、相談をしてもよいのではないかと思います。
がんは一般的にお金が掛かると言われます。それは、先ほど触れたように、5年後生存率の上昇と、再発・転移による、治療の長期化があるからだと思います。それに対して、加入していたがん保険が対応できず、十分に保障が得られないとなると、かなりつらい思いをする可能性があります。
がんを知ることから
がんに備えるのであれば、がん保険の比較ではなく、まずがんを知ることが優先だと思います。なぜなら実態がわかなければ、保障内容を選ぶことができないからです。今の時代にがんになってしまった場合、どのような展開になる可能性があるのか?といった、あらゆるシナリオを考慮して選ぶ必要があります。
そして、がんというと、その治療費ばかりに目が行きそうですが、私が、経済的に最もつらいケースと考えるのは、治療の後遺症や副作用のつらさで、仕事の継続が困難になり、退職してしまうケースです。その場合、治療費よりも日々の生活費の備えが必要となってきます(※4)。
(※4) がんでの生活費への備えについては、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください
面倒でも時間をかけて
是非、がん保険が気になったとしたら、まずご自身に必要な情報があるかどうか、是非確認していただきたいと思います。そこに、不安があるとしたら、お店などに相談に行くこともひとつの選択肢です。
その機会に、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても情報を得て、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※5)(※6)。
保険商品のはなししかできない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。
(※5) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
(※6) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください