がんのお金|『傷病手当金』がんだけではないですが、公的保険制度に、働けなくなってしまった時の保障があるというはなし

私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってきて、お客様にどのようなことがご心配か、伺ってきました。

万が一、死亡してしまったら、家族の生活費が心配
万が一、入院してしまったら、入院費が心配
万が一、がんになってしまったら、莫大な治療費が心配

など、様々な声がありましたが、20代、30代といった、比較的若い世代の方を中心に、

働けなくなってしまった時が心配

という声もありました。がんにおいても、離職したことにより、生活に困窮する、もしくは治療を断念するといったことが、現実に起きています。

ただ、がん保険などの保険を考える前に、働けなくなってしまった時に、公的保障制度からお金を受け取れる可能性があることをご存じでしょうか。

そこで今回は、がんも含めて働けなくなった時に助けとなる『傷病手当金』、そしてその傷病手当金とがんの保険との関係、について一緒に見ていきたいと思います。

まさに今、『がんで働けなくなった場合の備えとして、がん保険を検討』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。


健康保険に、働けなくなった時の保障がついている

万が一、病気やけがで、仕事に出られなくなってしまった場合に、『傷病手当金』という保障があります。病気入院などで、仕事を休む機会がなかった人は、ご存じない方もいらっしゃると思います。

働いて給料を稼ぐことができないことに対する保障が、実は存在します。生命保険、医療保険、そしてがん保険を検討する際には、押さえておくべき制度です。

まずは保障内容を確認

では、どのような保障なのか?病気やけがが原因で、

・3日連続で仕事を休み
・給料が支給されない

ケースに、仕事に出られない、4日目以降の分に対し、手当てが支給されるという内容です。つまり、有給休暇中は、休んでも給料を受け取れるので支給されません。

具体的な事例でいうと、がんの手術で30日入院、その退院日で、残っていた有給休暇を使い切ってしまった。ただ、退院後も通院での治療が続くため、主治医の先生から仕事への復帰はしないよう指示された、というケースです。

この場合、退院後は、有給休暇がないため、職場復帰できるまでの間、『傷病手当金』を受け取れます。

※ちなみに、職場復帰できても、給料が大幅に減額になった場合などにも、一部支給されるケースがあります。今回はその点については省きます。

いくら?いつまで?

まず、傷病手当金はいくら受け取れるのか?大雑把にいうと、給料の3分の2というイメージです。正確な計算式は、

1日あたりの金額=(支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷30日×3分の2

となります。太字で表した部分の額は、みなさまの誕生月に届く、『年金定期便』を見れば、わかります。30万円の方であれば、

1日あたりの金額= 30万円÷30日× 3分の2 =6,667円(休職1日当たり)

となります(四捨五入などをしています)。まるまる1か月(30日)復帰できなかった場合、200,010円を受け取れます。本来の給料よりは低いですが、これがあるのとないのとでは、大きな違いではないでしょうか。

そして、仮に休みが長引いてしまった場合、 傷病手当金の受給は、支給日から1年6ヶ月が最長となります。この1年6ヶ月の間であれば、いったん職場復帰しものの、再び休むことになった場合でも、受給することができます(※1)。

※1 以前は、最初の受給日から1年6ヶ月の間でしか受給できませんでしたが、令和4年1月1日より、通算で1年6ヶ月に改正されています。


がん治療が、長期戦になった場合には、保障が受けられないこともある

この傷病手当金の制度、もちろんがんで休むケースにおいても、味方になってくれます。ただ、治療が長期戦となった時に、場合によって受給できないこともあるので、そこはあらかじめ押さえておきたいところです。

まず、誤解しやすい注意点があるのですが、傷病手当金支給日初日から、1年6ヶ月後までが、受給可能期間であるということです。1年6ヶ月分の日数受け取れるわけではなく、1年6ヶ月の間で休んだ日数分受け取れるということ、最初の支給日から、1年6ヶ月が経過したら、受給する権利がなくなると、理解しておく必要があります(※2)。

※2 これについては、令和4年1月1日より、1年6ヶ月の期限ではなく、通算で1年6ヶ月受給可能と改正されています。

目安は職場復帰後1年

そして、受給可能期間が終了したのち、再び同じ病名、もしくは関連する病気で休職してしまった時についても、注意が必要です。 最後の傷病手当金受給を全て受取り職場復帰した後、原則1年経過していないと、前回の休職と因果関係ありと見なされ、再び休んでも、傷病手当金を受給できないというルールがあります(※3)。

これはHPにも明記されていないので、 私自身が健康保険加入者として所属している、全国健康保険協会に直接電話して聞いてみました。1年という期間はあくまで目安で、最終的には医師の診断書などをもとに、審査が行われるそうです。

※3 始めにがんで一定期間受給し、仕事復帰後、すぐに交通事故で再び申請、といった全く関係ない原因の場合は、それぞれ申請可能です。

再発・転移のケース

今出てきたルールがあると、がんの備えとしては、一定の注意が必要だと思います。みなさまもご存じのとおり、がんには、再発・転移があるからです。再発・転移の場合だと、基本的には因果関係ありとみなされそうに感じます。

職場復帰して1年経過していれば、という目安はありますが、1年経過していれば必ず審査がとおるというものでもないようです。

ですから、がんの備えという観点においては、初回の1年6ヶ月の受給が終わった後については、過度に信用し過ぎない方が良い、ないものとして考えておいた方が良い、と私は考えています。考え方はそれぞれですが、少なくとも、このルールを知っておくということが大切だと思います。


傷病手当金でも不足があるならば、保険を考える

傷病手当金から受け取れる金額、そしてがんへの備えとして、自由に使っていい預貯金の金額、これらをよく吟味して、それだけでは保障が薄いということであれば、ここで保険の検討になります。その際に

① がんの治療費のために保険に加入するのか?
② 傷病手当金では足りない、収入面を保障するために保険に加入するのか?

どちらの考えで備えるかによって、選ぶ保険も変わってきます。①であれば、一般的ながん保険から良いものを選んでもよいと思います。

ただし、②であるならば、盲目的にがん保険に加入してしまうと、本当にがんになってしまった時に、目的が果たされない可能性がありますので、注意が必要です。

がんになったことに対する保険

『がんの備え=がん保険』と思っていらっしゃる方は、けっこう多いと、私は思っています。しかし私は

がん保険=がんの治療費への備え

と考えています。

がん保険で長期の就業不能(働けない状態)を備えることは、基本的に困難だと考えており、私のお客様へは、別の保険を使って、収入減に備えていただくようにしています(※4)。

※4 収入減に対する保険については、過去の記事「『がん保険、必要?不要?』論争があります。私はどちらかと言えば、不要かな・・・というはなし。」を、是非ご覧ください。

自営業者は対象外

ちなみに、ここまで見てきた『傷病手当金』ですが、国民健康保険に加入の自営業者は、対象外となります。自営業者の場合には、会社員、公務員などと比べて、公的保障は少し劣ります。自営業者の方の、がんへの備えとしては、

・自分ががんで、今までどおり働けなくても、他の人(家族または従業員等)で仕事がまわるか?
・事業資金や家族のためのものでもない、緊急時の自由に使える貯蓄が、どの程度あるか?

といったあたりが、まず確認事項になります。ただ、事業の内容や人員の状況などにより、備え方は変わると思うので、個別に相談されることをおススメいたします。

私も過去に、来店型保険ショップを運営していて、自分自身が突発的な病気で、22日間入院してしまい、事業主としての保障の大切さをあらためて実感いたしました。


傷病手当金を受け取るケース(働けない)を想定した保険になっているか?

傷病手当金制度を利用できる立場の方(会社員など)で、もうすでに、がんへの備えとしてがん保険に加入している場合、ご自身が加入する際に、傷病手当金などについて、担当者から話題になったかどうか、是非確認してみてください。

また、年金定期便を分析して、具体的にいくら受け取れるのか、それをふまえた保険の内容になっているかどうか、確認することをおススメいたします。

会社の制度なども確認

それ以外に、特に大きな会社にお勤めの方の場合、会社や健康保険組合独自の、保障がある可能性があるので、会社の福利厚生のしおりなどを確認することをおススメします。

国は今、従業員ががんになってしまっても、退職せずに復帰ができる環境を整えるよう、企業に要請しています。会社の規模などにより、どこまでできるかはわかりませんが、すでにあるものは知っておき、保険加入の際にも、考慮に入れた方がムダがなくなります。

真のがんの備えとは

繰り返しになりますが、『がんの備え=がん保険』ではありません。真のがんへの備えとは、今回触れた公的保障など、すでにある備えを理解することもそうですし、お金だけでなく、がん治療の実態や日本の医療のルールについて、理解しておくことなども含まれます。

がん患者さんは、様々な負担を負ってがんと向き合っています。その中で、もちろんお金の負担も小さくない場合があります。ですからがん保険を考えることも大切です。ただ、がんになってしまった時に、お金も含めてどのような負担があるのかを知ることが、本当のがんの備えと言えるのだと私は考えています。

そういった意味で、医療保険、がん保険の相談をする機会を大切にしていただきたいと思います。保険ショップなどに相談に行けば、保険を選択するにあたって、様々なアドバイスをもらえる可能性があります。是非その機会を大切にしていただきたいと思います。

医療保険、がん保険の相談の機会に、あなたの保険の担当者から、がんに関する保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなど、実際がんになってしまった時の影像が浮かぶ情報を得ながら、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※5)(※6)。

がんと聞いて、がん保険商品の選択肢しか出せない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします(※7)。

それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。

(※5) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください

(※6) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

(※7) 生命(がん)保険相談のセカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」を、是非ご覧ください


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