がん保険の選び方|『がんも含めた病気への備え』としての医療保険。その期待値は低めにしておくべき、というはなし

『医療保険』という保険に加入している人は多いと思います。私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってきましたが

『医療保険に加入したい』

という相談は、おそらくベスト3に入るほど多い相談内容であった気がします。そして、何か心配な病気はありますか?と伺うと、多くの方が『がん』とお答えになりました。

医療保険は『入院・手術の保険』

『医療』という言葉を聞くと、私たちが病院などで医師から受けるすべての行為を含むような印象があります。ところが医療保険という保険は、全ての医療行為に対してお金を払ってくれることはないので、名称的にどうなのかな?と昔から思っております。例えば

・風邪をひいて受診し、解熱剤を処方された
・腰痛で受診し、レントゲン取って痛み止めを処方された

これらは、基本的に医療保険の支払い対象にはなりません。

ケガ・病気の種類は問わない

医療保険は、基本的に『入院・手術』に対してお金を払ってくれる保険です。治療を目的としているという前提であれば、ケガ・病気の種類は問いません。ですから、検査入院だけでは対象外です。入院・手術をしたことに対し

・入院1日当たり、5千円お支払いします
・手術を受けたら、20万円お支払いします

といった内容になっているものが一般的です(金額や内容は、あくまで例です。イメージとしてとらえてください)。先ほど例にあげた風邪や腰痛での受診に比べると、入院・手術の方が医療費は高額になることが多いので、そこに備えておくという目的であれば、医療保険の加入にも一定の合理性があります。

もちろんがんで入院・手術となっても保障されるので、一定のがんへの備えにもなります。

入院費はがんでも変わらない

私たちが日本で健康保険証を出して入院し手術を受ける場合、一般的に『高額療養費』というものを申請をします(※1)。これは『1か月あたりの医療費自己負担額が一定額以上になった場合、それ以上は負担しなくてよい』という制度です。そのため『大手術を受ける入院といってもそこまでお金の心配はしなくてよい』という安心がそもそもあります。

これはもちろんがんも同じで、日本で入院する場合には病名による入院費の自己負担額に大きな違いはないと考えて構いません。ですから私が保険相談時にこの高額療養費制度をお伝えした方の中には

『この程度の負担だったら、医療保険いらないね』

と、当初の予定が変わる方もたくさんいらっしゃいました。そう言った方には、私もこう返しました。

『私もいらないと思います』

と。

※1 高額療養費については、過去の記事「『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください。

他のケガ・病気と違う、がん治療の特殊性

冒頭で紹介した『医療保険に加入したい』という方で、心配な病気が『がん』という方の場合、注意深くはなしを進めるようにしていました。というのも『医療保険でがんに備えるということは基本的にできない』と私は考えているからです。

もちろん先ほど述べた、がんの入院・手術代だけ備えたいとうことであれば、高額療養費と医療保険で十分カバーでき、場合によってはおつりもきます。ところが30年前と比べがん治療の現場は変化してきています。

長期化する通院治療

がん治療で3大治療という言葉を聞いたことがあるかと思います。がん保険のパンフレットにもだいたい載っていますが『手術・放射線・抗がん剤』を3大治療といい、現在の日本のがん治療の主なものになります。

このうち放射線と抗がん剤については、入院ではなく通院で行うことが多くなっています。そして手術は入院することが多いですが、その入院日数は以前よりも短期化しています。私の母も2011年に乳がんの手術を受けましたが、その入院日数は8日間でした。

約9年間、がんの再発・転移等で治療を続けましたが、入院をしたのはその時と最後の方に2週間程度でした。医療費負担も圧倒的に通院での治療費の方が高くつきました。こういった現在のがん治療に医療保険はあまり力になってくれない可能性があります。

仕事への影響も…

そしてがん治療が長期化してがんとお金について考えた時に、もっとも家計に打撃を与えることががん治療の後遺症や副作用などにより仕事ができない(収入を得られない)ケースです。高額療養費と同様、健康保険の制度で『傷病手当金』というものがあります(※2)。

これは、病気・ケガで、仕事に出られないときに、大雑把にいうと『今までの給料の、3分の2が、最長1年6ヶ月支給される』という公的保障です。これにより一定の保障は受けられますが今までより収入が下がり、かつ期間満了したら支給も停止されます。

収入を得られないまま長い治療期間が続いていく可能性があることが、がん患者さんにとってのお金の面での最大のリスクであると、私は考えています。

がんでずっと入院状態ということはかなり少なくなっています。残念ながら医療保険でがんに備えているということは、こういったケースを考えると非常に怖いことでもあります。

※2 傷病手当金については、過去の記事「『傷病手当金』がんだけではないですが、公的保険制度に、働けなくなってしまった時の保障があるというはなし」を、是非ご覧ください。

オプションでがんに備えられるが、いくつかの注意点

ただ多くの方が加入する医療保険。保険会社も商品開発競争を行っており、基本の入院の保障にオプション(特約といいます)でがんにより手厚い保障をプラスできるようにしています。代表的なものとして

・がん入院特約:がんで入院したら、基本保障の1日当たり5,000円にプラス5,000円をお支払い
・がん診断特約:がんの診断を受けたら、100万円お支払い
・抗がん剤治療特約:がんの抗がん剤治療を受けたら、1か月に1回10万円をお支払い

といったものがあります(名称や金額は、あくまで例です。イメージとしてとらえてください)。

いつのまにか高額に…

こうしたものを付加してがんへの保障を手厚くすると、一見、1階が医療保険、2階にがん保険という形で非常に手厚い保障の印象があります。しかし「心配だ心配だ」といろいろつけていくと、それに応じて毎月負担しなければいけない金額(保険料といいます)が高額になっていきます。

もし月々の支払いが家計を圧迫するのであれば保障のあり方を考え直すべきですし、反対に払っても家計に余裕があるという方であれば、医療保険には加入せずその分毎月の貯蓄額を増やしていくという選択も考えられます。

一蓮托生のリスク

がん保険の賢い選び方についての3つのステップをご案内します

医療保険にがんのオプションを手厚くしたいと考えた時、考慮すべきことがもうひとつあります。先々医療保険が不要になったり別の商品に乗り換えるためその契約を解約する場合、がんのオプションもすべて消滅するということです。保険契約の特性上、オプションだけを継続することはできないことがほとんどです。

がんに対して保険でお金の備えをしておきたいということであれば、単独で考えていくことをおススメいたします。

医療保険は最低限か不要、その分がんの備えに

私自身のスタンスですが、一般的な会社員とその配偶者の方であれば、基本的に、医療保険は不要だという考えです。それでもやはり医療保険は持っておきたいというお客様へは、最低限での加入にして毎月の出費を抑えることをおススメしています。

その分がんへのお金の備えについては、がん治療の現場や日本の医療のルールや万が一治療が長期化して働けなくなるケースなどについて情報をお伝えし、そのうえで保険を活用するかどうか一緒に考えていきます。もちろんがんの保険を考えるにしても、月々の家計を圧迫しないという前提条件のもとにプランを考えていきます。

がん保険ではなく、がんの保険

がんのお金の備えといえば、多くの方が『がん保険』を思い浮かべることと思います。でも私は先ほどの働けなくなったケースなどを考えると、一般的ながん保険では少し力不足と考えています。最初のがん診断の時点で1,000万円といった、大きな一時金を受け取れるような保険も選択肢のひとつとして提示しています(※3)。

最初のがん診断の時点で銀行口座にがん用の貯蓄ができあがる、そういった形が本来の保険の形と思っていますし、30歳くらいの方であれば、商品を選びプランの組み方を工夫すれば月々3,000円台の負担で加入することも可能です。

※3 大きな一時金が診断時に受け取れる保険の詳細については、過去の記事「『がん保険、必要?不要?』論争があります。私はどちらかと言えば、不要かな・・・というはなし」を、是非ご覧ください。

色々な意見を比較

私の意見もひとつの考えとしてとらえていただければと思います。是非、あなたの保険の担当者の意見と比べていただければよいと思いますし、様々な意見からあなたが納得する選択をしていただくことが最も大切です。

ただがんの備えに関しては、医療保険かがん保険かという比較だけでは不十分です。がんの備えの第一歩は、がんを取り巻く情報を得ることです。がんは情報戦ともいわれています。その情報をもとに何にどの程度備えていくか?そういったプロセスで、案内をしてくれる保険の担当者と出会っていただきたいと思います。

もし保険商品の説明しかしない担当者であれば、セカンドオピニオンをとってでもがんに詳しい担当者からアドバイスをもらうことをおススメいたします。

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