#32 高額療養費とがん治療|がん保険のトリセツ|第3章 がんとお金のはなし

前回がんで入院・手術となった場合、いくらくらいの医療費負担があるか、見てきました。健康保険の高額療養費を申請すれば、かなり自己負担額が抑えられます。

FPの方などで、『がんになっても高額療養費があるから、保険はいらない』というコメントがあります。あなたはどう感じますか?今回は、そのあたりを一緒に考えていきたいと思います。

最初は効果絶大!

【70歳未満 年収約370万円~約770万円の場合】
自己負担上限額=80,100円+(医療費-267,000)×1%

これは高額療養費を適用した場合の、患者さんの医療費自己負担額に関する計算式です。年齢や年収により区分がありますが、これは70歳未満、年収が約370万~約770万の方のものです(2022年8月2日現在)。

医療費300万円発生しても…

以前、先進医療にも指定されている粒子線治療について触れました。あの治療、前立腺がんなどでは、すでに健康保険が適用になっていて、この高額療養費を申請可能です。

粒子線治療は、1回約300万円の医療費が発生します。その300万円を上の計算式の『医療費』という箇所にあてはめ計算すると、あなたの自己負担額は、107,430円となります。

お金が余って旅行へ

初めてのがんで、かつ早期段階で見つかった場合、標準治療は手術である場合が多く、手術となれば基本的に入院をします。入院・手術のケースでは、高額療養費が使えるケースが多いので、10万円程度の医療費負担で済んでしまいます。

がん保険に入っていると、一定のお金を受け取ることになりますが、初めてのがんではお金が余ることもあると思います。そのお金で、旅行へ行ったとか、テレビを買い替えたなどという話しを耳にします。

高額療養費の落とし穴

さきほど具体的な数字で見たとおり、高額療養費はとても安心感の大きい公的保障のひとつだと思います。がんに限らず、健康保険が適用となるあらゆる病気・ケガが対象ですから尚更です。

しかし高額療養費は、がん治療とは相性が悪いところもあります。特に治療が長期化し、その治療の会計をする時に、それを感じます。

8万円を超えないと…

がんが再発・転移し、治療が長期戦となる場合、抗がん剤などの薬の治療を行うことが多いと言われています。この薬の治療、現在通院で行うケースが非常に多くなっています。

月に1度通院し、主治医の診察を受け、点滴で治療、または飲み薬を処方される。先ほどの計算式を見るとわかるとおり、自己負担が80,100円を超えないと、この制度は利用できません(所得水準、年齢等により変わります)。

毎月5万円の支出増

高額療養費は、1か月あたりの医療費自己負担がものすごく大きい時に、抜群の効果を発揮します。ところが、抗がん剤治療などの薬の通院治療は、毎月の負担が数万円程度のケースも多くあります。そしてそれが数年単位で続くこともあります。

例えば毎月5万円程度の自己負担。入院と比べれば安いかもしれませんが、5万円が毎月続いていく、それが家計の負担になるという人は、けっして少なくないのではないでしょうか。

高額療養費があるから…

がん保険が必要だ、不要だという論争があるようです。がん保険が不要だと述べる人のコラムなどを見ると、中には日本には高額療養費があるから、がん保険は不要というものがあります。

考え方は人それぞれだと思います。私の考え方は、高額療養費をがん治療費の備えに考えることは、あまり適切ではないというものです。

単発がんならばそのとおり

がん患者さんの中には、がんの発見がかなり早期段階で、手術できれいにがんを取り除き、その後何十年も何もなしという方もいらっしゃいます。

そのシナリオであれば、健康保険証と高額療養費で備えは十分だと、私も思います。しかしそのケースは、がんの特殊性が現れていないケースだと言えるのではないでしょうか。

転移の告知の方がダメージ大

初めてがんの告知を受けた時、ものすごく大きなメンタル的ダメージを受けると言われています。ただ、がん患者さんは『転移の告知の時の方がショックだった…』とも言います。

そして、転移があり、先ほど触れた長期の通院治療が行われた時、毎月数万円単位の支出が増える可能性があります。がんの備えを考える場合、単発、それとも長期戦、どちらを想定すべきでしょうか。

がん保険の出番

初めてがんになり、標準治療の入院・手術を受ける場合、ほぼ100%、高額療養費を申請し、医療費の自己負担は比較的小さくなります。

そしてがん保険に加入していれば、おそらくそれなりの金額を受け取ることになるのだと思います。ただ、がん保険の出番はここではない、それが私の考えです。

がん保険に入っていて良かった!

私は過去に、10,000回以上の保険相談会に携わってまいりました。その中で、過去にがんを経験した人もいて、『がん保険に入っていて助かった!』と言う方もいらっしゃいました。

ただ、明るくそう言える方は、単発で済んでいる方であることが多いです。長期になった場合、お金以外にも、メンタル面や身体的な負担などもあるため、がん保険のことだけで喜ぶことは少ないのかもしれません。

公的保障の限界後

がんの備えでがん保険を考えるのならば、公的保障が限界にきて、自己負担が増えるケースを想定すべきだと考えます。

詳細は次の章になりますが、がん保険に入るならば、長期戦になった時に役に立つがん保険の選び方も必要です。がん保険にも、単発に強い保障、長期戦で力を発揮する保障、様々あります。目的に合ったものを選ばないと、がんになってから困ることになります。

最後に

日本の公的保障は意外とたくさんあります。それらは国が用意してくれているものなので、頼りにしていいと思います。ただ、それらの保障は知らないと使えません。

がん保険とは、それらの公的保障ではカバーできないところ、もしくは足りない部分のために加入するものだと、私は考えています。

ですからがんの備えを考えるということは、治療がどのようなシナリオになる可能性があり、それに対してどのような公的保障がすでにあり、それで足りないところを明確にする。

それができて初めて必要ながん保険が見えてくるのだと思います。そしてそれは、なんとなく口コミがいいがん保険に入るだけでは決してできない、私はそう考えています。

是非、あなたのがん保険の担当者が、使える公的保障などについても、サポーターであることを願っています。

次回は『#33 長期戦のがん治療』というタイトルでお話ししたいと思います。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

◇◆◇補足◇◆◇

このがん保険のトリセツは、1つのコラムでの文章量は少なめに抑え、要点だけをお伝えするようにしています。内容について、もう少し詳しく知りたいと思われた方は、是非関連する別のコラムもお読みください。

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