がん保険の選び方|『がん保険の先進医療特約』つけるならば、治療の受け方も知っておく必要がある、というはなし

がん保険、そして医療保険のパンフレットでよく目にする『先進医療特約』。この特約は、お客様サイドで、つけるかつけないかを選べます。しかもこの先進医療特約、仮につけたとしても、100円程度の費用でつけることができます。

私も過去に、10,000回以上の保険相談会に携わってきましたが、医療保険、がん保険に加入される方の多く(ほぼすべて)の方が、先進医療特約はつけて契約をしていました。10,000回以上の保険相談会で、2名だけ、『先進医療特約は必要ない』とおっしゃられた記憶があります。

ただこの先進医療特約、先進医療というものの位置づけを理解し、受け方を知っておかないと、意味をなしません。

そこで今回は、多くの方ががん保険加入時に手に入れる先進医療特約、本当にがんになってしまった時に、使える状態にするために必要なことについて、考えていきたいと思います。

まさに今、『先進医療特約をつけたがん保険に加入しようとしている』あなたへ、お届けしたいはなしです。

主治医の先生から提案される治療ではないことを知っておく

今回のテーマ『先進医療特約』ですが、私が保険業界に入った2008年時点においては、いくつかの保険会社で出始めたという段階でした。その後、多くの保険会社も追随し、数年後には大半の保険会社の医療保険、がん保険でつけられるようになりました。

この先進医療特約、私自身、保険業界に入ったばかりの頃はまだ勉強不足で、先進医療は今までの治療では治すことができなかった病気を治してくれる、『夢の新しい治療』という印象を持っていました。そして、この特約をつけておけば、主治医の先生から従来の治療と、先進医療の治療を提案された時に、好きな方を選ぶことができる、そのようにとらえていました。

ところが、この先進医療、そういった治療ではありませんでした。

先進医療は実験治療

まず、この先進医療ですが、国立がん研究センターによると、以下のように定義されています。

先進医療とは、保険診療として認められていない医療技術の中で、保険診療とすべきかどうかの評価が必要であると厚生労働大臣が定めた治療法(評価療養)です。効果や安全性を科学的に確かめる段階の高度な医療技術で、実施できる医療機関が限定されています。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス

先進医療は、上記のとおり、高度な医療技術ですが、将来健康保険適用にすることが適切かどうか、効果や安全性を確かめている段階の治療ということです。つまり、国が判断するためのデータをとる『実験治療』、それが先進医療です(※1)。

(※1) 先進利用の詳細については、過去の記事「がんの備え|『先進医療』がんの夢の新しい治療?でも現実には、ほとんど受けられないというはなし」を、是非ご覧ください

治療の基本は標準治療

そして、私たちが日本でがんになった時、主治医の先生から提案される治療を、『標準治療』と言います。これは先進医療と違い、過去に安全性や治療効果に関する十分なデータに基づいて、現時点で最も推奨される治療です(※2)。

がんに関して言うと、手術、放射線、抗がん剤の3つの治療(3大治療)がメインになっており、主治医の先生からは、これらの治療を提案されることになります。そして、原則、先生から先進医療を受けることを勧められることはありません。私も過去にがん患者の家族という立場で、約9年間、母の主治医の先生と接しましたが、一度も『先進医療』という言葉は出てきませんでした。

(※2) 標準治療については、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

先進医療特約が100円程度でつけられる理由

先進医療特約の内容は、もし先進医療を受けたら、その技術料について、2,000万円を上限に、自己負担額と同額を払ってくれるというものです。簡単に言うと、かかったお金を払ってくれるということです。最近は、保険会社から医療機関へ直接払ってくれることもあるので、以前言われていた、数百万円のお金の立替え払いもいらいない場合があります。

しかし、最大2,000万円も払ってくれる保障が、なぜ100円程度の負担(保険料と言います)で加入できるのか?という疑問がわいてくる人もいらっしゃるかもしれません。

受ける人が少ないから

まず、100円程度で保険が成り立つということは、それで先進医療を受けた人への支払いがまかなえているからです。一般的に言えば、それほど多くの方が受けていないことの表れと言えます。

なぜ多くの人が受けていないのか。いろいろな要因が考えられますが、まずはがん患者さんが、先進医療の治療を知らないということがあると思います。そして、治療を知ったとしても、受けるための条件を満たしておらず、断念せざるを得ないということもあるかと思います(※3) 。

(※3) 先進利用を受けられないことについては、過去の記事「がんの備え|『先進医療』がんの夢の新しい治療?でも現実には、ほとんど受けられないというはなし」を、是非ご覧ください

日本の医療のルール

もうひとつ、さきほど述べた、主治医の先生から勧められる治療ではないということがあります。主治医の先生から推奨される治療が『標準治療』ですが、これは、医師が治療を決めるにあたって確認する、『診療ガイドライン』に載っている治療です。いわば、治療のマニュアルのような存在です。

そして、その診療ガイドラインには、先進医療という言葉は載っていない。これが、主治医の先生から先進医療という言葉が出てこない理由です。

先進医療は末期がんを治す治療であるわけではない

実験段階の治療とは言え、『先進』という言葉を聞くと、何かすごい治療という印象も受けそうです。もちろん高度な技術があるので、すごさはあるのだと思います。

がん保険のパンフレットに例として載っている『粒子線治療』。これは放射線治療の一種ですが、従来の放射線治療と比べ、がんだけをピンポイントで照射できる治療ということで、その副作用の少なさがメリットと言われています。ただ、この粒子線治療、原則早期のがんに対応する治療です。裏を返すと、末期がんだと、この治療は選択できません。

受けるための条件がある

また、がんであればなんでも良いというわけでもありません。粒子線治療の対象となるがんの種類についても、指定されています。そして、過去に放射線治療を受けていると、原則対象外などといった条件もあります。

先進医療は、国が判断するためのデータをとる実験治療です。ですから、その治療の対象者についても、細かい指定がされている、それが先進医療の実態です。

どこでも受けられない

さらに、先進医療は国が承認した医療機関でしか受けられません。実は、先進医療に指定された治療を行うことができる医療機関がたくさんあったとしても、国に承認された医療機関で受けなければ、先進医療として受けることはできません。

このように、先進医療を受けられる医療機関が決して多くないということが、がん患者さんに情報が届かないひとつの要因かもしれません。

がん保険は、がんを知ってから入るべき

結論としては、先進医療をもし受けたいのであれば、自分で情報を取りにいかなければならないということがあります。がんになってから、あらゆる情報を集めようと思っても、それは困難です。ということは、がんになる前に、がんになってしまった時に必要となる情報を持っておく必要があるということです。

先進医療特約は、健康保険がきかず、場合によって数百万円単位の費用が掛かる治療に対し、2,000万円まで実費を保障してくれる、非常に手厚い保障です。しかし、受け方を知らなければ、この保険の出番はありません。

がんを知り、必要な保障を

先進医療に限らず、がんに適切に備えるのであれば、がんのことを知らなければなりません。どういった展開が考えられるかということを明確にしなければ、何が必要な保障かということがわかりません。

ですから、順序としては、がん保険加入が先ではなく、がん情報を仕入れることが先でなければなりません。正しい情報と、がん保険を含めた、適切なお金の準備があってこそ、がんの備えと言えるのだと思います。

がん保険検討時にまず情報を

ではどこで情報を取れば良いか。日本においては、がんの情報だけを提供してくれる場所はほとんでありません。だからといって、自分で全て調べることも現実的ではありません。また、毎日がんのことばかりを考えているわけにもいかないと思います。

そういった中、確実にがんの話題が出る場面として、がん保険相談時があります。保険ショップなどに相談に行けば、がん保険を選択するにあたって、様々なアドバイスをもらえる可能性があります。是非その機会を大切にしていただきたいと思います。

がん保険や生命保険の相談の機会に、あなたの保険の担当者から、がんに関する保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなど、実際がんになってしまった時の影像が浮かぶ情報を得ながら、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※4)(※5)。

がんと聞いて、がん保険商品の選択肢しか出せない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします(※6)。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。

(※4) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください

(※5) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください

(※6) 生命(がん)保険相談のセカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」を、是非ご覧ください

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