#22 先進医療は受けられない|がん保険のトリセツ|第2章 がんと治療のはなし

前回、先進医療の中の代表的な治療のひとつである『粒子線治療』の特徴について見てきました。がんの種類によっては、まだ標準治療となっていませんが、国が先進医療に指定するということは、期待値もあるということです。

万が一あなたががんの診断を受けてしまった時、あなたのがんに対して治療効果の高そうな治療があるかもしれません。ところが一定の備えがなければ、先進医療、決して受けることはできません。

粒子線治療における実態

まだ治療効果が十分確認できていないとはいえ、メリットもあると思われる粒子線治療。どれくらいのがん患者さんが治療にたどり着いているのか。厚生労働省が主催の『先進医療会議』の議事録で実際の治療数が確認できます。

また、現在1年間で新たにがんの診断を受けるがん患者さんの数は、約100万人です。この100万人のうちどれくらいの方が粒子線治療を受けているのか、確認してみたいと思います。

2018年度の実施件数

2018年度、1年間に粒子線治療を受けられた患者さんの数の内訳は

陽子線治療 : 720件
重粒子線治療:1738件

2つ合わせて2458件となっています。

100万人のがん患者さんに対し、2458件。率にして、0.25%です。もちろん標準治療ではないので、30%や50%といった数値になることは無いと思いますが、ほとんど受けられていないのが現実と言えそうです。

この数値から想像すること

多いか少ないかの判断は難しいですが、高い数値とは言えないのではないでしょうか。ただ、高額な機器と高度な技術を用いた治療、素人考えだともう少し多くても…と感じます。

もし数が少ないと言えるのであれば、そこには何か理由があるのかもしれません。そして、その理由を考えてみることには、一定の意義あると思っています。

知らないから受けられない

そもそも100万人のがん患者さん、すべての方がこの存在を知っているのか。私は2010年の夏、母ががんになり、がん患者の家族という立場になりました。私はがん保険など、保険の仕事をしていたので、粒子線治療の存在は知っていました。

ただ知っていたものの、がんのことを学んでいなかったので、その場でその知識が役に立つことはありませんでした。そして、母とともにがんの告知を受けた時に、その場で主治医の先生から提案された手術を受けることを決めました。

知らなければ選択肢にならない

知っていても思いつかなければ何の役にも立たないし、まして全く聞いたこともないということであれば、決して選択肢にはなり得ません。

想像ですが、こういったがん患者さんは決して少なくない、むしろそういったがん患者さんの方が多いのではないかと思っています。

後から知ったとしたら…

仮に先進医療を知らなくても、主治医から提案された『標準治療』を受けていれば、国や医師が最も推奨する治療を受けられています。ただ、標準治療にも、術後のQOL(クオリティオブライフ、生活の質)の低下や副作用等デメリットもあります。

もし、手術を受けた後に、テレビで『粒子線治療』の特集番組などをたまたま目にして、あなたのがんに対し高い治療効果があるということを知ったとしたら、どのように感じるでしょうか。

対象でないから受けられない

粒子線治療は万能治療ではありません。高度な技術が用いられた治療法ではありますが、すべてのがんが対象となっているわけではありません。代表的なものが、乳がんです。乳がんは、臨床試験は行われているものの、まだ先進医療には指定されていません。

また、先進医療として行われている粒子線治療。国が今後標準治療にするかどうするか、判断するためのデータ取りの治療です。受けるためには、細かい条件をクリアする必要があります。

がんの状態などの条件

一部の例外はありますが、粒子線治療、すでにがんの転移があると治療が難しくなるとされています。一般的に比較的早期段階のがんが対象と言えます。ですから、受けたいと思った時に転移があれば、対象外となってしまう可能性があります。

先進医療などと聞くと、従来の治療では治すことができない末期がんを治す、夢の新しい治療と思う方もいますが、そういったものではないようです。

過去の治療歴からの条件

以前のがん治療で、すでに放射線治療を受けていると、やはり対象外となる可能性があるようです。過去に放射線を当てた場所に、さらに粒子線治療を行うと、重篤な副作用が出る可能性があると言われています。

最終的に、粒子線治療を検討したい場合、実際にその治療を行っている病院で医師に相談することが必要ですが、その治療効果だけ見て、過度に期待してしまうのは、あまりよくないかもしれません。

例えば肺がんでは…

先進医療として行われる粒子線治療。例えば日本人のがんでの死亡者数が一番多い、肺がん。肺がんにおける粒子線治療、それなりの効果が出ているようです。

そして手術などと比べると、治療効果以外の点でメリットも期待できるようです。死亡数が多いと聞くと、治療も慎重に選びたいと思うかもしれません。そうであれば、選択肢の存在は知っておいた方が良いのではないでしょうか。

条件によっては高い治療効果も

早期の肺がんであれば、手術に近い治療効果があると言われています。手術が最も治療効果が高いとしても、体にメスを入れる治療、体への負担は発生します。重粒子線治療を行うケースでは、場合によって1回の通院で治療は終了するようです。

治療効果と治療後の生活の質(QOL)、また家族や仕事の状況など、総合的かつ慎重に判断する必要がありそうです。

手術ができない患者さんの場合

体の状態などにより、手術を行うことができない患者さんもいるようです。そのケースで放射線治療という選択になる場合があります。粒子線治療も放射線治療の一種です。

放射線治療という選択では前に触れたように、がんをピンポイントで照射できるメリット、受ける受けないは別にして、選択肢として知っておいても良いのではないでしょうか。

以前と比べ、がんも治る時代になっています。実際がん患者さんお10年生存率は60%を超えています。ですから、治療後も人生は続いていくわけです。国もがんとの共生を課題にしています。

そのため、がんの治療を選択する際、治療後の生活への影響も、判断するための重要な要素になってきていると言えます。選択するためには何が必要か?それは選択肢です。

ですからがんの備えとは、がんの告知の瞬間から治療選択までの間、適切に対応できるための準備も含めるのだと思います。そしてそれはがん保険に入るだけでは決してできない、私はそう考えています。

是非、あなたのがん保険の担当者が、がんの告知を受けた瞬間から治療選択までの、サポーターでもあることを願っています。

次回は『#23 診療ガイドラインと先進医療』というタイトルでお話ししたいと思います。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

◇◆◇補足◇◆◇

このがん保険のトリセツは、1つのコラムでの文章量は少なめに抑え、要点だけをお伝えするようにしています。内容について、もう少し詳しく知りたいと思われた方は、是非関連する別のコラムもお読みください。

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