がんの備え|がん治療におけるセカンドオピニオン。取り方を間違えれば、目的が果たされない可能性があるはなし

東大医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一先生は、セミナー、書籍、コラムなどで、がんに関する情報を積極的に行っていらっしゃっていて、私もそこからよく学ばせていただいています。先日、2021年11月13日に配信された、日刊ゲンダイでのコラムで、セカンドオピニオンの取り方について触れられており、結構大切なはなしなので、お伝えしたいと思います。

放射線科医か腫瘍内科医に取りに行く

主治医からがんの告知を受け、治療として手術の提案を受けた時に、そのデメリットなどから違う治療方法は無いのかな?と疑問に思うことがあります。がんという、命にかかわる病気の治療ですから、いろいろな選択肢から納得して治療を選びたいという思いもあると思います。

その時の手段として、セカンドオピニオンがあるわけですが、自分の目的に対して、適切な取り方をしなければ、せっかく時間とお金と労力をかけて行ったのに、目的が果たされない可能性があります。

違う治療は、違う専門医に

セカンドオピニオンを取る時には、自分で行き先を探さなければなりません。その際、もし手術以外の選択肢を知りたければ、 放射線科医か腫瘍内科医など、違う治療を行っている医師にはなしを聞きにいかなければ、違う選択肢は出てきません。

『先進医療』などといった言葉を聞いたことがあるかもしれません。何か、非常に響きのいい言葉です。今回はテーマが違うので先進医療について、深くは触れませんが、がん治療と先進医療は、非常に関係が深いものです。もしあなたのがん治療において、先進医療を選択したいと思ったら、自分自身でその治療を行っている病院へセカンドオピニオンを取りに行き、受けたいといいう意思表示をしなければ、受けることはできません。

外科医に聞いたら同じ意見

元の病院よりも大きな病院へ行けば、いろいろな治療方法を教えてくれるだろうと、あまり深く考えることなくセカンドオピニオンを取りに行っても、行き先で外科の先生にはなしを聞けば、元の主治医と同じ手術を勧められることとなり、不信感が生まれてしまう可能性があります。

がんになってしまった時に、主治医の先生から、いろいろな治療の選択肢が示されて、その中から自分で選べるものだと思う方もいますが、基本的にはそうではありません。主治医の先生は、一定のルールのもと、最善と思われる治療を提案してきます。

医師の根拠は、診療ガイドライン

医師が提案するがんの治療は、医師が独自に決めているのではなく、『診療ガイドライン』という治療のマニュアルのようなものに基づいて、提案されます。がんの診療ガイドラインは、例えば、肺がん、乳がんなど、がんの種類ごとに作成されており、その中にはそのがんの進行度合いごとに、患者さんに推奨されるべき治療方法が書かれています。

手術が基本

がんの治療は手術と放射線、抗がん剤が3大治療と言われており、血液系腫瘍を除く固形がんを根治できるのは手術と放射線です。その中で、手術が可能な場合は、手術が推奨されることが多くなっています。ですから、外科の先生にはなしを聞きにいけば、あらためて手術を推奨されることとなります。もしあなたが、最初の病院で手術の提案を受けたことに、別の先生からも太鼓判を押してもらい、安心感を得るという目的であれば、あらためて別の病院の外科の先生にセカンドオピニオンをとることは良いと思います。

標準治療の存在

この診療ガイドラインに推奨れている治療方法を『標準治療』と言います。国立がん研究センター情報サイトによると、標準治療とは、

『科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます』

と定義されています。この『科学的根拠』とは、過去に臨床試験及び実際の治療において、最も実績があるという意味合いです。最良の治療とありますが、必ずしも、『最新の』とか『最先端の』という意味ではありません。

がん治療においては、日本では過去から手術が行われてきており、その意味でいろいろながんの種類において、手術が可能であれば、手術が最も推奨されるとなるケースが多くなっています。

セカンドオピニオンの行き先は自分で決めることを知っておく

先ほどの診療ガイドラインや標準治療の存在、いわゆる日本の医療のルールを知っておかないと、あなたががん治療の提案を受けた際に、なぜ主治医の先生は手術しか勧めてくれないんだ?という違和感を感じるかもしれません。もし、ネットで最先端のがん治療などの情報に触れた時に、なおさら先生との間にズレが生じます。

先進医療などの最先端の治療と言われるものには、治療効果の高いものも存在します。ではなぜそれらが医師から推奨されないかというと、まだ研究段階で、実績に乏しいからです。もし安全性や治療効果の実績が積みあがってくれば、いずれ診療ガイドラインに掲載され、標準治療となる可能性はあります。そうなれば、医師から推奨されることとなります。

あらかじめ情報収集を

今の時点で、全ての治療を知る必要はないですが、今まで述べてきた日本の医療の体系、ルールは知っておく必要はあります。そして、主治医の先生が提案する『標準治療』以外にも、選択肢自体はあるということも、できれば知っておいた方が良いと思っています。

なぜならこれを知らないと、納得感が薄くなる可能性があるからです。私も過去に、がん患者の家族という立場で、母のがん治療に立ち会っていました。当時は、この日本の医療のルールを知らず、治療はすべて主治医の先生の提案通りに受けました。もちろん先生の提案が間違っているとは思っていませんが、他にも治療方法はないのか?という疑問はありました。ただ、それに対してどのように動けばよいのかわからないという現実がありました。

診断後では冷静な行動???

がんの診断を受けた後では、メンタル的にもダメージを受けていますし、考えたり、調べたりする時間もそうはありません。先生からは、すぐに治療の提案がされて、それの日程などのスケジュールも示されます。他にも治療の選択肢があり、セカンドオピニオンなど、それを調べる手段を知らなければ、先生から示された治療方法に対し、

『お願いします』

というしかありません。本当にベストなのかどうかわからなくても、医者が言っているのだから…と、過去私もなりました。不満でもないけど、納得でもない、そんな気分になりました。

セカンドオピニオンを知ることも大切な備え

『がんの備え=がん保険』というイメージを持つ方もいらっしゃいます。また、『がん保険に入っているから、がんは安心!』と感じていらっしゃる方もいます。ただ、今回おはなししてきたことは、がん保険に入っていることでは、何も対応ができません。がん保険は、がんになった時のお金の備えです。お金があるだけでは、がんと戦えないということです。

がんは情報戦ともいわれます。そう、お金があるだけでは、情報は入ってきません。情報は自分で取りにいかなければ、決して入ってきません。取りに行くためには、情報があることを知らなければなりません。お金は、治療を受けてから必要になります。でも、情報は治療の前になければ意味をなしません。万が一、手術を受けた後に、別の治療の選択肢を知ったとしたら…。

がん教育の大切さ

がんに備えるということは、お金も大切ですが、情報を合わせて持つことで、初めて成り立つのだと考えています。実は、国もそう考えていて、今、中学校、高校では、『がん教育』がスタートしています。まだ、がんになるリスクの低いうちから、将来必要となる知識を学んでいます。これは非常に良いことだと思います。

子供のうちに教育を受けることで、大人になり、年齢を重ねるにつれ、がんへの備えをしていこうという意識が生まれると思います。これ自体は、20年後30年後の安心につながると考えられます。

社会人のがん教育

一方、すでに社会人になってしまった私たちは、そのがん教育を受けることはできません。さきほどのセカンドオピニオン同様、自分で取りに行かなければなりません。50代を超えてくると、がんになるリスクも上がってきます。では、すでに社会人になってしまった人は、どこでがんのことを知っていけばよいのか?

ひとつ良い機会となるのが、生命保険の相談時だと思います。生命保険のはなしをする時には、がんも話題となります。この時に、あなたの保険の担当者から、がん保険のはなしだけではなく、がん自体、そして先ほどの日本の医療のルールなど、がんに関する情報を得ていただきたいと思います。もし、あなたの保険の担当者が、『Aがん保険とBがん保険では、どっちがオトクか?』程度の知識しかないようでしたら、保険のはなしでも、セカンドオピニオンをとることをお勧めします。

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