がんの備え|『がん患者の家族』を経験して初めて分かった、がんに関する情報の出どころを学んでおくことの大切さ
2011年夏からの約9年間、私は『がん患者の家族』という立場にありました。現在、がんの備えを専門とするFP(ファイナインシャルプランナー)として、がんへの備えに関して深く学ぶきっかとなった経験ではありました。ただ、当時の私は、がんに対する知識があまりにも不足しており、がん患者であった母の力にどれだけなれたのか?という思いが今でも残っています。
また、治療は全て主治医の先生から提示されたものをそのまま受けていました。ただ、何か他の治療の選択肢はないのか、あったとしたら比較してどうなのか、といった情報を得ることがなかったため、不満はないが納得でもないというようなモヤモヤを感じていた記憶があります。
その後がん治療の実態や日本における医療のルールなどを知り、やはり当時の自分が全くの勉強不足であることを痛感しました。
そこで今回は、なぜ主治医の先生からの提案にモヤモヤ感が残るのか?また、がん患者、もしくはその家族という立場において、あらかじめ知っておいた方が良い日本の医療のルールについて、一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『がんの備えを考え始めている、そしてがん保険を検討し始めている』あなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
主治医の先生の言ったとおりに過ごした9年間
私の母は、乳がん治療で東京都内のある都立病院に約9年間お世話になりました。主治医の先生は外科の先生で、治療期間中に気づいたら外科部長になられていた方でした。人柄も穏やかで治療についても丁寧に説明してくれる印象があり、当時特に不満といった感じはありませんでした。
最良の治療の選択ではあるが
その約9年間、時間の経過とともに、残念ながら肺、骨、肝臓等への転移が見つかり、その都度先生から提案される治療を受けてきました。治療後の効果が高かったもの、低かったもの、副作用が大きかったもの、小さかったもの、それぞれではありましたが、特に大きな問題もないのかなという印象を持っていました。
あとから知ることになるのですが、私の母が受けた治療は、いわゆる『標準治療』と言われる、そのがんの状態でもっとも推奨される治療を受けていました。
なんとなく残るモヤモヤ感
あらかじめ、こういう治療を受けたいなどといった希望はなかったため、主治医の先生の提案通りに治療を受けてきました。それに対して、何か不満があるというわけではないのですが、なんとなくスッキリしないモヤモヤ感は常に感じていました。それはやはり、自分で治療を選択している感覚がなかったからなのだと思います。
提示される治療法は常に1つで、それを
『受けますか?どうしますか?』
という選択を迫られ、判断材料もないため、一瞬の沈黙ののち
『お願いします』
という回答を常にしていました。実際、日本において、こういった患者さんは多いのだと思います。
主治医の先生の提案の根拠を押さえておく
日本において私たちががんの診断を受け、主治医の先生から提案される治療は『診療ガイドライン』と呼ばれる治療のマニュアルに記載された、そのがんの種類、進行度(ステージ)に応じて
『最も推奨されるべき治療方法』
です。付け加えれば、最も科学的根拠がある治療方法でもあるといわれている治療方法です。
標準治療という軸
日本では患者さんが自分で調べなくても、最初から、国、医療界が科学的根拠に優れた『標準治療』を提案してくれるため、他の治療と比較をする機会がありません。人によっては、他の選択肢があるということ自体、知らないということもあると思います。
でも私たちは、診療ガイドラインと標準治療との関係を始めとする
『日本の医療のルール』
を知らないたため、スッキリ提案を受け入れる感覚がないのだと思います。
それに対するその他の治療
実は、日本にはがん治療の選択肢はたくさん存在します。でも、主治医の先生からその選択肢を示されることはほとんどないようです。なぜなら、先生は最初からベストと思われる治療を提示しているので、比較する必要がないからです。ただ、がん患者さんとしては、本当は納得して決めたいという思いもあると思います。
本当は、主治医の先生と徹底的におはなしをして、疑問や不安を無くしてから結論を出せたらベストなのだと思います。ただ、がん治療を行っている大きな病院を受診したことのある方ならおわかりだと思いますが、あの常に混雑している病院での数分の診察時に、それができるような雰囲気はとてもありません。
ですから私たちの側が、日本の医療のルールをあらかじめ知っておき、提案された治療に対し納得して結論を出したければ自分で時間を作る必要がある、ということを知っておけたら少しゆとりができるかもしれません。
セカンドオピニオンを検討する時の注意点
判断材料を得るための手段として
『セカンドオピニオン』
という選択肢があります。費用負担と時間制限はありますが、別の病院の医師に自分が受けている治療の提案について、客観的な立場から意見をもらうことができます。
なんのためかを明確に
そのセカンドオピニオンですが、何のために行うのかを明確にしていなければモヤモヤ感が深まってしまう可能性があります。それは
① 主治医の先生からの治療提案に対し、別の医師からも太鼓判を押してもらいたいのか?
② 別の治療の選択肢について詳しい説明をもらい、比較をしたいのか?
によって、セカンドオピニオンの取り方が変わってくるからです。
行き先が変わってくる
一般的な病院に行けば、医師は基本的に最も科学的根拠に優れた『標準治療』を勧めます。ですから、上の①が目的であれば、今受診している病院よりさらに大きな病院でセカンドオピニオンを取ることで、安心して主治医の先生の提案を受け入れる助けになると思います。
ただ、別の治療の選択肢を知りたければ、その治療を行っている病院でその治療を行っている医師に対し、セカンドオピニオンを取りにいかなければ自分が欲しい情報は入ってきません。
例えば、主治医の先生に手術(がんの切除)の提案を受けたが、できれば切らない治療を受けたいなどといったケースです。そういった時に、例えば放射線治療が選択肢としてあるならば、別の病院の放射線科の先生のところへ行く必要があるということです。
つまりセカンドオピニオンをうまく使うためにも患者さん側に一定の知識がないといけないのです。セカンドピニオンは、30分2万円などといった、時間と労力とお金をかけて行うものですので、有効に活用したいものです。
せめてがん治療の体系だけは、事前に知っておきたい
がんは情報戦とも言われています。身内に医師がいたりすればいいのですが、なかなかそうもいきません。残念ですが、情報は自分で取りに行かなければなりません。そして、ここまで述べてきたような、日本の医療の体系については、できれば元気なうちに仕入れておくべきだと思っています。
それはモヤモヤを解消しないまま、がん患者の家族として9年間過ごしてきた私の実感です。
ただ、日本においてはがん教育を行ってこなかったこともあり、日本に住む多くの人が、医療に対する知識を有していません。国もそれを問題視し、数年前から中学校、高校でのがん教育をスタートしています。
ただし、すでに学校を出てしまった私たち社会人にそれは届きません。ですから最後に、がんを知る機会のない社会人がどこで情報を収集できるのかをお伝えしたいと思います。
お金は後から必要に
日本で『がんへの備えとは何?』と街をゆく人にアンケートをとったら多くの人が
『がん保険』
と答えるのではないでしょうか。ですががん保険はがんになって治療を受けた時にお金を受け取れるものです。つまり、がん保険は基本的にはがん治療費への備えです。もちろん、再発・転移などでお金がたくさんかかるケースもありますから、がん保険が一定の安心を提供してくれることはあります。
ただし、繰り返しますががん保険は『がんのお金の備え』でしかありません。今回触れてきた情報については、何か安心を提供してくれることはありません。
がん保険選択時を大切に
すでに社会人になった人が、がんになる前に一定の情報を備えておくために大切な時間が『がん保険の検討時』なのです。意外と盲点なのですが、社会人ががんのことを考えがんのはなしをする、数少ない(唯一かもしれない)機会なのです。
がん保険を考える人はがんに対して不安があります。身内、知り合いや著名人のがんの情報に触れ『備えをしなければ』と思ってがん保険を検討します。せっかくがんの備えをするならば、是非お金だけでなく情報の備えもしていただきたいと思います。
そのためにがんに対する正しい知識を持つ保険の担当者に出会っていただきたいと思います。もし最初に出会った担当者ががんに詳しくなければ、その人からがん保険に加入することは避けるべきです。何に備えるべきか知らないのですから。その時は医療の世界と同様、別の担当者へセカンドオピニオンをとって、比較して決めることをお勧めいたします。
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