【CFPが解説】お金のムダ『使う機会のないがん保険』Part1 先進医療特約編|がん保険の選び方
【使い方を知らないと加入していてもムダながん保険の存在】
要約
多くの方が加入するがん保険。がん保険に加入している方のおそらく大半が付加している『先進医療特約』。先進医療を受けた時に、数百万円の費用を払ってくれるという魅力的な保障ですが、必要な知識や情報を持っていなければ使う機会がありません。それはつまり毎月ムダ金を払うということ。そういった使い方が難しいがん保険が増えてきていますが、その注意点について見ていきたいと思います。
この記事は
■先進医療を末期がんも治す『夢の新しい治療』と感じている
■先進医療特約に入りたい(入っている)
といった方のためにまとめてあります。
このコラムを読むことで
●先進医療の位置づけと日本のがん医療のルール
●先進医療特約を使うために知っておかなければならないこと
がわかります。
多くの方ががん保険検討時に『これつけたい』と感じ、実際付加している
先進医療特約
ですが、実際がんになってしまった方の大半は、おそらくこの保険を使うことなく治療が進んでいっていると、私は考えています。
その理由は
先進医療の受け方を知らない
からなのですが、今そういった使い方を知らなければ使うことができないがん保険が増えてきているという現実があります。そういった怖さに対し、どのように備えをしていくことが大切なのか、ということについて一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『保険ショップで先進医療特約を付加』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
最近早期の肺がん手術で入院
東京都青梅市在住、公務員で事務職の41歳女性の吉川知美さん(仮名)
2か月前に受けた健康診断で異常を指摘され精密検査を受けた結果、早期の肺がんが見つかりました。主治医からは手術でがんを切除することを提案され
「がんが治るのであれば…」
と、特に深く考えることなく2日前に手術を受けました。
手術は無事に終わり、主治医からきれいにがんは取り切れたということを聞きひと安心。
ただ今回受けた手術はメスを入れる範囲が広く、体へのダメージは大きいもので、あと2週間程度入院でリハビリを行う予定です。
また肺の一部を切除したため、肺活量が低下し呼吸がしづらくなるなどの影響や、手術痕が残ることなどが、今後気になるところです。
テレビに映る先進医療の肺がん治療
特にすることもなくベッドで療養中の吉川さん。夕方なんとなくテレビを眺めていたところ、17時ちょうど新しい番組が始まったようです。
メロディーとともに画面に映し出されたタイトルを見て
「えっ!?」
思わず声が出ました。始まったのは
切らずに肺がんを治す先進医療
最先端がん治療最前線!
というタイトルのがん治療の特集でした。
「すごい偶然…」
気になった吉川さんは番組を見てみることに。紹介されていたのは
重粒子線治療
と言われるもので、最新の技術を用いた放射線治療ということです。しかもその治療が行われているのは、吉川さんも知っているわりと近くにある病院でした。
従来からある放射線治療と違って
体内のがんだけをピンポイントでたたくことができる
というもので、それにより副作用が少ないことがメリットのようです。
また手術のように体にメスを入れることもないので、体へのダメージも少ないことも特徴で、早期の肺がんであれば
入院せず1回の通院で治療が終わり
翌日には仕事に行けるというケースもあるとのことです。
「すごい、何この治療!?」
吉川さんは驚きました。ただ、この重粒子線治療による早期の肺がん治療、現在は健康保険の適用となっておらず
先進医療
として行われているとのことです。そのため健康保険がきかないため
約300万円の費用は全額自己負担
ということですが
「お金があれば、こんないい治療が受けられるのか…?」
などと画面を見つめながら感じていた吉川さん。ふとその時
「えっ先進医療!?」
あることを思い出しました。
「これつけたい!」と選んだ先進医療特約
今から約2年前、吉川さんは自宅から車で約20分のショッピングセンター内にある来店型保険ショップへ、がん保険見直しの相談に行きました。
吉川さんは高校生の頃、父親をがんで亡くし、母親からは
「がん保険は絶対入っておきなさい」
と強く言われていたので、就職してすぐがん保険に加入しました。でも加入から15年以上が経過し
「今の時代に合わないのでは?」
とふとした時に思い、新しいがん保険に切り替えました。
お店でがん保険の保障内容をひとつずつ説明してもらっていた際に目についた
先進医療特約
の文字。内容を聞いてみると
所定の先進医療を受けたとき、通算2,000万円を限度に、掛かった金額を払ってくれる
ということ。たしかにがんは数百万円の治療費が掛かることもあると聞いたことがあった吉川さん。でもこの保険があればお金を気にせずこういったいい治療を受けることができると思いました。
「すごい!これは絶対つけたい!!」
吉川さんは、万が一がんになってしまった時に、お金を気にせず好きな治療が選べるよう、『先進医療特約』が付加された新しいがん保険に加入しました。
術後に思い出した先進医療特約の存在
入院中落ち着いたら保険会社にがん保険の請求をしようと思い、持参したがん保険の資料。保障内容を確認してみると、そこには『先進医療特約』の文字。
もし先進医療の重粒子線治療を受けていたら、この保険から約300万円のお金が支払われたのかもしれない。
「せっかく入っていたのに、なんで使うことを考えなかったのだろう…」
吉川さんは思いました。吉川さんが受けたのは
標準治療の手術
で、それは健康保険が適用となり、退院時の入院費用の見積もりは10数万円ということ。想像していたよりも高額にならないようです。
思い返してみると、主治医から肺がんの宣告を受けて治療に関する話しになった時
「この先進医療の話題にはならなかった気が…」
手術の提案を受け、他に選択肢もあるとは思わず、そのまま
「お願いします」
と吉川さんは答えました。
もしそこで話題になっていたら、がん保険の『先進医療特約』の存在を思い出していたかもしれない。そうしたら、手術による体へのダメージや、肺の一部を失うこともなかったかもしれない。
どうして主治医は選択肢として先進医療のことを教えてくれなかったのだろう。
・主治医が先進医療のことを知らない?
・主治医が意地悪している?
吉川さんは少し不信感が沸いてきました。
先進医療は実験治療
私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりました。その中でがん保険の相談もたくさん受けてきました。
がん保険の相談に来る方の中には、がんになってしまうと一度に数百万円単位のお金が掛かるという印象をお持ちの方が少なからずいらっしゃいます。
そして『先進医療』という治療に対し
今までの治療では治すことができなかったがんを治してくれる夢の新しい治療
という印象を抱く方もいらっしゃいます。
先進医療特約を考えるときに、まず知らなければいけないことがあります。それは、先進医療が
将来的に健康保険適用にするかどうか検討中の実験治療
だということです。
良い治療である可能性があるが、良いと判断するにはまだ早い(十分な治療成績が得られていない)段階の治療で、今後『良い治療とは言えない』と結論づけられ、先進医療から指定をはずされるケースもあり得ます。
反対に先進医療として治療を行ってきた結果、良い治療だと結論付けられ、その後健康保険適用となり安価な治療費負担で受けられるようになったがん治療も存在します。
先ほど例に出てきた『重粒子線治療』ですが、現時点では肺がん治療に関しては先進医療ですが、前立腺がんなど、一部のがんにおける治療においては、数年前から健康保険適用となっています(2023年2月1日現在)。
先進医療特約に加入する際には、これを大前提としてを知り、本当に加入する必要があるかどうか、よく検討することが大切だと私は考えています。
なぜ先進医療特約をつけたのか
吉川さんはがん保険を切り替える際、なぜ
「すごい!これは絶対つけたい!!」
と思ったのでしょうか。それはがんになってしまった時に
先進医療も治療の選択肢に加えたかった
からです。その治療を選択することにより治る可能性が高くなるのであれば
「お金を気にせず選べるようにしたい」
そう考えて先進医療特約に対しお金を払っていくことにしました。
でも実際肺がんになってしまった今回、先進医療特約の出番はありませんでした。主治医から手術を勧められたとき、先進医療が比較対象になることもありませんでした。
そして主治医の勧めに従い手術を受け、今ベッドで療養しています。基本的に治療は終了したので、これから先進医療を受けることはありません。手術を受けるかどうか判断する時点まで時間を戻すこともできません。
ですから『先進医療特約』に対して、毎月払ってきたお金はムダだったということになります。
吉川さんが自分でつけたいと思って選んだ先進医療特約は、なぜいざという時に選択肢になることがなかったのでしょうか。
先進医療は自分で受けに行くもの
多くの方が「これはつけたい』と言う先進医療特約。お金を払って付加するのであれば、先進医療の定義とともに、必ず知っておかなければならないことがあります。
それは
先進医療は自分で受けに行かなければ受けることができない
ということです。なぜなら基本的に
主治医から提案されない
からです。つまり、それを知らなければ、いざという時に選択肢になりません。だから先進医療特約は使い方を知らなければ
入ってはいけないがん保険
とも言えます。
なぜそうなるのでしょうか?吉川さんは、主治医が
・先進医療のことを知らない?
・意地悪している?
と不信感を感じましたが、それは誤った思い込みと言えます。
主治医が提案する健康保険が適用となる治療は、すでに治療効果や安全性などに十分な根拠(エビデンス)が得られていて
がん患者さんへ最も推奨されるべき治療であると、国が承認している治療
です。つまり日本の医療現場においては、健康保険適用の治療が
最も良い治療
という位置づけになっています。
先ほど述べたとおり、先進医療はまだ実験段階の治療です。ですから主治医から先進医療が勧められることは基本的にありません。
もし主治医が提案する治療と先進医療を比較したければ、自分で先進医療を行う病院へ行き、先進医療を行う医師に直接話しを聞く必要があります。
ですから、そういった知識や情報がなければ、先進医療特約に払ってきたお金が
ムダ金
になってしまうという現実があります。
使わない保険にお金を払わない
保険は本当につらい状況になった時に大きなお金を受け取って、保険に入っていて助かったと感じるために加入するものです。
そういった意味では、今回の吉川さんの先進医療特約ですが、そもそも加入する必要があったのでしょうか。
まさに今、来店型保険ショップなどで、がん保険に加入しようとしている方へお伝えしたいことが2つあります。
ムダながん保険が家計を悪化
日本では今、経済的にゆとりがないという世帯が増えてきていると言われています。また、将来に対して経済的な面で不安を感じる人も増えてきていると思います。ムダな出費を抑えてお金を貯めたいと思っている方は少なくないのではないでしょうか。
FPに家計相談をした時に、よく話題になるのが
ムダな保険料の節約
です。
ただ、そもそも論ですが、ムダな保険は最初から入る必要がありません。一方、収入が高くなり、貯蓄にゆとりができるまでの間、必要な保険の存在は重要です。なぜならアクシデントが発生した時に、家計に追加出費のゆとりがないからです。
がんになってしまった時に
治療費をまかなう貯蓄がまだ十分できていない
だからがん保険加入時に、その必要性を十分認識したうえで、家計負担が大きくなり過ぎない前提で、必要な保障が得られるがん保険を選択していただきたいと思います。
こういったがん保険が増えている
実は今回テーマとなった『先進医療特約』を始めとした
使い方を知らなければ出番がないがん保険
が、以前よりも増えてきていると私は考えています。そしてその使い方は、がんになって主治医から治療の提案を受ける前に知っておかなければなりません。
初めてがんの宣告を受けた瞬間、頭が真っ白になり思考する力が失われ、その場で主治医の提案する治療をそのまま受け入れているということも少なくないと思います。
もし、先進医療を比較対象にしたいのであれば、メンタル的なダメージのあるこのタイミングで動かなければならず、それをするにはあらかじめ情報を知っていることが必要であると、私は考えています。
今回の吉川さんのように終わってから知ることは、とてもつらいことであるかもしれません。ですから万が一がんになってしまった時に、主治医からの治療提案だけでなく
「私は他の治療と比較してから納得して治療選択する」
という強い意思がないのであれば、先進医療特約は不要な保険となります。なぜなら、がんになったときの治療費への備えになっておらず
ただただ家計収支を悪化させている
からです。
反対に治療を決める場面で治療を比較して選びたいならば、そのために
必要な情報
をあらかじめ知っておく必要があります。先進医療特約を考える時に、その保障の内容だけでなく
先進医療の定義や受け方
まで知って、初めて本当の保障になるということを理解していただきたいと思います。本来吉川さんへがん保険を提供した担当者から、必要な情報が伝えられていることが望ましいのですが、おそらくそれはなされていなかったのだと思います。
この10年くらいの間に、あらたにがん保険や医療保険に加入している方の大半は、その保障内容の中に先進医療特約が付加されていると思います。
是非この機会に、がん保険加入時に
・あなたはなぜ先進医療特約を選択したのか?
・先進医療の使い方まで説明を受け理解しているか?
を振り返ってみてください。
もし今回お伝えした先進医療の話しについて、全く知らなかったということであれば、あなたのがん保険の担当者は、あまりがんについて知識を持っていない可能性があります。 まさに今がん保険を検討する方は、がんのことを良く知る担当者に相談することをお勧めいたします。
がん治療は、治療費など経済的なことだけでなく、情報戦の側面もあります。一度話しを聞いた担当者があまりがんに詳しくないようであれば、別の担当者、別のお店であらためて相談し、慎重に判断することをおススメいたします。