【CFPが解説】がん転移時にまさかの支払対象外、回数無制限がん診断給付金の落とし穴|がん保険の選び方

【1年に1回、回数無制限も、4年後がん転移時にまさかの支払対象外、がん診断給付金の落とし穴と選ぶ際の注意点】

要約

がん保険加入者の多くが付加している『がん診断給付金』。これはがん診断時に100万円といったまとまった一時金を受け取れるため、安心感の高い保障のひとつです。そしてがん再発・転移時にも一定の条件を満たせば、再び100万円を受け取れるといった点もメリットと言えます。ただし、その一定の条件には保険会社ごとに違いがあり、がん治療最前線をふまえて商品選択をしないと、まさかの『支払対象外』という事態を招きかねません。がん診断給付金の落とし穴と選ぶ際の注意点を見ていきたいと思います。

この記事は

■そろそろがんが気になり始めている
■どんながん保険がよいのかわからない
■がん診断給付金はどれがよいのか知りたい

といった方のためにまとめてあります。

このコラムを読むことで

●がん診断給付金の基本的な仕組み
●がん保険商品ごとの支払条件の違い
●がん診断給付金選びで最も大切なこと

がわかります。

がん診断給付金はがん診断時に100万円といったまとまった一時金を受け取れるため、がん保険においては非常に重要な保障のひとつです。そして最近のがん診断給付金は、1年に1回、2年に1回といった限度はあるものの、回数無制限としているものがスタンダードです。

ですが、がんの再発・転移などで、2回目の受け取りをする際には、診断以外の一定の条件が付加されているのが一般的です。パンフレットを見比べるだけだと

その違いはたいしたことではない

と感じがちなのですが、実はがんの再発・転移の際に支払対象外となってしまうこともあるので大変注意が必要です。そのがん診断給付金を賢く選択するためには、がん治療の実態とがんで本当に備えが必要なケースを知ることが大切です。

そういったことについて、なぜ大切なのか事例やがん治療のデータなどをもとに一緒に見ていきたいと思います。

まさに今、『保険ショップでがん診断給付金を比較』しているあなたへ、お届けしたいはなしです。

回数無制限も2度目は支払対象外

東京都練馬区在住、都内の金融機関で事務職として勤務する40歳女性の木村陽子さん(仮名)。年収は約480万円、将来に向けて32歳の時にマンションを購入し、現在は住宅ローンを返済しながら暮らしています。

そんな木村さんですが、4年前乳がん検診から早期の乳がんが発覚し手術を受けました。幸い無事に手術は終わり、その後は定期的に通院し、再発がないかどうか検査を行い現在に至ります。仕事へも無事に復帰し、住宅ローン返済も滞りなくできています。

木村さんはマンションを購入する直前、女性特有のがんなどへの不安を感じ、また住宅ローン返済への備えも欲しいと思って、休日に自宅の最寄り駅近辺の来店型保険ショップへ相談に行き、がん保険に加入していました。木村さんが加入していたがん保険は

①がんの診断を受けたら、100万円
(1年に1回を限度に回数無制限)
②がんで入院をしたら、1日当たり1万円

(日数無制限)
③がんで手術を受けたら、1回20万円

(回数無制限)
④がんで通院したら、1回5千円

(退院後120日以内の通院で回数無制限)

というもので、4年前の治療の際には①から④の全てに該当し、合計で130万円を受け取りました。約1週間の入院費用が16万円程度で、残ったお金でその後の通院費用もまかなえているので、がん保険に加入して本当に良かったと感じました。また、がんは再発・転移などが怖い病気でありますが、このがん保険があればお金についての心配はないと思っていました。

そんな木村さんですが先日の検査で、がんが肺へ転移していることが発覚、主治医から抗がん剤治療を提案され木村さんは主治医の言うとおりに治療を受けることにしました。そして本日、仕事を休んで最初の抗がん剤治療を終えて帰宅した木村さん、さっそくがん保険の請求をするために保険会社のコールセンターに電話をかけました。

「私のがん保険は前回お金を受け取った時から1年たっていれば、また100万円を受け取れるはず。3週間に1回仕事を休まないといけないし、この100万円は助かる。もし治療が長引いても、また1年たてば100万円もらえるはずだから、お金はある程度安心かも…。」

混みあっているため電話がつながるまでの保留音を聞きながらそんなことを考えていた木村さんですが、その後保険会社のオペレーターから予想外の回答が

「今回の木村様のがん治療の場合はお支払い対象外となります」

2回目以降は『入院』が条件

まさかの回答に木村さんは驚き、がんの診断で100万円の保障は1年に1回支払われるはずと、その理由を尋ねました。するとオペレーターからは

「前回のお支払いから1年経過していることと、今回診断されたがんの治療のために『入院すること』がお支払いの要件となっています」

との回答。木村さんは手元に置いてあるパンフレットをよく見ましたが、確かに細かい字でそう書いてあります。木村さんは落胆しながら電話を切りました。

木村さんは先日がんの転移の診断を受け、本日から通院で抗がん剤治療を受け始めました。この抗がん剤治療、主治医からは長期で続けていくということを聞かされました。ただし、入院せずに治療が可能であること、仕事を辞める必要もないことを聞かされ、少し気が楽になりました。

そして乳がんの5年生存率は、現在9割を超えていて、10年生存率も8割近くであることを知り、前向きに治療を頑張っていこうと思っていました。 さらにこれから長期でかかるかもしれないお金に関しては、がん保険から1年に1回100万円受け取れるのでとても安心だと思っていました。

がんで入院しないわけがない

木村さんはこの4年間がんと向き合ってきて、少しずつがんという病気のことがわかってきました。がんになる前は、『がん=死』というイメージを持っていて、主治医からがんの告知を受けた時は頭が真っ白になってしまい、衝撃を受けたということ以外、記憶があまり残っていないほどです。ただ治療を受けていく中で、乳がんでも長生きして、しかもそれまでどおり仕事をして生活をしている人がたくさんいることを知り、前向きさを取り戻すことができました。

そして今、がん保険を選ぶ時の記憶がよみがえってきました。駅前の来店型保険ショップで、自分より若い雰囲気の女性スタッフからがん保険をいろいろ紹介してもらい、最終的に2つに絞られました。

その2つのがん保険の違いが『100万円の一時金の支払い要件』ということで

A:1年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は治療のために入院した場合にお支払い
B:2年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は入院または通院で治療を受けた場合にお支払い

であったような気が。その時木村さんは「がんの治療で入院しないわけがない」と思っていて、2年に1回よりも、1年に1回の方が絶対にいいと、現在加入のがん保険を選びました。そのお店で出してもらった、がん保険の提案書の中の『1年に1回』という箇所に赤ペンで丸をしたことを思い出しました。

細かいがとても大きい支払要件の違い

1年に1回100万円が受け取れると期待していたにもかかわらず、まさかの支払対象外で落胆してしまった木村さん。どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。

木村さんはがん保険選択時、一般的に『がん診断給付金(※)』と呼ばれる、がんの診断を受けたら100万円受け取れる保障の違いで2つのがん保険を比較しました。その内容は

A:1年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は治療のために入院した場合にお支払い
B:2年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は入院または通院で治療を受けた場合にお支払い

というもので、前回お金を受け取った時からの『経過年数』と『その他付随する条件』に違いがありました。木村さんは「がんで入院しないわけがない」と思っていたので、迷わず『経過年数』が1年とより短いがん保険の方が優れていると思い、そちらに加入しました。

がん診断給付金と呼ばれるこの一時金保障は、自由に使えるまとまった一時金を受け取れるため、がん保険の中でも非常に重要な保障のひとつであると私は考えています。そのため、この2回目以降の支払要件の比較と選択は、本当にがんになってしまった時のために慎重に行う必要があります。

以下でその2つの比較対象について詳しく見ていきます。

(※)診断給付金という名称が多く見られますが、保険会社、がん保険商品により名称が異なることがあります。

前回からの期間

まず『経過年数』ですが、世の中に流通するがん保険の診断給付金を見渡してみると

・1回限りで終了
・3年に1回
・2年に1回
・1年に1回

といったものが存在します。これは上から古い順と思っていただいてよいかと思います。10年、20年前のがん保険では、1回受け取って終了というものが多くありました。その後複数回支払われるものが増えてきて、ひと頃は2年に1回というものがスタンダードになっていましたが、ここ数年で1年に1回というものがかなり増えてきています

ここの違いが最初のチェックポイントです。ここの点にがん保険商品ごとの違いがあることを知ってください。木村さんがそうであったように、2年より1年に1回の方がいいと思うかもしれません。もちろん間違いではないですが、一方で

A:1年に1回100万円
B:2年に1回200万円
C:1回限りで1000万円

AとBだとどちらが良いと感じますか。またCは1回しか受け取れませんが、Aの10年分の金額を最初のがん診断時に受け取る計算になります。

これについては、答えがあるはなしではなく、その方の置かれた状況(家族、仕事、収入と貯蓄状況など)に応じてふさわしい選択が変わってくるものです。そして2つ目の『経過年数以外の条件』との組み合わせにより、変わる可能性があります。

入院・通院・治療等の有無

がん診断給付金の支払い要件のうち『経過年数以外の条件』について、世の中に流通するがん保険を比較してみると

・がんの治療目的で入院したら
・がんの治療目的で通院したら
・がんの再発・転移など新たながんの診断があったら
・がんが存在すれば

といったものがありますが、私の個人的な見解ですが、

『入院したら』

という条件のものは基本的に避けた方がよいと考えています。理由はのちほど述べますが、これからのがん治療を考えた時、この条件は非常に厳しいと言えるかもしれません。

その他に『あらたながん診断』が必要なケースがあるのですが、これは今回の木村さんのように転移が見つかったなどということが条件になっています。その場合、ひとつのがん治療が長引いて1年経過した、2年経過した、と経過期間の条件を満たしても、それだけでは支払われないという意味です。

また、治療の中身についても条件がある場合があります。これは例えば、手術や抗がん剤のように積極的にがんを叩く治療は対象だけど、再発予防のホルモン療法などは対象外となっているものが存在します。

ここ最近『1年経過後がんが存在すれば』という治療や再発などの有無に影響されないがん診断給付金も出てきました。パンフレットだと『100万円』とか『回数無制限』といった部分が目立つように表示されていますが、小さい文字で書かれている説明書きに大きな違いが存在します。是非ここの比較を入念に行っていただきたいと思います。

がん保険選びの前提はがん治療の長期化

さきほど『入院したら』という条件は避けた方がよいといった見解を示しましたが、それを含めがん保険の診断給付金はどのように選んだらよいのでしょうか。

まずは一旦パンフレットから離れることが大切です。どういうことかというと、がん保険の保障がどうかということよりも、日本のがん治療の実態がどうなっているかを知ることが先だということです。現在も毎年約100万人が新たにがん診断を受けているこの日本で、がんになった時にどのようなシナリオがあり得るのかということを映像化(イメージ)しなければ適切な選択はできません。

大きく2つに分けると、日本でがんになってしまった時に『単発で終わるか』『再発・転移で長期戦になるか』というシナリオになります。がん保険を考える場合には、必ず後者を前提に考える必要があります。なぜならお金でより困るのは後者だからです。

ですから今回の木村さんの事例のように、がんが転移してしまい長期の抗がん剤治療を行っていくといったシナリオがあるということを前提にがん保険選びをすることが大切です。最初からパンフレットの比較をしてしまうと、ついつい『AとBどちらがオトクか?』ということばかりに目が行ってしまい、大切なことが見落とされてしまう可能性があります。

入院・通院比率の変化

今回の木村さんの事例では、がんの転移があった後の治療において入院をしなかったために、1年に1回受け取れるはずのがん診断給付金が支払い対象外という結果になりました。木村さんは「がんで入院しないわけがない」と思い込んでいましたが、実際はどうなのでしょうか。

図のとおり、この15年ほどで入院治療のがん患者さんと通院治療のがん患者さんの比率は逆転しています。

日本でがん治療を受ける場合、基本的には3大治療と呼ばれる『手術』「放射線」『抗がん剤』のどれかを受けることが一般的です。そのうち、『放射線』と『抗がん剤』は多くの場合通院で治療が完結するようになっています。また、手術はいまだに入院することが多いですが、その入院日数自体は短くなってきています。

そしてがんの再発・転移で長期戦となったシナリオにおいては、その治療は抗がん剤治療が多くなってきますので、自然と通院での治療が主体となってくる可能性があります。ですからがん診断給付金を考える時、支払要件に『入院』が条件となっていると厳しい結果になってしまうことを知っておく必要があります。

変化への対応がポイント

今回取り上げているがん保険の中の『がん診断給付金』ですが、これは100万円、200万円といったまとまった一時金を、がん診断の時点、もしくは治療の早期の段階で受け取れる保障なので、非常に安心感のある保障のひとつだと思います。

その選択において『入院要件』が厳しいということを例にあげました。では、最終的にどういったものを選択すべきなのでしょうか。

さきほどがん治療が『再発・転移で長期戦になる』ことを前提にすべきということを述べましたが、その前提のもとさらに

今後の変化に対応しやすい(変化に対して陳腐化しにくい)

ものを選択するということを付け加えておきます。

がん治療が長期化してくると、その間にがん治療の実態が変化していく可能性があります。がん治療の実態が変化しても、あなたが加入したがん保険の内容が変化することはありません。ですからその変化が起きた時に「昔の治療ならばお金をもらえたのに…」ということが起きにくいものを選ぶことが大切です。

なぜなら一度がんの診断を受けてしまうとがん保険の診査にとおらなくなって、新たにがん保険に加入することは限りなく困難になるからです。なるべくただし書きが少ないシンプルながん診断給付金を選ぶことが大切ですし、また加入後がんの診断を受ける前の段階で、必要に応じてがん保険自体の見直しをするなどの対応も重要です。

がん診断給付金を賢く選ぶために

がんとの戦いは情報戦とも言われますが、それはがん治療最前線の変化が早いということが要因のひとつであると、私は考えています。以前の常識が全く通用しない、今回の事例はまさにそれを示しています。

そういったことから、がん保険選びにおいて大きな教訓として言えることが

パンフレットの目立つところの比較だけでは賢い選択はできない

ということです。事例の木村さんはがん保険比較の段階で「がんで入院しないわけがない」という思い込みをしていて、2回目以降の支払要件に『入院』があるタイプのがん保険を選んだわけですが、本当はここの部分こそ最も慎重に検討をしなければならないところでありました。

先ほどの図で確認したとおり、現在のがん患者さんは、入院よりも通院で治療する比率の方が高くなっており、その差は広がり続けています。その治療実態の推移に対して今後のために加入するがん保険の支払要件に『入院』があることは適切ではありません。

つまりがん保険選択では、万が一あなたががんになってしまった時に、どのような治療が存在し、どのようにその治療を受けるのかということがイメージされなければ適切な選択ができません。そして、適切な選択ができていたのかどうかということを真に実感できるのは実際がんになってしまった時になるので、本当に慎重に判断することが大切です。

継続的な最新がん治療情報の取得

今回取り上げたがん治療における入通院比率の変化を始めとして、がん治療最前線は変化が激しいと言われています。がんはまだまだ分からないことも多く、新しい治療や薬の研究開発が世界中で行われているので、今後もその流れは変わらないと考えられます。

そのため、仮にがん保険加入時にはベストと思える選択をしたとしても、時間の経過とともにがん治療の実態が変化すると、加入したがん保険が知らない間に全く使いものにならなくなっている、そんなことも起こってしまうのです。

そうならないためには、がん保険加入後も定期的にがん治療最前線がどのようになっているか情報収集し、必要に応じてがん保険の見直しをすることも大切です。ただ、実際のがん治療などの最新情報を自分で継続的にチェックし続けることは可能でしょうか。

【最重要】早めのサポーターの確保

もし自分自身だけで対応が難しければ、そこは専門家の知識を活用することもひとつの手段だと思います。気になった時に気軽に相談ができるサポーターを確保しておくことも大事なことかもしれません。具体的には

・がんの知識を持つ保険の担当者からがん保険に加入する
・がんの備えを専門とするファイナンシャルプランナー(FP)に相談する

という手段があります。

その際にひとつ注意点があるのですが、実際に相談したあと

・説明がわかりづらく理解することができなかった
・自分が欲しい情報が得られなかった
・特定のがん保険ばかり勧められた

といった結果になってしまった場合、別の専門家にあらためて相談してください。これは私見ですが、保険の担当者やFPのがんに関する知識にはかなりバラツキがあると考えています。

今まさにがんの保険を検討している方にお伝えしたいことが3つあります。それは

①適切ながんの保険選択のためには、最初に最新のがん治療情報が必要であること
②担当者ががんに詳しくないのであれば違う担当者にあらためて相談すること
③保険加入後も適切な情報提供などのサポートが得られる担当者から加入すること

の3つです。

少し時間が掛かる印象があるかもしれませんが、がんの備えとして加入するがんの保険。本当に必要な時にその保険が機能するために、保険商品の選択だけでなく、担当者の選択という視点を持つことをおススメいたします。

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