【CFPが解説】本当にがん保険は不要?がん転移時に機能不全の高額療養費の弱点|がんの備え
【がん保険不要論を信じたもののがん転移時に気づく高額療養費の弱点】
要約
がんが気になりインターネットで情報収集をするとがん保険必要論とがん保険不要論の真反対の見解が存在することに気づきます。どちらにすべきか迷いますが『高額療養費があればそこまで自己負担額は大きくならないからがん保険は不要』という意見を支持して保険は最低限の医療保険だけ加入するという人も少なくないかもしれません。ただし高額療養費と医療保険でがん治療費がまかなえるという考えは『あくまで早期がんに対して』という前提を知っておく必要があります。がんが再発・転移というケースでは『高額療養費と医療保険の組み合わせで万全』と思っていた保障が機能不全になってしまい、200万円超の医療費自己負担額となる可能性があります。最初は万全だと感じていたがんへの保障がなぜ途中から機能しなくなってしまうのか、またそうならないためにがんの保障に何が必要なのか、見ていきたいと思います。
この記事は
■がん保険が必要なのかどうかよくわからない
■高額療養費と医療保険でがんの備えは大丈夫
■ネットで選ぶかショップに相談するか迷っている
といった方のためにまとめてあります。
このコラムを読むことで
●がん保険の必要性を判断するために必要な情報
●がん治療における高額療養費と医療保険の弱点
●最適ながんの保険選びで最も大切なことは
ということがわかります。
入院手術で医療費自己負担額が高額になってしまっても、高額療養費を申請することで最終的に10万円程度の負担で済んでしまい、その10万円を医療保険がカバーしてくれおつりまでくる。『がんに対しても万全の保障である』と感じるかもしれません。
ですが、その組み合わせでがんの備えを考えることには危険もあります。
その理由は
高額療養費と医療保険は早期がんに対する備えにしかならない
からなのですが、がん治療の実態とがんで本当に備えが必要なケースを知らなければ正しい保険選択をすることができません。最近は、インターネットで簡単に情報を得ることができますが、正しい情報をもとに判断することがとても大切です。
そういったことについて、なぜ大切なのか事例をもとに一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『インターネットでがん保険の必要性を判断』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
がん保険不要論を支持し医療保険のみに加入
神奈川県横浜市在住、会社員で41歳の田中瑞希さん(仮名)。
田中さんは大学卒業以来IT系企業に勤め年収は約450万円で現在はシングル世帯です。7年前に乳がんを発症し、現在も治療を続けています。会社ががん治療と仕事の両立に対して理解があり、病院受診時には気兼ねなく休暇を取得でき、出社の必要のない時には業務をオンラインでの対応にしてくれるなどのサポートをしてもらえて田中さんも非常に助かっています。
ただしがん治療に関してひとつだけ後悔の念があるのが過去の保険選択についてです。乳がんの診断を受けるちょうど1年前に田中さんはがんが気になり始め、がん保険の加入を検討していました。保険のことはあまりよくわからなかったためインターネットでがん保険について調べようと『がん保険』と入力したところ『がん保険必要』『がん保険いらない』といった検索候補が表示され、田中さんもまずはがん保険が必要か不要かということから見ていくことに。いくつかのコラムを見ていくと
【がん保険必要】
① 女性は20代後半からがんのリスクが高まる
② 長期療養で治療費が高額になる
③ 健康保険適用外で高額自己負担の治療がある
【がん保険不要】
④ もともと発症確率が低い
⑤ 入院は短期化傾向
⑥ 高額療養費で自己負担額は大きくならない
といった意見があることがわかりました。
様々な意見がありましたが田中さんは最終的に健康保険適用外の高額な治療などは受けるつもりはなかったため、それであれば【がん保険不要】の中の『⑥ 高額療養費で自己負担額は大きくならない』という意見を支持しがん保険の加入は見送りました。ただ全く保険がないことは不安でがん以外の病気のリスクもあり得るため、あらゆるけが・病気への備えとして
■けが・病気で入院:1日当たり10,000円のお支払い
■けが・病気で手術:1回当たり20万円のお支払い
という内容の医療保険だけインターネットで加入しました。
高額療養費と医療保険でおつりがきた
結局がん保険は不要という結論になり、がんの備えは高額療養費と医療保険という選択をした田中さんですが、7年前に乳がんが発覚し最初の治療時には自分自身の選択が間違っていなかったことを実感します。
会社の健康診断のオプションで受けた乳がん検診で乳がんが見つかったのですが、幸いがんは早期だったため8日間の入院手術で無事にがんを取り除くことができました。
高額療養費の申請をしたことで入院費用の自己負担額は約14万円。それに対して医療保険から
■入院1日当たり10,000円×8日間
■手術1回当たり20万円
の支払いがあり10万円以上のおつりを受け取ることができました。術後再発予防のために通院でホルモン治療を受けることになりましたが、残ったお金でその費用をまかなえたので、田中さんは万が一再発・転移などがあってもがん治療に対して万全の保障があると感じお金の面での不安はなくなりました。
がん転移で万全の保障が機能不全に
ところが乳がん発覚から3年経過後がんが肺に転移していることがわかりました。その時は手術をすることができない状態ということで、抗がん剤治療を通院で行っていくことになりました。おおむね3週間に1回通院して効果が続く限り治療を続けていくということです。
長期の治療となりお金もそれなりにかかるものと思われましたが、前回の経験から高額療養費と医療保険があることで自己負担はそれほどないものと安心していました。ところが治療が開始されて定期的に通院して治療費の会計をしてみるとあることに気づきます。それは
高額療養費と医療保険の出番がない
ということです。
毎月数万円の長期通院費
幸い抗がん剤の治療効果はあるようで、もちろん副作用などのつらさはあるものの仕事も継続でき自立した生活が続けられている田中さん。ただし治療後の医療費に関しては請求された金額を毎回そのまま支払っています。
前回の入院手術のケースと違いがん治療費が単発で大きくかかるのではなく、毎月毎月一定額がかかり続ける状態が続き、しかも今のところ終わりが見えません。
毎月数万円の治療費自己負担があり、今まで貯蓄に回せていた金額がすべて治療費に消えるようになりました。また月によっては赤字になることもあり、治療開始から数か月が経過したところで毎月の家計出費の見直しをせざるを得なくなりました。
そして毎月の出費をチェックしていて気づいたことがあります。それが
医療保険の保険料は払い続けなければならない
ということです。がん治療を長期で続けているにもかかわらず全く出番のない医療保険。田中さんは解約することも考えなければならないと感じました。
治療費自己負担額累計が200万円超に
がんの転移が発覚後抗がん剤治療を続けてきた田中さん。なんとか家計を節約して治療費も払うことができています。ただ、現在はなんとか仕事が継続でき収入を稼ぐことができているのですが、万が一病状が悪化する、もしくは副作用がさらに強くなることで、働けなくなってしまうことが心配になってきました。
がんというと100万円とか300万円といった大きな金額がまとまってかかるものというイメージを持っていた田中さんですが、現在のように1回あたりは支払える金額でも、かかり続けることで毎月家計を節約し続けなければならないという展開はまさに予想外でした。
その毎月発生している数万円単位のがん治療費ですが、計算してみると累計で200万円を超えました。もしがんがなければ200万円の貯蓄ができていたと考えると、将来に対する経済的な不安も出てきました。
そして何より
高額療養費で自己負担額は大きくならない
というがん保険不要論ですが、全てのがん治療に当てはまるわけではないことを痛感。もっと慎重に判断すればよかったと後悔の念が湧いてきました。
高額療養費の弱点とがん保険の役割
今回の事例の田中さんはインターネットで『がん保険不要』という考え方を支持し、初めてのがん治療の時には高額療養費と加入した医療保険のおかげで治療費をすべてまかなうと同時におつりまで受け取ることができました。
ところががんの転移発覚後の治療では万全と思っていた保障が全く機能することなく、治療費の全てを自分の収入や貯蓄から負担することとになったのですが、なぜそのような事態になってしまったのでしょうか。
田中さんは最初にインターネット上で『がん保険必要、不要』それぞれの意見を吟味したわけですが、がん治療の実態を知らない状態で見たため、本当に必要な保障の形がわからないまま判断してしまった可能性があります。
以下でがん治療の実態と高額療養費、及びがん保険の特徴について確認し、あるべき保障のあり方について見ていきたいと思います。
高額療養費と医療保険は早期がんへの備え
今回の事例で田中さんの最初の入院手術の際には高額療養費が申請できたため、入院費の自己負担額は14万円程度で済みました。そこへ医療保険から28万円の支払いがありむしろおつりを受け取るという結果になりました。
しかしがんの転移が発覚以降の治療においては毎月数万円単位の治療費が長期でかかり続けているにもかかわらず、高額療養費や医療費の出番がなくすべて自己負担となり、それが家計を圧迫する結果となっています。
がんの備えを考えるうえで大切なことなのですが、実は高額療養費と医療保険は『がんの早期段階に対する備えである』ということです。具体的にはどちらも入院手術に対して大きな助けになる保障といえます。
高額療養費は厚生労働省によると
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額(※)が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
※入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。
となっており、具体的な計算式は例えば今回の事例の田中さんの年収約450万円の場合は下記のとおりです。
自己負担の上限額 = 80,100円+(医療費―267,000円)×1%(※2)
この計算式の頭に『80,100円+』とありますが、これは『80,100円までは保障対象外で全額自分で負担してください』という意味です。それ以降の部分は『(医療費―267,000円)×1%』となっていて『それ以上費用がかかる場合に1%程度を支払ってください』という形なっています。
ですから仮に医療費が300万円発生したとしても、この医療費のところに300万円を入れて計算すると自己負担額は約10万円で済んでしまいます。
それから医療保険ですが今回の事例においては
■けが・病気で入院:1日当たり10,000円のお支払い
■けが・病気で手術:1回当たり20万円のお支払い
といった内容のもので、これは一般的な医療保険の保障内容です。文字通り『入院』と『手術』が支払いの対象となっています。
これらのことから
■高額療養費は80,100円までは保障対象ではない
■医療保険は入院・手術がないと保障対象ではない
といえ、がんが転移して
通院での毎月数万円の治療費が長期化する
という展開では全く保障が得られない可能性があります。
(※2)この計算式は、年齢、年収額等により変わります。正確な内容は厚生労働省HPでご確認ください。
進行がんへの備えががん保険
がん保険の役割は、まさに今回の事例のように、がんが転移して通院での治療が長期化した場合にその治療費を助けてもらうことといえます。もちろん最初の入院手術においても支払いを受けることはできます。しかしがん保険に加入する真の目的は
がんの再発転移で長期の治療費に備えること
です。ですから今回の事例において田中さんはインターネット上で
【がん保険必要】
① 女性は20代後半からがんのリスクが高まる
② 長期療養で治療費が高額になる
③ 健康保険適用外で高額自己負担の治療がある
【がん保険不要】
④ もともと発症確率が低い
⑤ 入院は短期化傾向
⑥ 高額療養費で自己負担額は大きくならない
といった見解に触れ、最終的に『⑥ 高額療養費で自己負担額は大きくならない』を支持したわけですが、がんの再発転移等で『② 長期療養で治療費が高額になる』ということをイメージできなかった可能性があります。
がん治療が長期化すると、累計で治療費自己負担が200万円以上となる場合があります。もちろんその事態を想定し、それでもその程度の費用は貯蓄で対応可能という場合にはがん保険は不要といえます。
ただし事例の田中さんのように、毎月の収入から数万円の貯蓄ができていた分が毎月のがん治療費に消えていき、今までできていた貯蓄ができなくなるという展開も無視できません。田中さんのようにまだ40代でこれから老後の準備を行っていくという段階の人が、毎月の資産形成ができなくなりそのまま老後を迎えてしまうという状況を想像することも大切であるといえます。
適切ながん治療費への備えとは?
がんが心配になりがんに備えたいと考えた時に多くの方が
がん保険に加入
を検討すると思います。そして現代ではそのためにインターネットで情報収集するということも一般的です。しかしインターネット上の情報は玉石混交ともいわれ、どの情報が信頼できるものか判断することが難しい場合があります。
そしてがんの場合その情報選択によってその後の事態に大きく影響を与える可能性があります。ですから正しい情報をもとに慎重に判断していくことが大切なのですが、それにあたって大切なことが2つあります。それが
■がん保険を考える際には治療の長期化を前提に考えること
■最新のがん治療実態をもとに考えること
の2点です。以下でその2点をふまええてがんの備えをどう考えていくかみていきます。
保険を含めてどう備えるか
今回の事例のようにがんが早期発見された場合には、一般的には入院手術でがんを切除するケースが多くなるといえます。入院手術となると医療費が高額になり、患者さんの医療費自己負担額も高額になることが想定されますが、その時には高額療養費が非常に大きな助けとなります。
先述したとおりこれを申請することで医療費自己負担額は10万円程度に抑えられ、プラス入院中の個室代、食事代や身の回り品費用などの諸雑費負担で済むため、実はがんでも入院手術のケースでは他の病気・ケガと費用負担はそれほど変わりません。
ただしがんが再発転移という展開では手術が不可能という判断がされ抗がん剤という薬での治療が推奨されるケースも多くなってきます。現在抗がん剤治療は通院で行われることが一般的で、数週間に1回程度通院し、月に数万円の費用負担となることが想定されます。繰り返しになりますが高額療養費は年収約450万円の人の場合
自己負担の上限額 = 80,100円+(医療費―267,000円)×1%
となっており、医療費自己負担額が80,100円までは保障がされません。そしてこれを超えた場合には保障はありますが約8万円は支払う必要はあります。
抗がん剤治療の特徴として
■毎月数万円の医療費負担が発生する
■その治療が年単位で長期化する
という2つの可能性があげられます。
こういった費用負担が発生しても耐えられる資産状況があればがん保険は不要となりますが、そうでない場合にはがん保険を選択肢のひとつとして考える必要があります。
そしてがん保険にも様々な種類が存在し、中には保障のメインが入院手術に対するものも存在します。すでに述べたとおり入院手術では高額療養費が存在するため費用負担はそこまで大きくなりません。ですからがん保険は長期の通院治療に対応できるものを選択することが重要です。
【再重要】早めのサポーターの確保
現代のがん治療で大きくお金がかかるのは
がんの再発転移等で通院治療が長期化したケース
があげられ、がんのお金の備えを考える場合に必ず押さえておきたいポイントです。ただしその前提は未来に向けてずっと同じではないということも実は大切なポイントです。
実は30年ほど前のがん治療はほとんどが入院を伴って行われていました。ですからがん保険は長期の入院費用に対応できるものが主流でした。
しかしがん治療最前線は、日進月歩で変化しています。がんはまだまだ分からないことも多く、新しい治療や薬の研究開発が世界中で行われているので、今後もその流れは変わらないと考えられます。
ですからがんの備えをするということは、継続的に最新情報を押さえて必要に応じて備えの形を変えていくということでもあります。ただ現実的に常に最新のがん治療の実態を確認して必要なメンテナンスを自分一人で行うことは難しい可能性もあります。そういった意味で、適切にがんに備えたいと考える方に対して贈るメッセージとして
早いうちから相談できる人(場所)を確保する
ことがあげられます。今回のような事例に対する専門家としては『がんや医療への備えを専門とするファイナンシャルプランナー(FP)』の存在があります。またがんに詳しい保険担当者なども選択肢としてあげられるかと思います。何か専門的なことを相談したいと思った時に
どこで、誰に相談できるのか?
ということがわからないことも少なくありません。そのために気軽に相談できるサポーターを早めに確保しておくことをおススメいたします。