がんの備え|『先進医療』がんの夢の新しい治療?でも現実には、ほとんど受けられないというはなし
『先進医療』という言葉。耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。非常に響きの良い言葉です。今までの治療では、治すことができなかったがんを治してくれる、夢の新しい治療。そんなイメージも浮かびそうですが、実は先進医療、そんな治療ではないのです。
最近は、医療保険やがん保険において、この先進医療を保障する保険も存在し、加入している方もたくさんいらっしゃいます。ただ、現実にはあまり受けられていない、という現実があります。私は医師ではないので、先進医療の善し悪しには触れませんが、がんになった時の選択肢として考えたいならば、先進医療の位置づけと、日本の医療のルールを押さえておかないと、選択肢になりません。
目次
実験治療としての先進医療
先進医療の位置づけと、その内容についてですが、国立がん研究センターがん情報サービスによると、先進医療とは、
保険診療として認められていない医療技術の中で、保険診療とすべきかどうかの評価が必要であると厚生労働大臣が定めた治療法(評価療養)です。効果や安全性を科学的に確かめる段階の高度な医療技術で、実施できる医療機関が限定されています。
と定義されています。
国が判断するためのデータ取り
説明が長くてわかりづらいかもしれませんが、今後、国が、健康保険の適用にするかどうか、判断するために必要なデータを取るための
実験治療
だということです。確かに高度な医療技術を用いた治療ではありますが、その効果と安全性を確かめている段階の治療です。この実験段階の治療であるという位置づけを、押さえておく必要があります。先進という良いイメージの言葉で誤解をしてしまうと、本当にがんになってしまった時に、冷静な判断ができなくなる恐れがあります。
全額自己負担での治療
また、現時点では健康保険が適用とならないので、 医療費はすべて患者さんの負担になります。私たちが日頃、かぜやけがなどで、病院で治療を受けた時、保険証を出すことで、医療費の負担は3割で済みます(※)。自分で保険適用外の治療を受けに行かず、医師から提案された治療を受けている限り、がんにおいても、医療費は3割負担で済みます。
ところが、先進医療は、国が健康保険の適用にするかどうか、検討段階の治療法であるため、受けるのであれば、その医療費は、10割患者さん負担です。その値段は、治療によってそれぞれですが、がんの治療で、1回受けると約300万円かかるものも存在します。
※実際には、年齢や収入等で違いますが、最大3割です。ここでは詳細は省きます。
大きく2つの理由で受けられない
現実的には、がん患者さんで先進医療を受ける方は、それほど多いとは言えないと思います。例えば、がんの先進医療では、がん保険のパンフレットにもよく出てくる、粒子線治療(重粒子線治療、陽子線治療)があります。高度な技術で、がんだけをピンポイントで照射できる、と言われている放射線治療です。
資料を見ていると、とてもいい治療法に見えますが、 実際その治療を受けたがん患者さんの数は、厚生労働省「第81回先進医療専門家会議資料」によりますと、
重粒子線治療が:1,738件 陽子線治療:720件 合計:2,458件(2018年度)
です。日本では今、毎年100万人の方が、新たにがんの診断を受けています。その100万人のうち、2,458件。率にすると、約0.25%です。
受けるための条件がある
実際に受けられない理由のひとつに、全てのがん患者さんが、治療の対象にはならないということがあります。先進医療は、国が健康保険の適用にするかどうかの、判断材料のデータを取る治療のため、受ける対象となる患者さんに、条件をつけています。
例えば、先ほどの粒子線治療であれば、
・転移がない
・過去に放射線治療をしていない
・対象となるがんの種類が指定されている
などといった、条件があります(※)。先進医療という言葉のイメージから、末期がんを治してくれるといったイメージを持つかもしれませんが、粒子線治療は、早期がんのための治療方法です。もし、先進医療も選択肢として考えたいならば、あらかじめ、このような条件などもあるということを知っておかないと、いざという時に振り回される恐れがあります。
※実際には、もっと細かい条件があります。詳細は、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)など、実際にその治療が行われている医療機関のHPで確認ができます。
医師からは提案されない
また、主治医の先生から提案されることは、基本的にはないということも理由にあげられます。 医師が、がん患者さんに提案する治療法は、診療ガイドラインという、治療のマニュアルに記載されている標準治療(※)です。 標準治療は、治療効果について、十分な科学的根拠があると国が判断し、健康保険の適用になっている治療です。その診療ガイドラインには、先進医療は載っていない。だから、医師から提案されることもないということになります。
ですから、ご自身で知らなければ、話題にもなりませんので、選択肢になることはありません。標準治療は、科学的根拠に基づいた、最も推奨されるべき治療法という位置づけですので、主治医の先生を信頼し、お任せするのであれば、先進医療を知る必要はありません。ただし、受ける受けないは別にして、あらゆる選択肢から納得して治療を決めたいと考えるのであれば、事前に情報を持っていないと、それは実現しない可能性があります。
※診療ガイドラインや標準治療については、「がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください。
選択肢にしたければ、自分で情報を取りに行く
もし、先進医療を検討したいと思った時は、
・その治療の詳しい、メリット・デメリット
・受けるための条件を満たしているのか
などの情報を、その治療を行う医療機関に、自分で取りに行かなければなりません。
セカンドオピニオン外来へ
先ほど出てきた、粒子線治療においても、その治療を行っている医療機関に、セカンドオピニオン外来が設けられていたりします。もとの主治医の先生に、紹介状や画像データなどを準備してもらい、セカンドオピニオンの予約を取って、あらためてはなしを聞きに行く流れとなります。がんの告知を受けて、主治医の先生からの治療の提案をいったん保留し、別にはなしを聞きに行く。
けっこう時間と労力を要します。それをあらかじめ知っておかないと、ひとつひとつ段階を踏むことをストレスに感じるかもしれません。また、セカンドオピニオン相談は、健康保険がききませんので、それなりの費用が掛かります。ある粒子線治療を行う病院のHPを見たところ、『60分以内、20,000円』となっていました。
慎重に判断を
自分が気になる治療法があると、どうしてもそのメリットばかりに目が行き、デメリットについて冷静に理解しないことがあります。さきほどの粒子線治療にしても、身体への負担が少ないということが、メリットとしてあげれていますが、一方、5年以内に再発してしまっている人がいるのも現実です。
納得して判断するためには、デメリットの面のデータなども、良く考慮する必要があると思います。せっかく費用をかけて相談に行くのであれば、行った時にどんな質問をするのか、あらかじめ準備をしておくことも大切です。
様々な治療の存在、そして日本の医療のルールを知ることも大切な備え
日本には、研究段階のものを含めると、たくさんのがん治療の選択肢が存在します。がんの告知を受けてから、ネットで治療法を検索すると、その数の多さに驚き、情報が多すぎてわからない、という状態になりがちです。そして、それらの情報に振り回されて、主治医の先生の治療提案に不信感をもってしまったりする、悪循環が生まれる恐れがります(※)。
※詳細については、「がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください。
まずは情報
がんの診断を受ける病院において、医師から提案される治療法は、診療ガイドラインに掲載されている標準治療が基本です。これは、最も科学的根拠に基づいた治療と、国が承認している治療方法です。ですから、日本でがんになった時には、この標準治療が提供されるということが、ある意味ルールになっています。もし、自分で他の治療を受けたいと考えるならば、それは自己責任という形になります。
がんの備えの第一歩として、この日本の医療のルールや治療の選択肢などの、情報を持つということが大切です。悩ましいのが、すでに治療を受けてから、違う治療法を知ってしまったケースです。もしあっちの治療を受けていたら…ということは、非常につらいことだと思います。
ですから、がんの備えは、お金よりも情報の方が先です。お金は、治療が終わってからのはなしです。もちろん両立させるものなのですが、一般的には、『がんの備え=がん保険』という印象を持っている人がまだまだ多い印象です。がん保険から情報は得られないことを、知っていただきたいと思います。
保険検討時を大切に
では、どこで情報を得れば良いのか?今、中学校、高校では、『がん教育』がスタートしています。これ自体は、非常にすばらしいことです。しかし、すでに社会人になってしまっている人は、そのがん教育を受けることができません。 どちらかというと、中学生、高校生よりも、社会人の方が、がんのことを早く知る必要があります。
社会人は自分で機会を作らなければ、情報が入らないわけですが、生命(がん)保険の検討(相談)時を、是非大切にしていただきたいと思います。生命保険のはなしをする時には、がんが話題となります。少なくとも私は、自分のお客様へは、がんのことをはなします。
がんへの備えは、情報とお金を合わせて持って、初めて成り立ちます。是非、あなたの保険の担当者から、がん保険だけでなく、必要ながんの情報についても、得るようにしてみてください。もし、保険のはなししかできない担当者であれば、別にセカンドオピニオンをとることをおススメします。
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