がん保険の選び方|『がん保険を考える必要がある人』いくつかのチェックポイントがある、というはなし
『がん保険って入った方がいいんですか?』過去に10,000回以上の保険相談会に携わってきましたが、このご質問も、数多くいただくもののひとつでしたがみなさんはどうお感じですか?
私の回答は今でも同じで、『がん保険には入らなくてもいいですけど、がんへの備えはしていただきたいと思います』というものです。もちろん、その後がん保険が必要かどうかは、お客様と一緒に考えていきました。
今回は、がん保険を考える必要があるかどうかのチェックポイントについて、見ていきたいと思います。
まさに今、『がん保険って入った方がいいの?』という疑問を持っているあなたに、一度読んでいただきたいはなしです。
目次
保険に加入する理由とは?
がん保険に限らず保険に入る理由ですが、万が一あるアクシデントが発生してしまった時に必要な貯蓄を取り崩さずに今までどおりの生活水準を保つこと、と私はとらえています。裏を返すと使ってしまっても困らない潤沢な貯蓄があれば、保険をかける必要がないということが言えます。
そのリスクを数値化する
そのアクシデントの種類ですが、一般的なものとして『死亡』『入院』『介護』最近では『就業不能』そして、このコラムのテーマである『がん』などが生命保険の分野ではあげられます。損害保険の分野では『自動車事故』や『火災』などが一般的です。
万が一アクシデントが発生してしまった時に、自分や家族の生活が困ってしまうかどうか、困るのだとしたら、どの程度の(いくらぐらい)困るのか?ということを、数値化していく必要があります。
ここでは詳細に触れませんが、例えば夫婦、子供1人(2歳)のご家庭の、会社員の夫が万が一亡くなってしまったというケースで考えてみます。夫の死亡後に、子供が大学を卒業するまでの20年間、かかる費用と収入を見積もります。
【妻と子供での費用】8,700万円
・毎月生活費30万円×12か月×20年=7,200万円
・今後の学費見積=1,500万円
【遺族年金と妻のパート収入】5,520万円
・遺族年金毎月15万円×12か月 ×20年=3,600万円
・妻のパート収入毎月8万円×12か月 ×20年=1,920万円
収入見込み5,520万円ー支出見積もり8,700万円=不足額3,180万円
現在の貯蓄額:500万円
保険でカバーすべき額:不足額3,180万円ー現在の貯蓄額500万円=2,680万円
かなり、大雑把な計算ですが、考え方はこのようになります(金額などはすべて例です。イメージとしてお読みください。実際の相談の場では、もっと細かいシミュレーションを行います)。
発生確率も参考に
ちなみに、発生したらどのくらいの損害になるかも気になりますが、どの程度の発生確率があるかも、知っておいた方が良いと思います。なぜなら、保険加入時ではなく入ってから発生確率を知ると、場合によって
こんなに確率が低いならばいらないのでは?
と感じる場合があるからです。保険が不要だと感じる方は、この発生確率から考えている方もいらっしゃいます。保険はもともと発生確率が低いから、その制度が成り立ちます。それを無駄と感じるかどうか、もちろんそれぞれ意見があっていいと思っています。
ただ、あとからそれを知って『無駄な保険に入らされた』と思ってしまうと、精神衛生上よくないと思います。保険を考えるうえで、先に発生確率も知ったうえで判断すれば納得できるので、あとで振り回されることもないと思います。
30~34歳の方の、人口10万人当たりの、死亡者(2020年):46.2人(0.0462%)
出典:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計」
30~34歳の方の、人口10万人当たりの、がん罹患者数(2017年):77.2人(0.0772%)
出典:がん研究振興財団「がんの統計2021(資料編P90)」
参考程度に、30代前半の方(男女平均)の、死亡とがん罹患リスクを示しました。
がんになってしまったケースをお金で考える
がん保険に加入すべきかどうか考えていきたいと思います。さきほど死亡時の考え方を提示しましたが、それをがんバージョンで考えていきます。ただし、がん治療は選ぼうと思えばかなり多くの選択肢があります(※1)。スペースの都合上、すべてを見ていくことはできませんので、ここでは健康保険証適用で、一般的ながん治療を行う医師から提案される『標準治療』を受ける場合という前提で考えていきます(※2)。
※1 がん治療の選択肢については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
※2 『標準治療』については、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
がん治療にはいくらかかる?
まず初めてがんが見つかり入院して手術を受けた場合、2週間程度の入院費がかかると想定しておくとよいと思います。入院日数はがんの種類に応じて違いますが、一般的に短期化傾向でがんでも1か月以上入院する人は少なくなっています。
ちなみに私の母が、乳がんで手術をした際(2010年)は8日間でした。このケースであれば、入院費として10~30万円程度を考えておけばよいと思います。手術を受けると医療費は高額になりますが、健康保険証があれば『高額療養費』というものを申請でき、ある一定額以上は払わなくて良いという手厚い国の保障があります(※3)。10~30万円と幅があるのは、個室代がかかるかどうかなど諸雑費が影響します。
ただし退院後、再発・転移の予防のために抗がん剤やホルモン剤という薬の治療が継続する場合があります。一般的にこの治療は、数週間に1回、通院で行います。また、定期的に検査も受けることになり、月々2~5万円を目安としておくとよいかと思います。さきほどの入院を含めて合計すると、がんになってしまった初年度の費用としては、100万円程度確保があると安心かと思います。ちなみに私の母は、抗がん剤とホルモン剤治療が数年間続きました。
以上で、その後まったく何もなければ、50万円~200万円程度で済むので、医療費のための貯蓄があれば対応できるかもしれません。ただし、がんで一番お金がきつくなるのは、再発・転移があって、かつ治療が長期化した場合です。転移があると、一般的に手術が難しくなり、通院での抗がん剤治療がメインとなります。
先ほどの月々2~5万円程度がさらに数年にわたって続くこともあります。そして、抗がん剤治療が続くと、副作用で肉体的にかなりダメージを受け、仕事の継続が困難になる場合もあります。このケースになると治療費だけでもトータル数百万円、あとは収入を失うことによる生活困窮という、かなり高額の経済的負担となる可能性があります(※4)。
※3 『高額療養費』については、過去の記事「がんの備え|『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください
※4 生活困窮については、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください
あなたの立場は?
がんが単発で終わるかどうかはわかりません。がん保険が必要かどうかを検討するのであれば、私はがんの長期戦を想定することをおススメします。そして、加入するのであれば長期戦に耐えられる(対応できる)がん保険を選んでいただきたいと思います。
その際、あなたの立場がどうかにより少しはなしが変わります。それは、あなたが収入を稼いで家計をささえているかどうか?です。収入を得ているのであれば、それを失うことへの備えも合わせて検討することをおススメします。
その際、会社員の方であれば、一般的に『傷病手当金』という、病気・ケガで働けなくなってしまった際に大雑把に給料の6割程度が、最長1年6ヶ月支給されるという保障制度があるので、その分はがん保険を減らして良いと思います(※5)。ただ、自営業の方にはこの制度がありませんので注意が必要です。
※5『傷病手当金』については、過去の記事「がんの備え|『傷病手当金』がんだけではないですが、公的保険制度に、働けなくなってしまった時の保障があるというはなし」を、是非ご覧ください
がんになる原因について考える
タバコを吸っていると肺がんになる、お酒をいっぱい飲むと肝臓がんになるなど、なんとなくがんになる原因は出てくるかもしれません。でも、実際80歳、90歳でタバコを吸っているけど、がんになっていない人もいます。
また、がんは遺伝の病気とも言われたりします。よく『がん家系』などという言葉を耳にすることもありますが、実際はどうなのでしょうか。
がんは生活習慣病、ただし…
まず、タバコや過度な飲酒はやはりがんになるリスクを高めるようです。他にも、運動不足、偏った食事、ストレスなどということも耳にするように、基本的には、生活習慣病と言われています。
そのうで、東京大学医学部附属病院の中川先生は、
がんは、遺伝子の損傷による細胞の不死化が原因となる「遺伝子の病気」です。しかし遺伝はがんの発生要因全体から見れば5%程度にすぎません。遺伝する病気という見方は誤解です。(中略)ほとんどの「遺伝子の傷」体の細胞(体細胞)に後天的に生じるものです。がん細胞にできた突然変異は次の世代には遺伝しません。どの遺伝子が傷つくかはランダムに起こりますので、がんは運の要素も多い病気と言えます。禁煙など生活習慣の改善で遺伝子変異のリスクは大きく減らすことはできますが、完璧な生活でもがんを完全に防ぐことはできません。
出典:知っておきたい「がん講座」リスクを減らす行動学 著者:中川恵一 発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
ということも述べており、どれだけ予防しても、誰にでも起こり得るということがわかります。
他の病気と違うこと
保険のパンフレットで、よく3大疾病(しっぺい)という言葉を目にします。これは、大雑把に言うと『がん』『心臓の病気』『脳の病気』のことで、日本人の死因の約6割を占めています。このうち、心臓の病気や脳の病気は、早期に発見できれば、治療方法が確立していて、治すことが可能だと言われています。
がんも早期に発見できれば、治る時代になったと言われています。ただし、再発・転移がなければ…という条件が付きます。心臓や脳の病気は、血管が詰まったり、破れたりすることにより発症するという、原因がわかっている病気です。
一方、がんはまだ発生のメカニズムが完璧にわかっていないため、それがなぜ発症するのか?なぜ転移するのか?ということが分かっていない病気です。ですから、そういった意味で、がんはやはり特殊性があると言えるのではないでしょうか。
少なくともがんのことを知っておく
がんを備えるにあたって、どのがん保険がおススメかというところから入りたくなりますが、まずは
■がんがどのような病気か?
■どのような治療を受ける可能性があるのか?
■その後再発・転移などによりどのようなリスクがあるのか?
といった、がんを知ることから入っていただきたいと思います。
さきほど『標準治療』という言葉が出てきましたが、がんは標準治療以外にもたくさん治療の選択肢があります。がんは情報戦とも言われ適切な情報を持たないままがん治療に入ってしまうと、そのたくさんの情報に振り回されてしまう可能性があります。
私は、がん保険でお金の備えをすることも大事だと思いますが、順序としてはこのがんを知るということの方が優先だと思っています。
学校でのがん教育はあるが…
数年前から、中学校、高校の保健体育の時間でがん教育がスタートしています。なんで学校で行うの?と思うかもしれません。日本では現在、毎年約100万人の方が新たにがんの診断を受け、約40万人の方ががんで死亡しています。この原因を、国は『私たち日本人ががんを知らないからだ』と考えています。
ですから学校で将来のために必要ながん教育をスタートさせています。これ自体は非常に有意義なことだと思います。教育という形でがんの怖さを知っておけば、予防の仕方を早く知りがんになる方を減らせるかもしれません。ところが課題はすでに社会人になってしまった人へのがん教育です。
保険相談時を大切に
残念ながら社会人にはがん教育を受ける場はほとんどありません。ただし、がんのことを違和感なく話題とする機会があります。それが、生命保険、医療保険、そしてがん保険の検討時です。この機会には、がんになったらいくら治療費がかかるとか、入院したらいくらかかるのかといった話題を自然とすることができます。
是非その機会に、あなたの保険の担当者からがん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても、情報を得て正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※5)(※6)。保険商品のはなししかできない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば他でセカンドオピニオンをとることをおススメいたします。
※5 がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
※6 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
“がん保険の選び方|『がん保険を考える必要がある人』いくつかのチェックポイントがある、というはなし” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。