がん保険の選び方|『がんゲノム医療に対応するがん保険』今抗がん剤治療保障に動きを起こしつつある、がん治療の変化、というはなし
昭和49年(1974年)、テレビCMでもおなじみのアフラックが、日本で初めてがん保険を発売したと言われています(※1)。それから約50年が経過しましたが、がん保険は今も販売されています。それは、まだまだがんがお金が掛かる病気で、日本人にとって怖い病気であるからだと思います。
約50年の歴史があるがん保険ですが、その間、保障内容については、大きく変化をしてきたと感じています。それは、がん治療の実態が変化してきたからです。つまり、約50年前のがん保険を持っていても、現在のがん治療には対応できない可能性があります。そして今、再び変化が起こりつつある気がしています。
そこで今回は、ここ数年で起こりつつある、がん治療の変化、それに応じたがん保険の保障の変化について、一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『いろいろながん保険を比較』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
(※1) 出典:『がんとがん保険[新版]がん保険基本マニュアル』 著者:佐々木光信 出版社:保険毎日新聞社
目次
『抗がん剤治療保障』に変化が
最近、いくつかのがん保険の内容を見ていると、自由診療で行う抗がん剤治療に対して、支払いをしてくれるものを目にします。以前からある、抗がん剤治療保障といった名称の保障は、一般的には健康保険の適用となる治療に対応するものでした。
自由診療での抗がん剤治療に対し、通常よりも高額(2倍など)の保障をする抗がん剤治療保障が出てきているということは、それを受ける機会が出てきていることを示しています。
がんゲノム医療の登場
耳にしたことがあるかもしれませんが、今がん治療の現場では、『がんゲノム医療』という言葉があります。私は医師ではないので、ゲノム医療の中身については、医師の説明を引用します。
たとえば、同じ肺がんでも、AさんのがんとBさんのがんでは、原因となる遺伝子変異が別であることはめずらしくありません。
出典:知っておきたい「がん講座」リスクを減らす行動学 著者:中川恵一 発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
反対に、Cさんの胃がんとDさんの大腸がんが同じ突然変異に原因を持つことも少なくないことが分かってきたのです。発がんの原因となるゲノム異常を見きわめて、それぞれに効果のある治療薬を使うオーダーメードの医療が「ゲノム医療」です。
ということで、今までは肺がんであれば、A抗がん剤、B抗がん剤、胃がんであれば、C抗がん剤、D抗がん剤を使うということが、診療ガイドラインで定められていました。その診療ガイドラインで定められた治療を、標準治療と言い、健康保険適用で多くの人が小さい費用負担で受けることができます。そして、日本でがんが見つかった時は、その標準治療を受けることが一般的です。
健康保険適用外の抗がん剤
もう少し引用を続けます。
2019年6月から、個々のがんの遺伝子変異を次世代シークエンサーを使って網羅的にチェックする検査「遺伝子パネル」が保険適用されることになりました。医療費は53万円ですが、原則3割負担で、高額療養費制度の利用もできます。
出典:知っておきたい「がん講座」リスクを減らす行動学 著者:中川恵一 発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
以前は、このゲノム医療を受けようと思ったら、すべてが自由診療であったため、上記の検査自体も、全額自己負担でした。ただ、この検査が健康保険適用となり、高額療養費も申請できるようになったため、年収300万円程度の方であれば、約53万円の検査が、自己負担約6万円で受けることができるようになりました(※2)。
ところが、検査が健康保険適用で受けられることは良いのですが、この検査を受けて、効果があると思われる治療薬が見つかった時、その治療を受けたいとなると、それについては、まだ自由診療での治療となるため、高額な自己負担となる可能性があるのです。
(※2) 高額療養費については、過去の記事「がんの備え|『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください
がんゲノム医療推進は、国の政策
現時点では、こういった治療が始まっていることを知らない方も多いかもしれませんが、この動き、実は国が政策として行っているものです。がん対策基本法という法律に基づく、国のがん対策の計画「第3期がん対策推進基本計画」では、
1:がん予防
2:がん医療の充実
3:がんとの共生
という3つの柱があります。そのうちの、2:がん医療の充実では、10コの具体的な施策があるのですが、そのトップに掲げられているのが、『がんゲノム医療』です。国の動きに対し、がん保険を提供する保険会社も対応してることがわかります。
現状はまだまだ…
先ほどの引用をもう少しだけ。
ただ、この検査を保険で受けられるのは、標準治療が存在しない希少がんや原発不明がんの他、標準治療を終えて選択肢がなくなった患者などに限られます。対象者は年約1万人と、がん患者全体の1%程度にすぎません。
出典:知っておきたい「がん講座」リスクを減らす行動学 著者:中川恵一 発行:日経サイエンス社 発売:日本経済新聞出版社
また、治療の選択に役立つ遺伝子変異が見つかるのは検査を受けた約半数に限られます。遺伝子変異があっても、治療法がない場合もあり、薬の使用につながるのは遺伝子パネル検査を受けた患者全体の10%程度にすぎません。
まだ当面は、高額な自己負担
現実的には、まだ課題が多いのですが、これから治療を受けた方のデータが蓄積されていき、新しい発見や新しい治療薬が開発されることにより、進展していく可能性があります。そもそも国ががん医療の充実という施策のトップに掲げているので、当然相応の予算が投じられているはずです。
ただ現時点で、標準治療をやり尽くしたものの、最後の可能性に賭けたいという人は、この治療を選択できる可能性があります。もし受けたいのであれば、現状は高額な治療費を自己負担する必要があります。
あなたのがん保険が、変化に対応できる内容か?
今までも、がん治療の現場では、こういった変化が様々起きていて、そのたびに、各保険会社は商品を刷新してきました。それに対して、がん保険加入者も内容を良くしたいと、見直しをする人もいますし、医療現場の変化を知らずに、過去のがん保険を継続している方もいらっしゃいます(※3)。
がん保険に加入している場合、一部を除いて、治療の実態が変化したら、それに合わせて、保障見直しをした方が良いと思います。たいていのがん保険は、それが発売開始された時点の、がん治療のトレンドに合わせて作られているからです。
(※3) 過去のがん保険を継続し続けることについては、過去の記事「がんの備え|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い」を、是非ご覧ください
抗がん剤治療特約を確認
差し当たり今回のテーマにおいては、もし加入中のがん保険の中に、『がん治療保障』『抗がん剤治療保障』『通院治療保障』などという文言があれば、その保障が、健康保険が適用されない治療についても、お金を支払ってくれるものかどうか、確認をすることをおススメいたします。
今回のはなしは、最近の出来事なので、多くの場合は支払対象外となる可能性があります。すぐ見直しするかどうは別にしても、事実は知っておいた方が良いと思います。
そのほかの保障で対応可能か?
がん保険には、『診断給付金』などといった名称で、100万円などのまとまった一時金を払ってくれる保障があります。こういった保障がついているがん保険に加入している人も多いかと思います。もし、自由診療の抗がん剤治療を受けても支払い対象であれば、安心感があります。
支払要件がやさしい一時金保障を持っていると、時代に変化に対応が可能な場合があります。なぜなら、まとまった一時金は使い道が自由だからです。
がんを知り、がん保険を選ぶことの大切さ
がんは日本人にとって、国民病ともいわれています。先ほど触れましたが、国はがん対策基本法という法律を作って、予算をかけてまで、がん対策を行っています。それだけ、がんがまだまだ分からないことが多い、怖い病気であるということなのかもしれません。
保険より情報が先
がんは怖くて、お金が掛かるから、がん保険で備えようということ自体は良いのですが、がんは保険に入る前に、情報を得られる体制を持つことが大切です。先ほどの『ゲノム医療』も、自分から情報を取りに行くという姿勢が無ければ、その情報が入ってこない可能性があります。
そして、その情報が無ければ、がん保険において、適切な保障を組むことは難しいかもしれません。健康保険適用外の抗がん剤治療にお金を払ってくれる保険でなければ、受けるための条件がそろっているにもかかわらず、お金を理由に『ゲノム医療』を選択できないかもしれません。
がん保険検討時に
目の前に受けたい治療があるのに、お金がないから受けられない。これ、実は日本の医療現場で実際に起こっていることです。現役世代のがん患者さんの5%程度は、お金を理由に、がん治療を変更、または断念しているという現実があります。そしてそれは、比較的貯蓄が少ないと思われる、若い世代に強い傾向があります。
是非、がん保険を検討する機会には、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても情報を得て、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※3)(※4)。
保険商品のはなししかできない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。
(※4) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
(※5) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
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