がん保険の選び方|『医療保険とがん保険の違いって何?』それぞれに目的を押さえないとムダが出る、というはなし
『医療保険に加入したい』
私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりましたが、初めてご来店される方においては、このご相談が一番多かったという印象を持っています。そして、ヒアリングを進めていく中で、何か特別に気になる病気などはあるか尋ねた時に
『がん』
という回答が一番多かったように思います。
医療保険は、医療に関する保険なので、がんも含めた病気の備えになる保険です。中には『がんに手厚い医療保険』というキャッチコピーも見かけます。ただ、がんが心配で、保険でがんに備えるのであれば、医療保険では手薄であると私は思っています。
そこで今回は、医療保険とがん保険の違いとはどのようなものか、また医療保険でがんに手厚い保障にする場合の注意点について、一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『がんの備えのために医療保険の加入を検討』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
医療保険、がん保険の役割
この2つの保険、当然ですが役割はそれぞれです。がん保険は、明確にがんと書いてあるので、『がんの備えの保険』と理解されると思います。一方医療保険ですが、『医療』という言葉なので、医療に関することなんでも助けてくれそうな印象はありませんでしょうか。
過去に『医療保険に加入したい』と相談されに来られた方の多くは、実際に医療保険がどういった保険かご存じでない方が多かったです。でも、医療費のためといった漠然としたイメージをお持ちであった記憶があります。
医療保険は『入院・手術費』の備え
私は、医療保険は『入院・手術費のための保険』と、お客様にお伝えしていました。一般的に医療保険は、ケガ・病気の種類を問わず、治療目的の入院(もしくは手術)をしたら、お金が受け取れる保険です。もちろんがんも対象です。
具体的には、
・入院したら、入院1日あたり5千円お支払い
・手術を受けたら。1回当たり20万円お支払い
といった形のものが多い印象です(金額は例です)。入院・手術ではお金を受け取れますが、外来で受診した際(手術なし)では、基本的に対象外です。
がん保険は『がん治療費』の備え
一方がん保険ですが、こちらは必ずしも入院や手術だけではなく、がん治療幅広く対象となっているものが一般的です。がんで入院・手術時はもちろん、例えば外来での投薬治療などへも対応してくれるがん保険もあります。ただし、一般的に加入時に自分で保障する範囲を選ぶ必要はあります。ですから、がん保険加入時には、がん治療の実態を知る必要があります。
基本的に、私はがん保険は大きく分けると2つ、細かく分けると4つに分類できると思っています。その詳細は別コラムを参照いただければと思いますが、がん保険は、どのような選択をするかが非常に重要であると考えています(※1)(※2)。
※1 がん保険は大きく2つにわかられることについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険、一括前払い? or 都度都度事後払い?』どちらのタイプ?それとも…?というはなし」または、「がんの備え|取扱い注意!がん保険には、2種類ある。その選択次第で、がんになった時の備えが変わってくるというはなし」を、是非ご覧ください
※2 がん保険の4つの分類については、過去の記事「がんの備え|『がん保険は4つの保障の組み合わせ』その基本を押さえて適切な選択を、というはなし」を、是非ご覧ください
医療保険でカバーできるがん治療費
もし、医療保険でがんも含めた病気への備えをしたい場合、どのようながん治療において助けになるのか、あらかじめ知っておく必要があると思います。
がんは、再発・転移などで治療が長期化する可能性がある病気です。ところが治療が長期化するのに、それと同じように入院日数が増えるかというと、そうではないと思います。また、再発・転移でがんの診断を繰り返したとしても、毎回手術を受けるかというと、それも違うのかなと、私は考えています。
がんでの入院・手術費が主
胃がんで胃を切除したりなどといった、手術を受ける場合、一般的には入院を伴いますので、このケースは医療保険がカバーしてくれます。手術できれいにがんが取れて、しかもその後何もなしとなれば、医療保険でも十分カバーできると思います。
また、血液のがんとも言われる『悪性リンパ腫』などの場合は、治療が抗がん剤治療(薬での治療)が主になりますが、点滴で24時間しかも5日間連続で行ったりしますので、他の病気に比べると平均入院日数は長めになります(※3)。入院が長くなる場合には、一般的に医療保険は力を発揮してくれます。
※3 平均入院日数が長めになるケースについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険の入院給付金』入院は短期化傾向も、全てが短いわけではない、というはなし」を、是非ご覧ください
それ以外は難しい
上記のケースが医療保険が助けになる例でしたが、それ以外となると、医療保険はがんの備えとしては力不足かもしれません。私の母は、乳がんで約9年間がん治療を受けてきましたが、
・最初の手術で、8日間の入院
・9年目肝臓転移の手術で、14日間の入院
がありました。ただそれ以外の期間もずっと、抗がん剤治療、放射線治療、そしてCTなどの定期的な検査などを受けていました、すべて外来通院でした。がん治療は通院でできてしまうものもあることは、押さえておく必要があります。
医療保険が本当に必要か?
繰り返しになりますが、医療保険は『入院・手術費のための保険』と、私は考えています。そしてがんも含めて、現在は平均的院日数が非常に短くなってきています(※4)。そこまで医療保険から高額のお金を受け取る可能性は高くないかもしれません。
もちろん長期入院になることがゼロではありません。どうしても入院・手術費に備えたいという理由があれば、医療保険を選択されると良いと思いますが、以下の点はしっかり押さえていただきたいと思います。
※4 平均入院日数の短期化については、過去の記事「がんの備え|『がん保険の入院給付金』時代とともに、出番が少なくなってきている、というはなし」を、是非ご覧ください
高額療養費を押さえる
日本で生活をしていれば、基本的に健康保険証をお持ちだと思います。保険会社が販売する『医療保険』は、健康保険証の上乗せ(しかも入院・手術時限定)のために存在します。入院・手術となれば、ただ外来で受診するよりも、治療費などが高額になるから、『医療保険で上乗せを』とう任意保険です。
ただし、健康保険証を持っていれば、入院・手術で治療費など(医療費)が高額になり、あなたの自己負担限度額を超えたら、その超えた分は払わなくて良いという制度があります。『高額療養費』と言いますが、医療保険加入は、必ずこの制度を理解してから検討していただきたいと思います(※5)。
※5 『高額療養費』については、過去の記事「がんの備え|『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください
それでも入りたいならば…
最終的に医療保険に加入することにした場合、がんに対して特に手厚くする目的で、オプション(特約と言います)を付加する際の注意点が2つあります。
ひとつ目は、がんに対して適切なオプションを選ぶこと。もうひとつは、医療保険にがんのオプション(特約)付加する形にしたことによる、一蓮托生のリスクです。
詳しくは、別コラムを参照いただければと思いますが、がんを手厚くしたつもりが、選ぶオプションが悪く、現在のがん治療にフィットしておらず、保障を十分に受けられないことが起こり得ます。また、ひとつにまとまっていることで、見直しなどが自由にできないといったことも起こり得ます(※6)(※7)。
※6 医療保険にがんのオプションをつけることについては、過去の記事「がんの備え|『がんに手厚い医療保険』がんの○○に手厚いかをチェックする必要がある、というはなし」を、是非ご覧ください
※7 一蓮托生のリスクについては、過去の記事「がんの備え|がんも含めた病気への備え、としての医療保険。その期待値は、低めにしておくべきというはなし」を、是非ご覧ください
がんを知ることから
医療保険やがん保険などの毎月の負担(保険料と言います)は、税金などと違い任意で負担するものです。そして、それを負担した分、毎月貯蓄に回るお金は減少します。それでも、大きなリスクに備えるために保険に加入するのであれば、まずは先ほど触れた『高額療養費』などの社会保障制度を押さえていただきたいと思います。
そのうえで任意保険でがんに備えるのであれば、次に大切なことは、がんを知ることです。がんになってしまった際に、どのようなシナリオが起こり得るのか、それを知らずして適切な備えはできないはずです。
最も経済的に厳しいシナリオ
今回はテーマではありませんでした、がんで一番経済的に厳しくなるのは、働けなくなった場合だと、私は考えています。がんの再発・転移等で、治療のが長期化し、精神的・肉体的負担が増し、退職せざるを得なくなり、収入を失うケースが、最も経済的に厳しいシナリオだと思います(※8)。
家族を養っている、特に子供の教育費や住宅ローンで家計負担を支えている人にとっては、とても大きなショックになるかもしれません。
※8 がんで収入を失うケースについては、過去の記事「がんの備え|意外と忘れられがちな、がんになってしまった時にも発生する普通のお金」を、是非ご覧ください
相談時を大切に
どういった保険を選ぶかということは、もちろん大切なことです。ましてがんが心配で、医療保険、がん保険に入りたいという方であればなおさらです。ただ、がんが心配な方にこそお伝えしたいことは、お金の安心だけではがんとは戦えない可能性があるということです。がんへの備えで一番大切だと私が考えていることが
がんを知ること
です。実際のがん患者さんは、様々な負担を負ってがんと向き合っています。その中で、もちろんお金の負担も小さくない場合があります。ですからがん保険を考えることも大切です。ただ、がんになってしまった時に、お金も含めてどのような負担があるのかを知ることが、本当のがんの備えと言えるのだと私は考えています。
そういった意味で、医療保険、がん保険の相談をする機会を大切にしていただきたいと思います。保険ショップなどに相談に行けば、保険を選択するにあたって、様々なアドバイスをもらえる可能性があります。是非その機会を大切にしていただきたいと思います。
医療保険、がん保険の相談の機会に、あなたの保険の担当者から、がんに関する保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなど、実際がんになってしまった時の影像が浮かぶ情報を得ながら、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※9)(※10)。
がんと聞いて、がん保険商品の選択肢しか出せない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします(※11)。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。
(※9) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
(※10) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
(※11) 生命(がん)保険相談のセカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」を、是非ご覧ください