がん保険の選び方|『がん保険の通院給付金』「外来治療が増えている=通院給付金で安心」は危険、というはなし
がん保険のパンフレットを見ると、昔と比べて、がんは通院で治療を行うことが多くなってきている、といった文言やグラフを目にします。私の母も、2010年から約9年にわたり、がん治療を受けてきました。入院日数は、最初の手術のための8日間、最後の方に再び手術の10日間程度で、圧倒的に通院での日数の方が多かったという事実があります。がん保険でいうと、従来から『通院給付金』という保障(特約)が存在します。
ただ、『通院給付金』といった文言があれば、外来通院に対して、オールマイティに保障してくれるかというと、実はそうではありません。
そこで今回は、がんの通院治療が増えている現実に対し、対応ができていない、従来の通院給付金について、見ていきたいと思います。
まさに今、『がん保険で、通院への備えを』考えているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
通院したら無条件でお金を払ってくれる通院給付金か?
もしあなたが、なんらかのがん保険に加入していて、『通院給付金』といった文言や、通院への保障などといった説明があったとしたら、詳しくチェックすることをおススメします。
がんで通院したら無条件でお金を支払ってくれるかどうか、そうでないとしたら、どのような条件が付いているのか確認しておかないと、実際がんになってしまった時に、足元をすくわれる可能性があります。
従来からの通院給付金
昔からあったがん保険の通院給付金は、入院に伴う通院に対して保障するものが主流でした。基本的にがん治療は、入院を伴って行うことが一般的であったため、その入院前後に、付随して行われる通院治療に対し、1回5千円などといった給付を行う通院給付金がほとんどでした。
現在のがん治療においては、放射線治療や抗がん剤治療などは、通院のみで完結してしまうことも珍しくありません。特に、再発・転移のケースにおいては、抗がん剤治療がメインになることも多いため、治療が長期化すればするほど、通院治療の比率が高くなることが考えられます。
入院を前提としないものもあるが…
最新のがん保険にも、いまだに入院を前提とする通院給付金を提供するがん保険が存在します。まずは、ご自身の保障内容を正確に把握しておくことが大切ですし、これからがん保険を考える場合、この存在を注意していただければと思います。
ちなみに、この通院給付金という保障は、だいたい1回の通院につき、5千円や1万円といった金額を受け取れるものが多い印象です。抗がん剤治療の費用を丸々まかなうというよりは、通院に伴い発生する交通費や諸雑費、パートをしている人などは、仕事を休んだ分の収入保障的な備えになるかと思います。
通院ではなく、通院も含めた治療と言う考えがトレンド
現在のがん治療は、通院の比率が高まってきています。ですからがん保険の保障も、それに合わせて変化をしてきています。今回のテーマである『通院給付金』ですが、さきほどお伝えしたとおり、1回通院して、5千円とか1万円を受け取れるという保障の形です。
ただ、抗がん剤治療を一定期間続けていく場合、一般的には数週間に1回といったペースで通院し、治療を受けるわけですが、金額的には数万円単位の支払いになることも多くあります。ですから、抗がん剤治療に対して、通院給付金という備え方は、適切とは言えないかもしれません。
抗がん剤治療に対して10万円
がん治療の主流は、手術、放射線、抗がん剤の3つです。手術は、わりと入院を伴うことが多いですが、以前と比べると入院日数は、短期化しています。放射線、抗がん剤は、通院で行うことが多くなっていますが、それでも入院が全くないというわけでもありません。
どちらもあり得るというはなしなので、最近のがん保険では、『入院』『通院』という条件ではなく、『治療』ということに対して支払いをする、というものも増えてきています。がん保険ランキングで、上位に来ているがん保険には、『がん治療給付金』や『抗がん剤治療給付金』などといった名称で、治療を受けたことに対して、1回5万円や10万円といった給付をしているものがあります(※1)。
(※1) 『治療』に対して支払いをするがん保険については、過去の記事「がんの備え|『入院や診断ではなく、治療給付が主のがん保険』長期の通院治療への備えに変化してきた、というはなし」を、是非ご覧ください
交通費など諸雑費も踏まえて
がん治療においては、通院でも1か月に数万円単位の費用が掛かり、しかもそれが数か月や年単位で継続する可能性があります。1回だけならばまだしも、長く続くと家計に大きなダメージを与えます。
医療費がかさんだ時に、『高額療養費』があるという発想になるかもしれませんが、この制度は、1か月で数十万、数百万といった医療費になった場合に効果を発揮する制度です(※2)。抗がん剤治療の場合、『高額療養費』の対象にならないレベルで、それが長く続いていく。こういったところが、費用の面でのがん治療の特殊性と言えるかもしれません。
(※2) 『高額療養費』については、過去の記事「がんの備え|『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください
また変わっていくということを想定しておく
がんは、まだまだ分からないことが多い病気言われています。ですから、世界中で研究が行われ、新しい治療方法が次々に現れてきています。そして、まだ治療方法が確立していませんから、これからもがん治療の現場は、変化していくことが予想されます。
治療の実態が変化していくと、過去のがん保険では対応ができないことがあります。実際30年以上前のがん保険に入っていて、もしその方が今がんになってしまった場合、1円もお金を受け取れない、ということも起こり得ます(※3)。
(※3) 30年以上前のがん保険については、過去の記事「がんの備え|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い」を、是非ご覧ください
がん保険は陳腐化する
がん保険を含めた保険商品は、一般的に変化に対応できないと言われており、そこは弱点だと思います。なぜ変化に対応できないかというと、契約(保障)内容は、ずっと変わらないからです。
一般的に、がん保険は、その時代のがん治療のトレンドに合わせて、商品が作られています。ですから、治療のトレンドが変われば、また新しいがん保険が誕生する。ただし、古いがん保険に加入した人の保障内容は、そのまま変わらない、保障を新しくしたければ、新たに新しいがん保険に入る必要があることが原則です。
ちなみに、ここ最近、がん保険に新たな動きが出ています(※4)
(※4) ここ最近の動きについては、過去の記事「がんの備え|『がんゲノム医療に対応するがん保険』今抗がん剤治療保障に動きを起こしつつある、がん治療の変化、というはなし」を、是非ご覧ください
定期的にチェックを
がんを取り巻く環境は、これからも変化していく可能性の方が高いと思います。ですから、がん保険に加入する(している)ならば、定期的にチェックをしなければなりません。自動車の車検のように、異常がないかどうか、確認する必要があります。
ただ、保険の場合、車検のように検査の制度はありません。あなた自身が、一定期間ごとに問題がないかどうか、チェックする必要があることを覚えておく必要があります。
がんになったことに対する保険
がん保険は、がんで入院したら…、通院したら…、手術を受けたら…、抗がん剤治療を受けたら…、といった具合に、何か受けたことに対して、お金を支払ってもらうものが一般的です。この場合、その対象となっているものがスタンダードでなくなった場合、使い物にならなくなる可能性があります。
今回のテーマの、入院を伴う通院に対してお金を支払う、通院給付金などは、まさにその典型的な例であると思います。できれば、細かい条件ではなく、がんになったらお金をもらえるといった、シンプルな内容のものの方が、保障の陳腐化は避けられる可能性があります。
診断だけが条件
がん保険の保障の中に、『がん診断給付金』などといった名称で、がんになったことに対して、100万円などのまとまった一時金を払ってくれる保障があります。これは、がん診断が支払い条件ですから、その後入院しようが、通院しようが、お金を受け取れます。がん治療の実態が変化しても関係ありません。
しかも、診断が条件ですから、治療を受ける前に受け取れることが確定します。○○を受けたら…という条件の場合、治療が終わらないと支払いが確定しないものも多くあります。そういった意味で、この『がん診断給付金』といった保障を混ぜておくこともひとつのやり方です(※5)。
(※5) 『がん診断給付金』については、過去の記事「がんの備え|取扱い注意!がん保険には、2種類ある。その選択次第で、がんになった時の備えが変わってくるというはなし」を、是非ご覧ください
変化に対するアドバイスも
来店型保険ショップにがん保険の相談に言った時、もちろん今の人気のがん保険を紹介してくれるかと思います。ただし、がん保険に加入する際には、今お伝えしたような、がん治療の実態の変化に対する対応なども、非常に大切です。できれば、そういった将来に対するアドバイスもしてくれることが望ましいと思います。
是非がん保険の相談の機会に、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても情報を得て、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※6)(※7)。
がんと聞いて、がん保険商品の選択肢しか出せない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします(※8)。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。
(※6) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
(※7) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
(※8) 生命(がん)保険相談のセカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」を、是非ご覧ください