がん保険の選び方|『がん保険の入院給付金』時代とともに、出番が少なくなってきている、というはなし
私は過去に、10,000回以上の保険相談会に携わってきました。お客様とお話していて、がんの話題になった時、よくこういった質問をしていました。
『がんだと入院期間はどれくらいだと思いますか?』
家族など、身近にがん患者さんがいらっしゃった方は、その方の実際の入院日数をお答えいただきますが、自分も家族も入院に縁がなかった方ですと、『半年くらい…』と、わりと長期入院するイメージでお答えになります。
ただ、現実には、がんでの平均入院日数はどんどん短期化しています。
そこで今回は、がん保険のプランを考えるうえで、がんでの入院短期化をふまえたプランニングの仕方について、考えていきたいと思います。
まさに今、『がん保険のプラン』を考えているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
15年で、全体として半分以下に
がんは、数か月単位の長期入院というイメージもあるかもしれません。実際にデータを見てみたいと思います。下の表は、厚生労働省が行っている調査の中の、がん(血液のがんを除く)での、平均入院日数の推移です。
1996年 | 1999年 | 2002年 | 2005年 | 2008年 | 2011年 | 2014年 | 2017年 | |
悪性新生物 | 46.0日 | 40.1日 | 35.7日 | 29.6日 | 23.9日 | 20.6日 | 19.9日 | 17.1日 |
見てのとおり、ずっと入院日数は減り続けています。
比較的長めの胃がんのデータ
がんの種類ごとに比較すると、胃がんの入院日数が、わりと長めになっているのですが、下の表は、2017年の、胃がんによる、年齢区分ごとの平均入院日数です。現役世代の方は、それより上の世代の方と比較して、さらに短い傾向があります。
胃がん全体 | 15歳~34歳 | 35歳~65歳 | 65歳以上 |
19.2日 | 12.5日 | 13.0日 | 20.8日 |
女性が気になる乳がんは?
女性で罹患率の高い乳がんですが、他のがんと比較すると、入院日数は短めです。下の表は、2017年の、乳がんによる、年齢区分ごとの平均入院日数です。現役世代の方は、1週間程度で退院しています。
乳がん全体 | 15歳~34歳 | 35歳~65歳 | 65歳以上 |
11.5日 | 7.1日 | 8.4日 | 15.7日 |
国の政策と医療技術向上
現在では、がんといえども、病院のベッドにずっといるということは、少なくなってきています。手術を行う場合は入院をすることが多いですが、必要な療養を行ったら、早期で退院し、その後は通院で治療を継続することが、一般的になってきています。
そういった傾向になってきているのには、大きく2つ理由があります。ひとつは、国の政策、もうひとつは、医療技術の向上です。
高齢化の日本
日本は世界の中でも、特に高齢化が進んでいる国と言われています。一般的に、高齢になるほど、病気などで入院するリスクは高まります。高齢化が進んでいく中で、成り行きに任せてしまうと入院者数が増えていってしまいます。そこで国は、
・成人病の予防(がんを含む)
・入院日数の短期化
を柱とする、医療費適正化計画を、2000年代に入って導入しました。つまり、国が医療費の抑制を目指して、動いているということです。
負担の少ない手術
もうひとつが、医療技術の向上です。胃がんでは、おなかを大きく切る開腹手術が従来から行われてきましたが、内視鏡手術や腹腔鏡手術など、あまり大きく切らず、身体への負担が少ない手術が確立してきました。これにより、1泊2日や2泊3日での入院ということも珍しくなくなっています。
それにより、術後の体力が回復するまでの期間も短縮され、長く病院のベッドに寝ている必要はなくなりました。そして、早期で退院し、通院で治療を継続することが可能になりました。
入院給付金の必要性
がん保険には、『入院給付金』が存在します。日本で初めてがん保険が登場したのが、1974年のこと。当時のがん保険は、この入院給付金がメインでした。なぜなら、当時はがんでの入院は、長期化することが当たり前であったからです。
ですから、がんで入院したら、1日当たり2万円お支払い、といった保障が必要でした。また、長期化することが多かったため、多くのがん保険で、支払日数無制限となっていました。ちなみに、当時のなごりなのか、今でも入院給付金の支払日数は無制限となっているものが多いようです。
おそらく日数はかせげない
万が一がんになってしまった場合、わりと早期段階であれば、今でも入院して手術が行われることが多いです。ただし、その後転移などが確認されると、今度は抗がん剤などの、薬物療法がメインとなる可能性があります。
薬物療法になると、最近は通院での治療が多くなってきます。がんでお金が掛かるのは、再発・転移で治療が長期化するケースですが、がん入院給付金という保障では、ほとんどお金を受け取れなくなる恐れがあります。
保障内容は限定されない方が…
平均で、17日程度のがんの入院。そこをがん保険で守りたければ、入院給付金でも対応できますが、入院・手術のケースだと、健康保険の『高額療養費制度』もおそらく使うことが可能で、自己負担が数十万、数百万となる可能性はきわめて低いものと考えられます(※1)。
一方、数週間か1か月に1回程度の、通院治療の場合、月に数万円単位の治療費がかかることが予想されます。1回だけであれば、そこまで負担はないですが、通院治療は1年を超えて継続することも少なくありません。月数万円が1年を超えて発生し続ける、しかも『高額療養費』を申請できるレベルではない、こういったケースが、がんで経済的に負担になるケースになってきています。
そして、今後もがん治療の現場は、変化していくことが考えられます。『入院したら』や『○○治療を受けたら』といった、治療を限定する保障だと、その変化に対応できない可能性があることを押さえておく必要があります。
(※1) 『高額療養費』については、、過去の記事「がんの備え|『高額療養費』がんに限らず、覚えておいて損はないというはなし」を、是非ご覧ください
あらゆる治療に対応できるがん保険を
がん保険のパンフレットを見ると、『あれも出る、これも出る、全部出る…』のような印象を受けることがあります。もちろん必ずしも間違いではないのですが、ただし今のがん保険の保障は、今のがん治療に対応した保障内容だということを、知っておいた方が良いと思います。最近、いくつかの保険会社で、新しい保障が出てきています。それは、新しい治療が出始めてきているからです(※2)。
(※2) 最近の新しい保障については、過去の記事「がんの備え|『がんゲノム医療に対応するがん保険』今抗がん剤治療保障に動きを起こしつつある、がん治療の変化、というはなし」を、是非ご覧ください
がん保障が陳腐化していく
がんは転移のメカニズムなどについて、まだまだ分からないことが多いとも言われています。ですから、今後も新しい治療が、次々と出てくる可能性もあるということです。受けた治療に対してお金を払ってくれるがん保険に入っていると、新しい治療が出るたびに、保障が陳腐化していく可能性があります。
そういった意味では、受けた治療ではなく、がんになったことに対して、お金を払ってくれるがん保険に入ることが、ひとつの手段です(※3)。もちろんメリット・デメリットがあるかと思いますが、あらゆる選択肢から納得して選択していただきたいと思います。保障が陳腐化しにくい保障を選択することも、がん保険では大切かと思っています。
(※3) がんになったことに対して、お金を払ってくれるがん保険については、過去の記事「がんの備え|取扱い注意!がん保険には、2種類ある。その選択次第で、がんになった時の備えが変わってくるというはなし」を、是非ご覧ください
担当者から正しい情報を
納得して選択するためには、がんを知り、そしてあらゆる選択肢を知らなければなりません。がん保険の検討をする時に、ランキングが上位だとか、どちらの方が安くてオトクかということだけでなく、がん治療現場の変化に対応できる保障を、是非持っていただきたいと思います。
そのために、がん保険を検討する機会には、あなたの保険の担当者から、がん保険の商品情報だけではなく、がん治療の実態や、実は大事な日本の医療のルールなどについても情報を得て、正しいがんへの備えを作っていただきたいと思います(※4)(※5)。
保険商品のはなししかできない人は、がんについて、しっかり学んでいない可能性があります。もし、はなしの内容が薄いと感じたならば、他でセカンドオピニオンをとってでも、正しい情報をとっておくことをおススメいたします。それくらい、事前にがんを学んでいるかどうかは、大きな違いだと思っています。それは、正しいがんの知識を持たずに、約9年間、がん患者の家族という立場を体験した、私の実感でもあります。
(※4) がん治療の実態については、過去の記事「がんの備え|私たちが日本でがんになってしまった時、選択肢となる『4つのがん療養』」を、是非ご覧ください
(※5) 実は大事な日本の医療のルールについては、過去の記事「がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし」を、是非ご覧ください
“がん保険の選び方|『がん保険の入院給付金』時代とともに、出番が少なくなってきている、というはなし” に対して3件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。