がんの備え|がんと日本の医療のルールを知らないことにより、主治医とのミスコミュニケーションが生じる可能性があるというはなし
がんになってしまった場合、主治医の先生と治療のはなしをすることとなります。その際に、患者さん側で主治医の提案に対して納得感が得られず、前向きな治療が受けられないといったことが起こり得ます。その原因になるもののひとつに『両者の根拠の違い』があると、私は考えています。
もちろん考えは人それぞれでよいのですが、医師の側から行われる治療の提案には、一定のルールがあることを知っておかないと、患者さんの側が余計なストレスを感じてしまう可能性があります。
そこで今回は、医師が治療提案の際に根拠とするものや日本のがん治療の現場におけるルール、またそれを知らないことにより起こり得るリスク、ということについて、一緒に見ていきたいと思います。
まさに今、『がんの備えとしてがん保険を検討』しようとしているあなたへ、お届けしたいはなしです。
目次
立場の違いによる根拠の違い
主治医の先生は、医療のプロなのでがん治療のことを詳しく知っていますが、その治療を受ける患者さん側の知識レベルには、かなりバラツキがあることが考えられます。
今回は、医療についての知識がほとんどない方が、がん患者さんとなった時に起こり得ることを考えてみたいと思います。
医師の根拠は診療ガイドライン
今私たちが日本でがんの診断を受けた場合、主治医の先生は『診療ガイドライン』に基づき、患者さんに治療を提案します。診療ガイドラインは、がんの種類ごとに作成されており、例えば肺がんであれば、肺がんのステージや状態ごとに、推奨される治療方法が記載されています。
この診療ガイドラインですが、20年くらい前にできました。それまでは、患者さんへの治療方法は、すべて主治医の判断に任されており、同じ症状の患者さんでも、病院や医師ごとに違う治療が行われている(バラツキがある)ということがありました。
その後、治療は科学的根拠に基づいて選ぶべきという考えのもと、この『診療ガイドライン』が作成されました。それにより、がん患者さんがどこの病院にかかっても、同質の治療が受けられるようになっています。そして、この診療ガイドラインにより推奨される治療のことを『標準治療』といいます。
患者の情報取集はネット
一方、がんに関する知識を全く持っていなかった患者さんが、今、目の前の白衣を着た主治医の先生から
『残念ですが、肺がんが見つかりました…』
と告げられたとします。主治医はすぐに治療のはなしをします。
『今ならまだ手術が可能です。手術をしましょう。2週間後の水曜日であれば、私が直接執刀しますけどどうしますか?』
と外科部長の先生から提案を受けます。あなたなら何と答えるでしょうか?実はこれ、私自身が母の乳がんの告知の時に経験したことなのですが、一瞬の沈黙の間のあとに、
『お願いします』
と答えました。がんを経験した方で、同じ経験をされた方は結構多いと思います。なぜなら、がんに対する知識がない人にとって、先生から『どうしますか?』と聞かれても、他に答えようがないという現実があります。
ただ、少し時間がたって落ち着いた時に、本当にあの治療方法でベストなのかどうかという不安が沸いてきた時、がん患者さんとその家族はどこから情報を取ろうとするか?今の時代ではほとんどの方がネットを使うと思います。『肺がん 治療方法』などと検索して、情報を得ようとするかと思います。
診療ガイドラインと個人的な感覚で、折り合いがつきづらくなる
先生から『手術』という治療の提案を受けた後に、自分でネットを調べたところ、『先進医療』という肩書のついた、切らなくてもよい最先端の治療方法が見つかり、こっちのほうがいいのでは?という思いが沸く方も出てくると思います(※1)。
次の診察の際に、主治医の先生に聞いてみようと思うのですが、基本的にはどういった治療方法をあげても、同じ回答が返ってくることとなり、それが時としてがん患者さんと医師の間での、ミスコミュニケーションのきっかけとなったりします。
※1 先進医療については過去の記事、「がんの備え|『がん保険の先進医療特約』つけるならば、治療の受け方も知っておく必要がある、というはなし」や「がんの備え|『先進医療』がんの夢の新しい治療?でも現実には、ほとんど受けられないというはなし」を、是非ご覧ください
科学的根拠に乏しいという回答
実は主治医の先生は、一番最初に最も科学的根拠に基づき、患者さんへ推奨されるべき治療方法を提案しています。それが先ほどの診療ガイドラインに基づいた標準治療です。ですから、患者さんが自分で調べて持ってきた治療方法は、先生からすると
『科学的根拠に乏しい』
ということになり、それを患者さんに告げます。
その時に、この診療ガイドラインを始めとする、日本の医療のルールなどについて、丁寧に教えていただければ違うのかもしれませんが、がん治療を行っている大きな病院での診察時間で、それを行うことは時間的にかなり困難です。それにより医師と患者の間の溝が生じてしまうこともあるようです。
がん教育を受けていない
この医師と患者の溝については、医療者側が患者さんへ丁寧な説明をして、納得して治療を受けてもらうという責任はあると思います。ただ、すべてを医療者側の責任となると、物理的にかなりの困難があるように思えます。それを可能にするには、患者さん側にも一定の知識があるという前提が必要な感じもします。
そういった課題もあるなか、数年前から、中学校、高校での『がん教育』がスタートしています。国も国民ががんに対する知識を持っていないことを課題とし、教育を始めています。しかし、その教育が届くのは、今20歳くらいから下の世代だけです。
つまり、すでに社会人になってしまっている世代は、その教育を受けることができません。残念ですが、がんになる前に、自分で一定の知識を得ておく必要があるのです。
できればがんの診断を受ける前に情報を
すでに社会人になっている人が、がんに対して学んでおくことは大切なことなのですが、ひとつ大きな課題があります。それは、きっかけがないことです。私は、生命保険を専門とするFPですので、自分のお客様には、相談時に、がんについてはなしを聞いていただき、考えていただく時間を設けたり、セミナーを開催して必要な情報を提供したりしています。
多くの方にとって、この機会がないという問題があるのですが、ひとつ確実にがんのことについてはなしができる機会があります。
がん保険加入時が数少ないチャンス
社会人になった後、多くの方がどこかで生命保険の検討をするかと思います。加入するかどうかは別にして、どういったリスクがあり、どういった生命保険の必要性があるのか?といったことは、気になると思います。
今は来店型保険ショップなどのお店も増えてきましたし、相談できる場所自体は増えています。生命保険のはなしをすると、がんの話題も出てきます。是非そういった機会に、あなたの保険の担当者から、必要な情報を得ていただきたいと思います。
そのうえで納得感があれば、がん保険などへの加入を考えても良いと思います。適切ながんに対する事前の情報が得られ、がん保険の必要性についても納得がいったとしたら、家計に大きな負担とならないレベルでしたら、がん保険加入にも一定の効果があると思います。
ただし、ひとつ大事な注意点があります。もし、あなたの担当者が、がんに対してあまり知識がないようでしたら、別のところであらためて相談してください(※2)。まして、がん保険には加入はしない方がいいと思います。がんを勉強していない人が提案するがん保険、いざという時に役にたたないリスクもあります。
※2 別のところで相談については、過去の記事「がんの備え|『がん保険選びにもセカンドオピニオン』一番大切なことは、オトクながん保険選びではない、というはなし」や「がんの備え|『がん保険の相談したい、と確かに言ったけど…』お店で相談したけど、スッキリしなかった…、というはなし」を、是非ご覧ください
がん保険加入だけでは意味がない
世の中では、
・がんへの備え=がん保険
・がん保険に入っているから、がんは安心
と考えていらっしゃる方が確実にいます(※3)。少なくとも過去に私が担当させていただいたお客様の中にはいらっしゃいました。その方たちへは、必ず訂正をさせていただきました。
・がん保険は、あくまでがんの治療費に対しての安心である
・がんは、お金(がん保険)があるだけでは戦えない
この2点を特にお伝えしていました。
がんの診断を受けた時に、最初にダメージを受けるのは、メンタル面です。そして、冒頭でお伝えしたとおり、主治医の先生は、告知をしてすぐに治療のはなしをします。ですからメンタルの次に出てくるのが、知識(情報)です。その提案された治療で納得できるのかどうかという判断をするための。
お金は、治療が終わってから発生するものです。ですから、お金があるだけでは、がんとは満足に戦うことはできないということです。『がん保険に入っているから安心』は、実は怖いことだということを押さえていただきたいと思っています。
※3 がん保険に入っているから、がんは安心については、過去の記事「がんの備え|『がんは若い時に、会社で終身保障のがん保険に入っているから安心なんだ!』とおっしゃったお客様との出会い」を、是非ご覧ください
情報を精査し、納得して判断を
がんはまだまだ分からないことが多く、この治療をすれば必ず治るという治療方法は確立されていません。ですから、主治医の先生と良好なコミュニケーションをとり、最終的には自分で納得して治療の選択をすることが大切だと思います。
冒頭で触れた、『主治医の先生からは手術を提案された、自分では切らなくてできる治療がいいのでは?』と感じているようなケースで、気持ちがあいまいなまま結論を出すことは、治療の後にもしこりが残りそうです。『あの時あっちを選択していれば…』というような。
まずは標準治療を吟味
万が一がんの診断を受けてしまった場合、ほぼ確実に主治医の先生から診療ガイドラインに基づいた、標準治療を提案されることになります。最も科学的根拠に基づいた治療であるので、まずはその治療について、主治医の先生から、治療後の結果の見込みや、メリット・デメリットなどについて、可能な限り説明を受け、思いついた疑問をすべて聞いて、かつ記録をとっておくことが大切だと思います。
まずはその標準治療を吟味して、そのうえでも他の治療についても検討したければ、標準治療に対してという観点で、そのメリット・デメリットを比較していくことが合理的であると思います。
他の治療情報は自分で取りに行く
ちなみに、他の治療の検討をしたい場合には、主治医の先生に詳しく聞くことは、基本的にできません。自分が知りたい治療を、実際にその治療を行っている病院で、かつその専門医にはなしを聞きに行くことが必要となります。セカンドオピニオン外来などという名称で、その治療のはなしを聞ける場所も存在します(※4)。
基本的には、予約が必要でかつ費用も掛かります。また、主治医の先生から、診療情報提供書や画像検査結果などを準備してもらう必要もあります。本当の情報を取るためには、時間とお金と労力がかかります。
他ではなしを聞いたけど、やはり主治医の先生から提案された治療を選択する可能性もあります。ですから、どのような判断をするにしても、主治医の先生とも良好な関係を維持しているに越したことはありません。
がんの告知を受けた直後から、そういったことをサクサク行うことは、実際には、それほど簡単なことではありません。これが、元気なうちに知識(情報)を得ておくことの意義だと私は思っています。
そのように考えると、がん保険を扱っている人というのは、本来ものすごく重い責任を負っているのだと私は思います。是非、みなさまもがん保険を考える際には、『安くておススメのもの』を勧めてくれるというだけでなく、適切な情報を提供してくれる担当者と出会っていただきたいと思います。
なぜなら、他にがんを考える機会はほとんどないからです。
※4 セカンドオピニオンについては、過去の記事「がんの備え|がん治療におけるセカンドオピニオン。取り方を間違えれば、目的が果たされない可能性があるはなし」を、是非ご覧ください
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